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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
5 帝国との抗戦
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58 男の正体

直後のお話ですが、新章に移ります。

 各門への帝国軍の展開の知らせを受けて、ウチの前に立つおじさんが偉そうなことを言っている。

 だけど、残念。こちらはそのくらい想定済みだ。むしろ予想していた中では、一番対処が簡単なものと言っていい。


「その程度でウチらに勝ったつもり?」

「なんだと?」

「さあ、プレイヤー(冒険者)の皆!お祭り第二部の始まりだよ!!」


 ウチの呼びかけと同時にプレイヤーたちにインフォメーションが届く。


〈大規模イベント、防衛戦。迫りくるモーン帝国軍から古都ナウキを守ろう。

 勝利条件、モーン帝国軍の撃退。

 敗北条件、東西南北各地区にあるいずれかの広場への帝国軍の侵入。

 注意!イベント中はデスペナルティが通常のものに加え、イベントへの再参加不可が発生します〉


 うおおおおおおお!!!!鬨の声さながらに大声を上げながら冒険者たち――感化されちゃった様子のNPCを含む――が南門へと向かって行く。その様子を帝国から来た男たちは呆気にとられながら見ていた。


「バカな……。我が軍とは数倍から数十倍の戦力差があるのだぞ?どうして嬉々として戦場へと赴けるのだ……」


 それはウチらがプレイヤーだからだよ。死なない、という強みもあるし、何より初の公式な大規模イベントということになるから、盛り上がらない訳がない。

 そんなこと言っても、この世界の住人であるNPCの彼らには理解できない――当たり前だけど――から、言わないけどさ。

 それに、街の人からすればいい迷惑な話だし。


「タクロー君!予定通りウッケンさんたちを中央区画までお願い」

「了解です。俺たちはあその後、警護隊や神殿騎士の先輩たちと一緒に街中の巡回に入ります」

「おっけー。後は現場の判断で動いてくれていいから。あ、PKギルドの連中(おじゃまむし)には気を付けて」


 現状一番危険だと思われるのは、帝国の軍隊じゃなくて同じプレイヤーだろうからね。

 おじさんたち?レベルはそこそこ高いみたいだけど、ウチらの敵じゃない。帝国の動きを察知してから、多くのプレイヤーがレベルアップに励んできた。

 バックスさんのようにPvPを繰り返すことでプレイヤースキルを磨いていた人もいる。さらに、トッププレイヤーたちにも声をかけて戦力を拡充していた。

 要するに、帝国はウチらに情報が漏れた時点で、勝ちの目を失っていたのだ。


「それじゃあ中央区画に向かいますので、一緒に行きたい人は付いて来て下さい」

「さて、ということで、おっさんたちの身柄も押さえさせてもらおうか」


 タクロー君たちを見送ると、バックスさんはおじさんたちに振り返ってそう言った。ちなみに、昏倒している部下の人――死んでなかったよ――は既に捕縛済みだ。


「我らを交渉の材料にするつもりか」

「いいえ。邪魔になりそうだから捕まえておきたいだけよ」

「なっ!?ふざけるな!我を誰だと思っている!」

「どなたなのでしょうか?名乗られてもいませんから知りようもありませんね」


 さらりと燃料を投下するマイっち。沸点が低いのか、おじさんは真っ赤になっていた。それじゃあダメ押しいってみようか。


「そういえば、聞いたのに答えてくれていなかったよね。それなのに、誰だと思っている!だなんて、自意識過剰なんじゃないの?」

「こ、このモーン大帝国皇帝である我に向かって、自意識過剰だと!?」


 おー、偉そうにしていたからそれなりの地位の人かな、と思っていたけど、まさか皇帝本人が来ていたなんて……、


「って皇帝!?」


 ええ!?なんで一番偉い人がこんな所に!?


