59 北門外の戦い 上
北門外での戦いは、開始から五分で『ふれあい動物広場――ガブリもあるぞ!――』という感じになっていた。それというのも、北地区の広場にはボクたち『わんダー・テイみゃー』――やっと名前が決まりました――のギルドメンバーが集まっていたからだ。
既にテイムモンスターたちは、帝国の兵士たちを敵ではなく、遊んでくれる人かおもちゃのように思っているようで、突進して行ったり、空からダイブしたり、後ろから忍び寄ったりしていた。
その度に「ぎゃー!」だの「ひょえー!」だの「ま、ままー!」だのと悲鳴が上がり、帝国兵たちが消えていった。
大事なことなので二回言います。帝国兵たちは消えていったのです!
どうやらHPが危険域に達すると、自動で逃げるための道具が発動するようになっているみたい。
上位冒険者の必需品――かなりお高いので初心者には手が出せないとも言う――である帰還石の強化版みたいなものらしい。
そんな訳で、
「死なないなら、テイムモンスターたちが思いっきりやってもいいよね!」
「どんどんアイテムを使わせて、帝国の力をそぎ落としちゃおう!」
良心の呵責もなく全力でテイムモンスターたちをけしかけ、じゃなくて、遊ばせているという状態になっているのだった。
「一番プレイヤーの数が少なかったから援護がいるかと思ったけど……。まったくその必要はなさそうだな」
「いや、実際戦って?いるのはテイムモンスターだけだし、過剰戦力じゃないか?」
連絡係のプレイヤーさんたちが呆れたように報告していた。
まあ、テイムモンスターたちがレベルアップして巨大化するに従って、街中では専用収納ボックスに入れている――お金持ちどもめ!――というテイマーも増えたからね。
ぱっと見、人数不足で苦戦するんじゃないかって思っても仕方がない。それが、実際に蓋を開けたらこの有様なんだから、呆れもするというものかな。
さてさて、警告も何もないから元気なはずだけれど、うちの子たちは何をやっているかな?
イーノとニーノは他の猪型のテイムモンスターたちと一緒になって楽しそうに走り回っていた。昔のギャグアニメのように逃げている兵士たちがお尻を小突かれては飛び上がっている。
不思議なことに、お尻を押さえながら両足を揃えてのジャンプなのに、走るスピードが全く落ちていない。新米とはいえ、兵士ということなのかな?
鬼教官から「このクソ虫ども!」とか怒鳴られながらしごかれていたのかもしれない。
ワトとビィは……?いた!コッカトリスのビィトになっている。
体格変化技能で大きくなっているので、巨大なヒヨコな状態だ。その姿に味方は皆ほにゃあ、と骨抜きになっていて、一方の帝国兵士たちも攻撃していいのか迷っていた。
あ、尻尾の蛇がそんな兵士たちに麻痺の息を吐きかけている。突然の奇襲になす術もなく次々と痺れていく。すると、ビィトが……、跳んだ!?
身動きの取れない兵士さんたちにフライングピップアタック!?
あ、あんたって子は……。可愛い顔してえげつない真似を……。
ぐっじょぶ!
ぐっ、と親指を立ててあげると、嬉しそうに跳びはね始めた。うん、味方を巻き込まないように注意してね。
こんな具合でレベルがそれほど高くないうちの子たち――イーノとニーノが十八レベル、ワトとビィは十六レベルになった。ちなみにボクは二十レベルで上位職になっているよ――ですら、いわゆる無双状態なのだから、高レベルプレイヤーのテイムモンスターに至ってはまさに蹂躙。
お話になっていなかった。
あちらの読みが甘かったと言ってしまえばそれまでなのだけれど、トッププレイヤーたちに協力してもらって一気にレベルを上げているなんて思ってもみないことだろう。
もしかすると第三陣の新規プレイヤーでも参加できるように、という――運営さんの――配慮だったのかもしれない。
そんな感じで一方的だった戦場に変化が訪れた。逸早くその違いを察知したテイムモンスターたちは、兵士たちを追いかけるのを止めて、それぞれの主人の元へと戻り始めた。
「なにが起きるんだ?」
「この流れは……、お約束ならボス登場じゃないか?」
「その前に強めの雑魚、今回なら上級兵とかが大量に出てくるとかもありそうじゃない?」
「ボスは将軍かな?それとも巨大ゴーレム?」
「おい!フラグを建てるようなことを言うなよ!どっちも出てきたらどうするんだ!?」
今までが余裕だったから、皆結構好き勝手なことを言ってるよ。ボクとしてはテイムモンスターたちが大けがをしない程度のそこそこな強さの相手が良いと思います。
あ、できれば経験値とドロップアイテムはマシマシでお願い。
そんなことを考えていると、追いかけ回されてへとへとになった兵士たちの間から全身鎧姿でフルフェイスの兜を被った強そうな人が現れた。
「お前たち……!よくも好き勝手やってくれ――」
「攻めてきたのはそっちだろうが!」
「なにを被害者面してやがる!」
「顔、見えないけどな。よくあれでまともに声が出せるな」
「あんたたちの方が身勝手じゃない!」
「さっさと帰りやがれ!」
うん、いくらゲームのイベントとはいっても今のは言葉が悪かったね。途中で遮られて皆から怒鳴り返されていた。
「かーえーれっ!かーえーれっ!かーえーれっ!かーえーれっ!」
そして巻き起こる帰れコール。
あ、鎧男がプルプル震えている。怒ったのかな?
「う。うるさい!うるさーい!俺だって来たくて来た訳じゃないやい!皇帝陛下に言われたから仕方なく来たんだい!」
兜のバイザーを上げた下から出てきたのは、まだ子どもといっても差し支えのない少年だった。誰も彼も言葉をなくす。それもそのはず、その子はえぐえぐと泣きじゃくっていたのだ。
「か、可愛い……!」
副官と思われる人から差し出された手拭いでゴシゴシと涙を拭っている姿に、数人のお姉さま方がバキューンと打ち抜かれて、よろめいたり蹲まったりしていた。
そんな彼女たちにそれぞれのテイムモンスターたちが心配そうにすり寄っている。それを見てさらにほんわかと和むボクたちテイマー一同。
「主力が一瞬で瓦解しただと!?」
「帝国の将軍は化物か!?」
と、そんな風にまったりしながら大混乱?という世にも奇妙な状態になったところに、
「ついに俺たちの出番のようだな!」
あるパーティーが躍り出てきた。
『ワンダー』の意味はさ迷うの方ではなく、お散歩の方です。




