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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
2 新装備でパワーアップ!
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28 じょうずにできましたー!?

「魔物たちが稀に会得することのある体格変化という特殊技能のことは知っているかい?そうそう、テイムモンスターが習得することもあるな」


 知っているも何も、これからも街中を一緒に歩き回れるように、イーノたちには絶対に習得してもらいたい技能だ。


「装備品のサイズを自動調節する効果を付加させるには、その体格変化技能を使うことのできる魔物の血が必要となる」


 ボクが知っている体格変化が使える魔物というと、ワトとビィ――今はビィトだけど――のママコッカトリスがいる。

 そして実はイーノとニーノのお母さんワイルドボアもこの技能を使えるんだよね。『ワイルドボアアタック(助けて!お母さん!)』でデカファングをやっつけた時、普段よりも大きかったのはそういう理由だったのです。

 それはともかく、


「血って、どのくらい必要なんですか?」


 まず死んじゃうような量だった場合は論外。お話になりません。

 次に生活に支障が出るようでもダメ。一時的なものでも厳しい。だってその間に他の魔物に襲われたり、冒険者たちに狩られたりしてしまうかもしれないから。


 ほんの数滴、というのが理想なんだけれど、きっとそこまで甘くはないよね。

 だから許容できる範囲としては、ボクらが一緒にいて護衛することができる数時間まで、かな。

 まあ、ママコッカトリスのいる魔獣の森だとレベルが足りなくて護衛役にはならないかもしれないけれど。


「必要となる量は、うーん……。そうだなあ、三匹分で私の拳一個程度かな」


 トアルさんが差し出してきた拳は、ボクが知っている一般的な成人男性の拳とほぼ同じ大きさだった。

 うん、それなら十分に許容範囲内だね。


「どの魔物でも構わないんですか?」

「ん?心当たりが複数あるのかい?それはすごいな。一応、結構レアな技能のはずなんだけれど」


 お母さんもママも出会ったのは特別なイベント中だったから、クエストを受けたりしていない普通の狩りでは遭遇しないようになっているのかもしれない。


「用意するのはそれだけでいいんですか?」

「そうだね。いつもならやり方を教えるだけなんだけれど、ラーメンの恩もあるから今回だけは特別に私が付加してあげるよ」


 あ、良かった。錬金を覚えたりしなくて済みそ――


「ただし、修繕時の再調整は自分でやること」


 ――うにない!?


「再調整って、付加した効果が切れるっていうことですか?」

「効果自体は持続するよ。だけど、その子たちの成長具合は変わってくるだろう?だからそれに合わせて調整し直してやる必要があるのさ」


 うわ、結構手間がかかりそう……。

 顔に出ちゃったのか、トアルさんは「それだけ特殊で変わった付加効果なんだよ」と言って爽やかに笑っていた。

 はあ、錬金技能かあ……。初期に取っていなかったから、今から取るのは面倒なんだよね。


 この『アイなき世界』ではプレイ開始時のキャラクターメイキングの時点だと、ある程度は好き勝手自由気ままに技能を取得することができる。

 ところが、いざゲームを開始した後では、特定の行動をしないと、新しく技能を習得することができないという仕様になっている。


 例えば、武器技能だと対応する系統の武器を振り回す必要があるし、魔法技能だとそれに関する本を読み込む必要がある。

 そして生産系の技能の大半は、その技能を持つNPCやプレイヤーから教わらなくてはいけない。

 後、技能ごとの難易度なんかもあるのだけれど、その辺の説明はまた今度ね。


「えっと、ボク錬金技能を持っていないんですけど……」

「乗りかかった船だし、それくらいは私が教えてあげるよ。そして錬金を覚えることが君のテイムモンスターの装備に特殊効果を付加させる最後の条件だ」


 と、いう訳でボクはトアルさんに師事することになった。

 ロヴィン君の妹弟子ということになるのかな?




 それから錬金技能を習得するまでの二週間、ボクは師匠――トアルさんのことだよ――に言われるがまま、古都の周辺を走り回ることになった。

 どこそこの洞窟の奥には魔法研究には欠かせない貴重な苔があると言われれば取りに行き、そこここの森にいる魔物の肉が明日作る料理には必要と言われれば狩りに行き、あの店の料理が美味しいと言われれば買いに行った。


