57 祭りの終わり
イベント進行の際の不手際だとか、迷子だとか、空き巣狙いだとか、酔っぱらい同士の喧嘩だとか、誘拐騒ぎだとか、複数のPKギルドの乱入だとか、若干のトラブルはあったものの、古都ナウキで九日間に渡って行われたプレイヤー主催のお祭りは、今、終わりを迎えようとしていた。
メイン会場の一つである、ここ南地区の広場では、この街の首長であるウッケン氏――と数名の議員――を招いて最後の挨拶が行われていた。
北地区や東地区の広場でも、街の有力者とその家族を迎えて同様の挨拶がなされているはずだ。
なぜプレイヤー主催のイベントに街の有力者というNPCが参加しているのか?
表向きはプレイヤー、つまりは冒険者と街の住人の融和を図るためということになっているが、実際には彼らを守るためだ。
ギルド『諜報局UG』のメンバーが調べたところによると、モーン帝国側は、祭りが終わるタイミングで何かを行うことを画策しているらしい。
別に空気を読んで祭りが終わるまで待っていた訳じゃない。向こうは冷静に行動を起こすのに最良の機会を見計らっていただけだ。
祭りでは、食べ物を中心に様々な物が安く、時には無料で振る舞われていた。当然、その分資材は減っている。
そして、PKギルドや非合法ギルドが起こした騒ぎで、俺たちプレイヤーも疲弊している。その隙を突くつもりなのだ。
既に最初の会合の時にもこの展開は予想されていた。しかし、その時には祭りの準備がかなり進んでいたので、中止することはできなくなっていた。加えて「そんなことでせっかくの祭りを中止するなんて嫌だ」という声が多く上がったということもある。
そんな訳で俺たちは周囲の警戒をしながら、次のイベントが始まるのを待ち構えているのだった。
「バックスさん」
呼ばれて振り返ると、そこにはタクローたち三人がいた。
「おう。見回りごくろうさん」
「こっちの進行具合はどう?」
「順調だな。順調過ぎて怪しんでしまいそうになる」
俺たちがいるのは広場の端の端だから少しくらい話しこんでも誰の迷惑にもならない。一応周囲に目を配りながら、情報を交換し合う。
「他の所も大きな問題はなく進んでいるそうです。先輩たちがいるから当然といえば当然ですけどね」
タクローは祭りで警護隊などが人手不足になることを見越して、神殿騎士団本部から神殿騎士を多数派遣してもらっていた。
神殿騎士団としても、タクローのようなプレイヤーの新人を獲得する絶好の機会であったのか、予想を大幅に上回る人数がやって来て、住人たちが驚くという一幕もあった。しかし、その分働きは凄まじいの一言に尽き、PKギルドの乱入などは、彼らのお陰で事なきを得たようなものだ。
「大きな問題はない……、ということは何か小さな問題はあったのか?」
「東の広場で、緊張した議員さんが舌を噛んで治療する騒ぎになってましたよ」
「後はフリースペースになっている西地区の広場で、はしゃぎ過ぎた何人かが反省室送りになっていたわ」
ユキと雨ー美の回答に思わず吹き出しそうになった。平和だな、おい。
しかし、嵐の前の静けさともとれるから、まだまだ気を抜く訳にはいかないだろうな。耳を傾けると、長々と続いていたウッケン氏の挨拶も最終盤といった様子だった。
「えー、これからも冒険者の方々と、えー、我々住民が手を取り合って、えー、この街を繁栄させていくべく――」
「その必要はない!」
その挨拶を遮るように聴衆の中から声が上がる。ざわつき始める人々を後目に、俺たちは行動を始めた。
「締めの挨拶を邪魔するような無粋な人は誰?」
ウッケン氏を下がらせた壇上では、代わりに上がってきた多恵が声の主を誰何していた。
戦闘能力が低い彼女が矢面に立つのは、一見するととても危険なことのようだが、向こうはやろうと思えばいつでも攻撃する機会があったはずだ。今更それを台無しにするようなことはしないだろう。
そして俺たちのその予想は当たった。聴衆を割って壇上へと現れたのはがっしりとした体格の初老の男だった。その後ろに三人の男たちが付き従っている。
外套で隠されているが、全員その下には鎧を着こんでいるようだ。しかし、有名ギルドの長を務めているだけあって、四人の偉丈夫を前にしても多恵には委縮した様子は見られない。
「あなたの言葉はこの街の繁栄を否定しているように聞こえたけど、どういうつもり?」
「どうもこうもない。そのままの意味だ。今日からこの街は我がモーン帝国の管理下となるのだからな」
「ふぅん。それはなに?宣戦布告?ウチらに喧嘩を売っているの?」
「ふん!お前たちのような冒険者どもでは相手にもならんわ!」
「それはやってみないと分からないだろう」
俺は一気に壇上へと飛び上がると、多恵を庇うようにして男の正面に立った。その頃にはタクローを始め警戒に当たっていた者たちの半数が壇を取り囲んでいた。
「身の程知らずが……。やれ」
「はっ!」
指示を受けて、右後方に控えていた男が前に出てくる。どうやらこいつが俺の相手のようだ。
NPCと戦うのは初めてだが……。まあ、なるようになるだろう!たぎる血の衝動に任せて担いでいたバトルアックスを男に叩きつける!
ガキン!
その一撃を男はなんと手にした剣で受け止めていた。
「そんな!?」
あり得ない光景に周囲から悲鳴のような叫びが上がる。だが、それは想定済み、いや、
「そのくらいはしてもらわないとな!」
ふっと膝から力を抜いて横へ逃げるように動いてやると、重さが掻き消えたことについていけず男はたたらを踏んだ。その隙に男の側面へと滑り込む。
どこかで聞きかじった古武術的な動きを真似てやってみたのだが、存外上手くいったようだ。
そのまま円を描くように遠心力を加えて、戦斧を男の背中へと叩きこむ!
「ごはっ!」
つんのめるようにして前方へと吹っ飛び倒れ伏すと、男はそのまま動かなくなった。
どっと歓声がわき上がる。
「どちらの、誰が、身の程知らずだって?」
「チッ!」
俺の言葉に、初老の男は忌々しそうに舌打ちをする。
その時、広場に警護隊員と思わしき人物が飛び込んできた。
「で、伝令!南門の外にモーン帝国軍が展開しています!その数およそ千!残る門にも同数かそれ以上が展開しているものと思われます!」
それを聞いた初老の男は再び余裕綽々といった表情を張りつけていた。
「そういうことだ。お前たちがどんなに足掻こうとも未来は変わらんのだ!」
次話から章は変わりますが、まだまだ続きますよー!