「多恵ちゃん、落ち着いて。どうせ、最初の口上でこちらが降伏するとでも思っていたのよ」


 マイっちが宥めてくれたお陰で、それほどかからずに冷静さを取り戻すことができた。


「マイっち、もしかして知ってた?」

「ついさっき、連絡が入って来たばっかりだったけどね。それと、各門の前で戦闘が始まったそうよ。こちらの強さに驚いているみたい」


 古都ナウキの周囲に出てくる魔物の強さに合わせて、帝国軍は比較的レベルの低い新兵などを中心とした構成だったらしい。

 対して、ウチらが把握しているこの街を拠点にしているギルドのメンバーは、最低でもレベル二十で上位職へと変わっている。想定していた強さと全然違うのだから、そりゃあ驚くよね。


「なあ、今の()帝国って言ったのは、突っ込むところなのか?」


 バックスさんは、おじさんが皇帝だったことは全く気にせずに、何かに悩んでいた。むしろそんなあなたに突っ込みたいです。


「まあ、いいか。さっさと捕まえよう」


 そして、ウチが突っ込むよりも前に、どうでもいいと自己完結しちゃった。


「皇帝の身柄はオレたちが預からせてもらう」

「ぐはっ!?」

「げふっ!?」


 どこからともなく忍者装束の一団が現れると、おじさんの配下の残る二人が一瞬で倒されてしまった。


「何者だ!?」

「問われて名乗るもおこがましいが、ギルド『ナンジャニンジャ』の精鋭、ゴニンジャーとは俺たちのことだ!」


 ビシッ!とポーズを決める闖入者たち。


「気を付けて!ふざけた名前だけど『ナンジャニンジャ』はイリーガル系のギルドの中でも特に危険な連中よ!」


 マイっちの警告が響く。その証拠とばかりに、奇襲された配下二人は死んでいた(・・・・・)


「彼らの場合、こういう時ってどういう扱いになるの?」


 込み上げてくる嫌悪感を抑えながら誰にとなしに尋ねる。


「遺体が消えていかないところを見ると、イベントの関係者となっているはずだから、回復魔法の『蘇生』か、神殿の『復活』の奇跡で生き返らせることができると思うわ」


 回復魔法を使える知り合いは何人かいるけど、『蘇生』まで習得しているプレイヤーに心当たりはなかった。


「なんにせよ、落ちつかないと対処のしようがないってことね」


 現在広場に残っているのは連絡係の数人だけだった。バックスさんを除けば戦闘能力も戦闘経験も余りない面子ばかりだ。加勢が来るまで保つかどうかも怪しいところだろう。

 それでも何もしない訳にはいかない。『プレイヤー同士の攻撃判定の有無の設定』をオンにして、アイテムボックスから愛用のお玉を出して構える。

 その隣にマイっちもフライパンを両手に持って並んだ。


「料理人が俺たちと戦うだと?舐められたものだ」

「今ここで戦うことができるのはウチらだけって話。強い相手と戦いたいなら門の所に行けばいくらでもいるよ」

「PvPがしたい訳ではないから遠慮しておこう。……せめて一撃で終わらせてやる」


 忍者たちが構える。ちなみにウチらに一人が、そしてなんとバックスさんには三人が囲むようにしていて、残る一人が皇帝のおじさんを見張っていた。


「こりゃあ、厳しいな」


 バックスさんが台詞の割に楽しそうな声音でそう呟いた瞬間、


「げふ……」


 バタリと、糸が切れた人形のように忍者たちが崩れ落ちていった。


「な、なに?」


 突然の出来事に頭が付いていけていない。混乱している間に、HPを全損したゴニンジャーたちは次々と消えていく。


「危ないところだったな」


 と、広場に入って来たのは、光輝く鎧を身に付けた神殿騎士の一団だった。

 見ると、手には投石用武器(スリング)のようなものを持っていた。PKギルドの乱入に続き、また彼らのお陰で助かったみたいだ。

 ウチとマイっちは、ぺたんと座りこむと、


「あー、怖かった」

「腰抜けちゃったわ」


 と笑いあったのだった。


全てのPKギルドや非合法ギルドが帝国と協調関係になった訳ではなく、『ナンジャニンジャ』のように独自に動いているところも多くあります。


「忍者はすべて滅ぶべし!」と忍殺的なキャラを出そうかとも思いましたが、流石にやり過ぎな気がしたので止めました(笑)。

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