56 ある日 街の中 変態さんに 出会った
私はメイプル。
今日、この『アイなき世界』にやって来たばかりの新米プレイヤーだ。
さて、中央区画にある住宅街で遭遇した怪しい男たちの格好を紹介しよう。
頭の天辺から爪先まで全身黒尽くめ。どうしてそんな姿なのに男だと分かったかというと、タイツのような体にピッチリと張りつくタイプの衣装だったので、とある部分が盛り上がっていたから。
変態さんの一種だろうか?
うん。リアルでは絶対に遭遇したくないね。
ところで、この世界は『光雲』のお陰で常に明るい。つまり闇夜がないので、黒尽くめはとても目立つのだ。そのことを彼らは理解しているのだろうか?
それはともかく、この突然の出会いに驚いていたのは私だけじゃなかった。
「こんな所にやって来るやつがいただと!?」
「見張りは何をやっていた!?」
思わず、落ち着け!と言ってやりたくなるくらいに、黒尽くめーズはワタワタしていた。
それより「こんな所」なんて言うほど、奥まった場所なのだろうか?確かに観光気分で一度、横道にそれた覚えはあるけれど……。
わお!マップを確認すると、よくこんな所に入り込んできたなって言うくらい奥まで来ていました。高級住宅街なら区画整理して通り易いようにしておいてもらいたいよね。
八つ当たりはこれくらいにしておくとして、問題なのはこの不審者たちをどうするか、かな。
頭上のマーカーは……、緑。プレイヤーかあ……。
NPCなら『アイなき世界』お得意の突発性のイベントか隠しクエストの可能性もあったのだけど、違うみたい。
そして、この時点で戦闘は選択肢から外れた。
こちら、私一人。しかもレベル一の超初心者。
変態黒尽くめ軍団、最低二人。見張りがいるようだからパーティー最大数の六人はいると考えた方がいい。レベルも当然それなりにあるだろう。
戦力差は歴然、向こうからすれば「圧倒的じゃないか」と言いたくなるシチュエーションだろう。
「どうする?やるか?」
「待て!良く見ろ、相手はプレイヤーだ。戦いにすらならない」
物騒なことを呟く相方に、もう一人が冷静に告げる。
「ちっ!対人戦もできない雑魚かよ。……なあ、それじゃあ、あれをやってみないか?」
そう言った男がニタアと、覆面越しでもはっきりと分かる嫌な笑みを浮かべた。
「しかし、あれは時間がかかるぞ」
続いてもう一人もニタア。否定的な意見を口にした割に嬉しそうだね、君も。
「いいじゃねえか。ただ、殺すだけっていうのにも飽きてきてたんだ」
「そうだな。邪魔をされた分はやりかえさなきゃいけないよな」
舌なめずりを――本当にしている人を始めて見ました。いや、正確には覆面で見えていないんだけどね――しながら、二人の男はにじり寄ってくる。ここまでくると、ロールプレイではなく、本気でいっちゃっているように思えるわ。
とりあえず、話の文面から碌でもないことを考えているのは分かった。
だからこちらもすぐに手を打つことにした。
マジックボックスから小さな笛――スポーツで使われるホイッスルタイプの物――を取り出すと、思いっきり吹いた。
ピイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!
大音量が路地に響き渡る。この笛は西地区の広場を出る時にもらったものだ。居場所を知らせるための物だと聞いていたけれど、これじゃあ音響武器だよ!?
音の衝撃をまともに受けた男たちは、脳震盪を起こしたのかフラフラしていた。
「どうした!?何事だ!?」
そして追加される全身黒タイツ男ども。
まあ、どこかで聞き付けたお祭り実行委員や警備関係者がやって来るよりも、近くで見張りをしていたヘンタイの仲間が来る方が先になるよね。
仲間の手厚い介抱を受けて、二人の男たちも復活してきた。
「ふざけた真似しやがって!」
「覚悟はできているんだろうなあ!」
怒鳴り散らすヘンタイたち。ゲームシステム的に貞操の危機については心配しなくていいのは助かるけれど、一体何をしてくるつもりなのかしら?
まったく、開始早々にとんでもない目に合ってしまったなあ。
見張りをしていた連中も合流したので、向こうの数は六人になっている。戦力差は絶望的で、囲まれてしまえば逃げることもできないだろう。
後、私にできることといえば、一刻も早く援軍がやって来る事を祈ることだけだ。なむなむ。
「そこまでだ!」
そんな――適当な――祈りが通じたのか、それともただ単にヘンタイ達の行動が遅かったのか、私とヘンタイたちを取り囲むように数人の男女が現れた。
「なっ!?」
「いつの間に!?」
「神殿騎士だと!?タクローか!?」
「警護隊もいるぞ!?」
ヘンタイたちは驚き戸惑っている!今だ!
「『閃光』!!」
いつでも使えるようにと準備だけはしておいた光属性の初級魔法――攻撃力はなし――を発動させる。
「うぎゃあ!!」
「目が、目があ!」
空飛ぶ島の王になり損ねた悪役のような悲鳴が聞こえてきたけど、気にせずにくるりと回れ右して逃げる。そういえばあのシーンをを始めて見た時、目玉が飛び出している、という猟奇的な想像をしてしまったのは何故なのだろう?
「たっくん、女の人は無事だよ!」
「皆、やっちゃって!」
二人分の女性――それとも女の子かな――の声が響いたかと思うと、男性たちが突撃を開始して……。私の『閃光』で視界が潰されていたこともあって、ヘンタイたちはすぐに、全員御用となった。
「俺たちを捕まえても、第二、第三の盗人があらわべふ!!」
「やかましい!ただでさえ祭りの警備で忙しいのに、余計な仕事を増やすな!」
簀巻き状態で何やら言っていた変態の一人を一蹴りで黙らせると、司祭っぽい服装の女の子が腹立たしそうに怒鳴った。っていうか今、顔面蹴ったよ、この子!?こわっ!
「タクロー君、後は我々が引き受けるから、君たちは見回りの続きを頼むよ」
「分かりました」
それでは、と挨拶を交わして、男性たちの半数がヘンタイたちを引きずって去っていった。
ちなみに私への事情聴取は、
「お上りさんなので、うろうろしていたらあいつらに遭遇しちゃいました」
「そうですか、災難でしたね」
の一言で終わっていた。
「どうもありがとうございました」
残った人たちと一緒に大通りに向かう途中でお礼を告げる。
「いえ、こちらこそ悪党を捕まえる手助けをしてもらってありがとうございました」
一行のリーダーだと思われるタクロー君が爽やかな笑顔を向けてきたと同時に、背後から凍りつくような冷気が襲いかかってきた。
振り向かなくても出所は分かっている。魔術師風の衣装の女の子と、顔面を蹴りつけた司祭風の衣装の女の子の二人だ。
そんなに睨まなくても取ったりしないよ。
苦笑していると、タクロー君は不思議そうな顔をしていた。
仲が良さそうだし、三人はリアルでも幼馴染とかそういう関係なのかもしれないね。まあ、頑張って苦労しなさいな。
ラブコメの香りを漂わせる三人に囲まれながら、私はヘンタイどもに遭遇したことを記憶の彼方へと消し去ることにしたのだった。
メイプルさんの件の感想は実は僕のものです。
目を押さえながら歩いているだけのシーンなんですけどね。本当にどうしてそんなふうに思ったんだろ?謎です。
後、ヘンタイたちがメイプルさんにやろうとしていたのは、『新人いじめ』がやっていたことです。邪魔をされた腹いせに、トラウマを植え付けようとした訳です。
詳しいことは「13 上位職にも希望はない」を参照してください。