 ……うん?食べ物関係が多いような気がする?奇遇だね、ボクもそう思っていたところだよ。

 ちなみに調理(基礎)の技能は取っていたので、取ってきた材料でボクが料理することもあった。


「師匠!錬金の技能を習得できました!」

「早かったね。そうか、それじゃあリュカリュカの料理が食べられるのも今日で最後かな」


 ボクが作ったワイルドボアと各種野草を使った肉野菜炒めを口に運びながら、師匠がポツリと呟いた。

 その料理の最中、ポーンという効果音と共に〈錬金技能を習得しました〉というインフォメーションが流れた。

 錬金らしいことを一つもしていなかったのに習得できちゃった。

 システムがバグってない?と不安になったのは内緒。


「このくらいの料理でいいのなら、また作りに来ますよ?」

「いや、いい機会だからそろそろ旅を再開させようかと思ってね。随分と長くこの古都の周りに居座ってしまっていたから」


 そういえば師匠は根なし草の風来坊っていう設定だったっけ。


「さて、リュカリュカのことだから、素材となる魔物の血は確保してきているのだろう?テイムモンスターの装備を外して、それと一緒にこっちに持って来なさい」


 フライパン一杯にあった肉野菜炒めを野菜くず一つ残らず食べ尽くした師匠は「うーん」と一つ大きく伸びをしながら、あばら家の裏手へと移動していった。

 言われた通りイーノとニーノ、ワトとビィの装備を外して急いで後を追いかけると、そこにはいかにも怪しい大きな釜が置かれていた。


「さあ、まずは装備品をその釜の中に放り込んで」


 なんですと?


「師匠、なんだか怪しげな液体がぐつぐつ煮立っているんですけど……」

「大丈夫だよ、効果を付加し易くするための触媒が入っているだけだから」


 いつもと同じ爽やかな笑顔だけど、とっても胡散臭く見えちゃうのはなぜだろう?だけど、こうして固まっていてもどうしようもない。

 クジカさん、せっかく作ってくれたのに痛んだりしたらごめんなさい。悪いのは全部師匠ですから!


 どぼん、ちゃぷ、とイーノたちの装備品を怪しげな液体の中へ入れていく。 皆も不安そうな顔で自分の装備品が釜の中へと消えていくのを見ていた。

 そして師匠はぐーるぐると釜をかき混ぜていく。


「そろそろいいだろう。魔物の血を出して」


 五分くらいそうしていたのかな。不意にかき混ぜるのを止めた師匠は次の品を要求してきた。


「えっと、実は二つあるんですけど……」


 ボクが取り出したのは、お母さんワイルドボアの血とママコッカトリスの血だった。

 どっちかだけでも良かったんだけど、子どもたちの装備品に使うものだからと、両方から貰ってきたのだ。

 そうそう、ボクたちだけでもなんとか魔獣の森に行って帰って来る事ができた。何回か死にそうなピンチもあったけれど、ね。


「ふーん。まあ、多くて困るものじゃないからどっちも入れよう」


 ボクの説明を聞いた師匠は特に気にした様子もなく二つとも流し込んでいく。


 て、適当だ……。

 一気に不安の度合いが増大して来たんですけど!?


「よし。それじゃあ最後の仕上げだ」

「え?もう?まだ心の準備ができていな――」

「魔物の血が持つ力よ、其に宿れ!」

「うきゃあ!?」


 師匠が叫んだ瞬間、ボン!という音を立てて釜が爆発した。


「けほっ。こほっ」

「完成だ!」


 もうもうと立ち込める煙の向こうから楽しそうな声だけが聞こえてくる。

 やがて、煙の中から現れたのは煤で顔を真っ黒にした師匠だった。「コントか!?」と突っ込みたくなったのを我慢したボクはえらいと思う


「無事成功したよ。ちょっと予想外の効果も付いたようだけど、きっと問題ないさ」


 師匠から奪うようにしてテイムモンスターたちの装備品を返してもらうと、その効果を確認する。


「師匠、シークレットって何ですか?」


 それぞれに『大きさ自動調節』という効果と、もう一つ『シークレット』と書かれた効果が付加されていた。


「うん、何だろうね。私にもよく分からないな」


 うそっ!?ボクの錬金レベルが低いから分からないんじゃないの!?驚くボクとは対照的に師匠は「あはは」と軽やかに笑っていたかと思うと、


「さて、それじゃあ私はそろそろ行くよ。どこかで会ったらまたご飯を作っておくれ」

「あ、ちょっと師匠!」


 呼び止める声を無視して、師匠はぴゅーっと速足で去って行ってしまったのだった。


「に、逃げられた?」


 こうして、後にプレイヤーたちから『ラーメン再現騒動』と呼ばれるようになる事件を経て、ボクはテイムモンスターたちの装備を、一応、手に入れることができたのだった。


「『シークレット』ってなんなのーーーー!!!?」


これで二章は完結です。お付き合いありがとうございました。


次章はグドラク君のお話しになるかと思います。リュカリュカやバックスと出会った時に一緒にいた女性は誰なのか!?とか、そのあたりを書ければいいなと思っています。


それではしばらく時間が開くかもしれませんがまたの機会に。

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