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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
3 魔王軍結成!?
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38 危険な思い込み

「お帰りなさいませ。ミロク様、アリィ様」

「ただいま」


 恭しく臣下の礼を取るジイ――ジイスフット、略してジイだ――に挨拶を返す。


「ただいま戻りました。マスターの留守中に、問題が起きてはいませんか?」

「はい。移住希望も落ち着いたのか、やって来る者はおりませんでした」

「そうですか。しかしいまだに様子見をしている者もいるでしょうから、これで終わったとは考えない方がいいでしょう。それより、既に移住してきた者たちに与える仕事の方が、緊急性が高いですね。全体からみれば狩猟に回っている者は少数ですから」

「ええ。一番効率が良いのは、魔王城建設のような公共事業ですが、さすがに城をいくつも造ることはできませんからな」


 難しい話をしている二人を横目に、オレはソファにだらりと寝ころんでいた。よく分かっていない者がしゃしゃり出ても、碌な事にはならないからな。


「いっそのこと、町ごと造り変えるのはどうでしょうか?」

「ふむ。一考の余地はあると思います。しかし対価となるとなる物、当面は食糧が必要です」

「やはりそこに行きつきますか……」


 ふと視線を感じて起き上ると、アリィとジイの二人がこちらを見ていた。


「どうしたんだ?」

「マスター。理解が悪くて申し訳ないのですが、先ほどの視察は成果があったのでしょうか?」

「上々だったよ。米はなかったけれど大豆は見つかったからな」


 プレイヤーたちと交渉するための、最低限のカードは手に入ったと言っていい。


「忘れてた!アリィ、買ってきた大豆でミソやショウユが作れるか試してみてくれ。急ぎだから魔法の使用を許可する」


 発酵だとか時間促進だとかいう専用の便利な魔法はないが、火属性魔法や水属性魔法を使うことで大幅に時間を短縮することはできるのだ。

 どうして普段から使わないのかというと、答えは簡単。じっくり時間をかけて作った方が美味しく出来上がるからだ。

 今回はホルリアで売られていた大豆でも同じようにミソやショウユが作れるのか、という実験の意味合いが強いので魔法を使うことにしたのだ。


「そのついでに米麹(こめこうじ)……、はまずいから、麦麹(むぎこうじ)を一掴み分持ってきてくれ」


 オレの指示にアリィはすぐに行動を開始する。

 疑問に感じながらも従ってくれるのを見ていると、ワンマン社長にでもなったような気分だ。ありがたい反面、盲信的な感じがしてちょっと怖い。

 きっと、そうなれるだけの信頼関係があると言えるだけの自信がないからだろう。

 何せオレたちは、出会ってからまだ一週間ほどしか経っていないのだから……。


「ミロク様、アリィ様も我々も、決してあなたに全てを押し付けるつもりはありませんので」


 ジイが静かな口調でそう言った。どうやらオレが悩んでいるのと同じように、彼らも色々と悩んでいたようだ。

 魔族たちからしてみれば、突然現れたオレに全権を押し付けたようなものだ。負担に感じているのでは?とか、呆れて見捨てられてしまうのでは?と不安に思っていたのだろう。


「苦労がない訳じゃないけれど、皆と絆を結ぼうと言ったのはオレの方だ。それを誰かのせいにするつもりはないし、なかったことにするつもりもないから」


 こちらも静かにそう告げると、ジイは安心したのかホッと息を吐いていた。


 もしかすると、魔王にされるなんていう特大の理不尽を受けたから、同じように理不尽な扱いを受けてきた魔族たちに同情している部分もあるのかもしれない。

 それでも構わないと思う。ゲームだけど、ゲームだからこそ、やれるだけのことはやっていきたい。


 まずは食糧問題の解決からだな。アリィからの結果報告を受け次第、古都ナウキへと飛ぶつもりだ。

 そこで料理をしているプレイヤーたちと交渉して食材を手に入れる。

 貴重な情報だ、安売りをするつもりはない。悪感情を抱かれるのは覚悟の上で、むしろできるだけ高値で売り付けるつもりだ。


 どうせ魔王だし……。

 どうせ既に『新人いじめ』を始めとしたPK集団には狙われている身だし……。


 と、ちょっぴり悲壮な覚悟を決めていると、アリィが戻ってきた。


「マスター、ホルリアの大豆でも問題なくミソもショウユも造ることができました。それと、こちらが麦麹です」

「よし!それじゃあ、プレイヤー(冒険者)が多く居るラジア大洞掘の古都ナウキへ行くか!」


 気合を入れる意味も込めて目的地を口にする。


「お供いたします」


 すると、アリィが同行を申し出てきた。

 超が付くほどの美人さんであるアリィを連れて荒くれ者の冒険者がたむろする古都ナウキへ行く?

 もめごとの予感がする。むしろトラブルの予感しかしない……。

 それにNPCとは違ってプレイヤーは動きが読みにくいところがある。非戦闘地域である街中でも平気で攻撃してくる――ダメージ自体はないけれど、恐怖を感じることに変わりはない――やつもいる。


「魔王であるマスターほどではありませんが、私も魔族の一員です。それなり以上に戦うことはできます。決して足手まといにはなりません」


 いや、その辺りは心配してないです。

 ここ数日一緒に行動していて、アリィの能力は大体把握できている。ミスターサンシターでは足元にも及ばないだろう。

 そしてとある部分の戦闘力――破壊力というべきか!?――も高いしな!だけどそちらは美人さんなこととも相まって、必ず騒動の種になってしまうだろう。


「それに同じ魔族相手ではありますが、交渉の経験もあります。失礼ながらマスターにそのような経験はないように見受けられましたけれど?」


 う……、痛いところを突いてくるなあ……。

 確かに一緒にいてもらった方が、絶対的に有利ではある。


「ミロク様、いえグドラク様。どうかアリィ様の同行をお許し下さい。

 先ほどの話ではありませんが、我々にできることがあるならば、それをやるべきだと思うのです。

 それに何より、そろそろ我々魔族も内に引きこもるだけではなく、外へと意識を向けるべき時になっているのです。そのための第一歩を踏み出させてはもらえないでしょうか?」


 はあ……。どうやらオレはイタイ勘違い野郎になっていたようだ。

 頼られたことで、全部自分で何とかしないといけないと思い込んでいたが、振り返ってみれば魔族の皆は必要以上に依存しようとはしていなかったのだ。


「分かった。アリィ、一緒に来てくれ。絞り取れるだけ絞り取る予定だからそのつもりでな」

「はい。それでは参りましょう」


 そしてオレたちは後のことをジイに任せて、『始まりの地』古都ナウキへと『転移』……、するのは明日にして、今日はここでお開き。ログアウトすることにしたのだった。


ちょっと真面目っぽい雰囲気になっちゃいましたね。


次回はテンプレな展開の予定です。グドラク君の悪い予感が当ります。

まあ、運が最低値固定ですからね。仕方ないね(笑)。

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