39 こ、これがテンプレート……!!
皆さんこんにちは。この前に引き続き、頭痛が痛い状態となっているグドラクです。
何があったのか?
これです。
「よう、兄ちゃん。随分と綺麗どころを連れて歩いているじゃねえか!」
「姉ちゃん、そんなやつは放っておいて俺たちと飲もうぜ!」
古都ナウキに『転移』して三十秒で絡まれた。
な、頭痛が痛いだろう。
転移門のある広場から出た途端のことだった。ちなみに、一度でも訪れたことのある町では転移門へと――もちろん転移門がある場合に限る――移動するようだ。
「なるほど。マスターが危惧していたのはこういう事態だったのですね。知らなかったとはいえ、御配慮を無駄にしてしまい申し訳ありません」
「いや、説明不足だったオレの責任でもあるから気にしなくていい」
しかもこんなに早く。
広場から出てすぐの大通りなんですけど?
人が大勢いるんですけど?
ちょっとサウノーリカ大洞掘へ行っている間にマナーの悪いプレイヤーが増えたのだろうか?
そう。絡んできた二人組はNPCではなくプレイヤーだったのだ。
「おいおい、無視しないでくれよ。寂しくなっちまうじゃねえか」
酒臭い。つまり二十歳以上ということだ。
リアルでの年齢が二十歳以上に限られるが、VR型の娯楽商品には飲酒を売りにしているものも多い。いくら深酒をして酔っぱらっても、翌日に残ることはないからだ。
その分無茶な飲み方をして周囲に迷惑をかける人が続出しているという話だったが、こいつらもそんな連中だったという訳だ。
さて、『アイなき世界』において酒に酔った状態というのは、『酩酊』という状態異常として扱われる。
更にこうした状態異常には段階があって……、とこれはまたの機会に説明することにしよう。
とにかく状態異常の一種なので、
「『解除』」
状態異常を解消させる回復系魔法で消し去ることができるのだ。
「何しやがる!?」
だけどこの二人にはお気に召さなかったのか、大声で怒鳴り始めた。
「何って、状態異常を回復させただけだぞ。このままじゃ怪我をしそうだったからな。あ、お代はいらないから」
オレの台詞に周囲の至る所からくすくすと笑い声が上がる。
「ふざけた真似しやがって!」
「よくも恥をかかせてくれたな!」
「元々恥はかいていたと思いますが?酔っていて気付けなかっただけでしょう」
わーお!アリィさん、さらっと燃料を投下しましたね。
おうおう、血管が切れる音が聞こえてきそうなほど真赤な顔してるわ。
さて、どうしたものか。売られた喧嘩は買ってやる!と叩きのめすのは簡単なのだけど、それをやっちゃうと犯罪歴が付いてしまうかもしれないんだよなあ……。
目撃者は多いけれど、証人になってくれるとは限らないし。まったくもって世知辛い世の中ですね。
おっと、アリィはそんなことは知らないだろうから、ちゃんと伝えておかないと。
「アリィ、いくら向こうから攻撃してきても、手を出しちゃいけな――」
「生意気なこと言ってんじゃねえ!」
「ふっ!」
ずったーん!
「一本!」
どこからともなく勝敗が決まったことを告げる声がした。「おお!」「すげえ!」という歓声やパチパチパチと手を叩く人もいる。
うん。綺麗な一本背負いだったね。
もしもリアルでやったら石畳の地面に叩きつけられて大惨事になるところだったね。ゲームの中で良かったね!
「って良くないよ!?」
うあー、一足遅かったか。
切れた元酔っぱらいその一が殴りかかってきた腕を掴んで、アリィは背負い投げを決めてしまった。
おーおー。投げられた方は何が起きたのかも分からずに、目を瞬かせている。
「こ、この野郎!」
「あー、うるさい」
性懲りもなく元酔っぱらいその二が暴れようとしていたので、腕を後ろに捻り上げて地面に転がす。面倒なのでその上に座ってやった。
「どきやがれ!」
ビチビチと生きのいい魚のように暴れ回るが、無視する。その様子を見ていたアリィがオレの真似をして元酔っぱらいその一の上に座り込んでいた。
「う、羨ましい……!」
「座られ、いや踏まれたい!」
おい、見物人。アホなことを言っている暇があるなら、警護隊でも呼んできてくれ。
オレの思いが通じあのか、それともただの偶然なのか、警護隊はその後すぐにやってきた。
「状況は分かった。しかし一応規則なので詰所に来てもらえないだろうか」
チラチラとアリィの方を気にしながら――美人さんだから仕方がないね!――、やってきた警護隊の隊長が言う。幸いにも周囲の人たちが証人になってくれたので、喧嘩両成敗的な流れにはならずにすみそうだ。
後は詰所で行動記録を『確認』してもらえば終了だ。手間ではあるが、このくらいは我慢すべきか。
あ、魔王だってことがバレる可能性がある?
だけど今更拒否もできないし、どうしよう?
「その必要はありませんよ」
戸惑っていると、ざわつく通りによく通る声が響き渡った。
その瞬間、「タクローだ」とか「神殿騎士だ」とか「雨ー美様にユキ様もいるぞ」とか、それまで以上に周囲が騒がしくなっていく。
「タクロー君か」
警護隊の人たちも顔馴染みなのか、フレンドリーな感じで挨拶を交わしていた。
「自分はタクローと言います。神殿騎士見習いです」
「ご丁寧にどうも。しがない冒険者のグドラクだ。こっちは連れのアリィ」
見たところ、このタクローという人物は――ついでに彼の仲間二人の女の子たちも――プレイヤーのようだ。
「プレイヤーでも神殿騎士になれるんだな」
「ええ。色々と細かい審査がありますけどね。その上、見習いの期間も長いから進んでなろうと言う人は少ないですけど。もし興味があるのなら、資料を渡しましょうか?」
「オレに務まるとは思えないから、遠慮しておくよ。それより神殿騎士のあんたが何の用だ?」
首を横に振り、勧誘のようになってきた話の流れを変える。
「そうでした!自分も見習いとはいえ、神殿騎士ですから行動記録を『確認』することができます。詰所まではかなり距離がありますから、急ぎなのであれば、今ここで『確認』しましょうか?」
「こちらとしてはありがたいけれど、それは規則的に問題ないのか?」
後で不備があったとか言われて呼び出されるのは御免だからな。
「ありませんよ。職業上は見習いですが、自分はそうした権限を『神殿』から正式に与えられています」
それなら問題はないか。それに正式な権限を持っているとはいえ、見習いである彼の方が魔王だと見抜かれる危険性は低いような気がする。
「それじゃあお願いするよ」
「分かりました。それでは気を楽にしていて下さい。……『確認』!」
なんだか体がむずむずする……。
いつの間にか行動記録を見られている、という事態にならないようにするための処置なのだろうけれど、落ち着かないな。
「……『解除』のやり取りとか挑発したように見えるところもありますけれど……。今回は不問にしましょう。明らかに相手側の態度が悪いですからね」
正当防衛と認められたようだが、同時に次はないぞ、と釘を刺されてしまった。
「それでは自分たちはこれで」
警備隊の人たちと連れだって去っていくタクローたちを見ながら、オレは魔王であるという一番の秘密が守られたことに、安堵の息を吐いたのだった。
勢いでタクロー君たちを登場させたのはいいけれど、よく考えてみたら、この時点では19話バックスの回想と同時期であり、見習いになったばかりだったんですよね。
修正しましたが、変じゃないでしょうか?
そのあたりのご感想もお待ちしております。




