29 いざ、サウノーリカへ!
新章開始です。
皆さん、こんにちわ。開始からわずか二週間ほどでレベルが百に到達してSGH魔王になったグドラクです。
ええ、もう、本当に何なのでしょうね?運営はオレに何をさせたいのか、さっぱり分かりません。
運営の思惑は置いておくとして、成り行きで『新人いじめ』をしていた連中をぶっ飛ばしたことから様々なPK集団からつけ狙われるようになってしまった。
こちらの変装技能のレベルも上がっているためか、大抵は気付かれることはないのだけれど、ごくたまに高レベルの看破技能持ちにバレて攻撃されることがあった。
それでも魔王であることは秘密になったままなのだから、一体どんな設定がしてあるのか恐ろしいものがあるな。
悪役プレイをしているプレイヤーに襲われる魔王、想像してみるとかなりシュールだけれど、実際にやられると鬱陶しいものがある。
なので実験も兼ねてプレイヤーのいない場所へと行くことにした。
「……すげえ。本当に『転移』できたよ……」
いつの間にか使用可能になっていた――どうなのよ、これ……――空間魔法の一つである『転移』を使ってやって来たのは、実装はされているという噂のサウノーリカ大洞掘だった。
移動先の選択肢にあったから冗談で選んでみたんだけど、まさか本当に実装されているなんて。そして本当に『転移』できちゃうなんて。
周囲を見回してみるが、特に変わったところがあるようには見えない。
地上に住むという『ミュータント』とかいう怪物に占拠されているっていう話だったけれど、それらしき姿も見当たらないな。
「とりあえず『掌握』しておくか」
これまた空間魔法の一つである『掌握』は、いわゆるマップ作製の魔法だ。つぎ込むMP量が多いほど広範囲のマップ作製が可能になる。
だからオレのように大量にMPのある者が使えば、
〈空間魔法『掌握』の使用により、サウノーリカ大洞掘全土の地図が作成されました〉
ということになってしまうのだった。
え?余り驚いていないじゃないか、だって?
そりゃあ、これだけ異常事態が続けば少しは慣れてくるというものだ。はっきり言って一々突っ込んでいたらこちらの身が持たない。
最近は、まあそういうものか、と――できる限り――流すことにしている。
さて、完成したマップを見てみると、今いるのはサウノーリカ大洞掘の東端にあるロピア大洞掘への通路がある近くのようだ。
この通路は現在封鎖されているが、その代わりとなる転移門が設置された砦がそのすぐ側に築かれている。
もちろん「どこから来た!?」とか「何者だ!?」とか問い質されて、揚げ句の果てに「怪しいやつ!者ども、であえであえ!」となって攻撃されても嫌なので近付くつもりはない。
だけど、特に予定が決まっているということもなければ、行き先が決まっているということもない。
マップでは砦を除くと全て、フロンハーイルの町跡とかサフラン遺跡などと表示されているのでどうなっているのか分からない状態だ。
もしかすると生き残った人たちがいるかもしれないし、集落を探すことを目的に設定しつつ、しばらくは適当にうろつくことにしますかね。
風の向くまま、気の向くまま。根なし草の風来坊ってやつだな。うん。ちょっとカッコいいかもしれない。
追記。各町の跡地に『転移』の魔法で移動できることに気がついたのは、歩き回るのに飽きた三日後のことだった。
一日目は良かったんだよ。初見の魔物とかいてさ、接近戦縛りとか、初期魔法縛りとかで戦って結構楽しむことができた。
二日目もまだ楽しめたかな。深い谷とか、巨大一本の木でできた森とか見たこともないような景色に感動もした。
でもね、三日目になるとさすがに飽きました。
だって出てくる魔物が弱いんだもん。鑑定技能を使っていないから正確なところは分からないけれど、大体三十から六十レベルの間くらいの強さだったと思う。
レベル百を超えているオレの敵じゃない。段々と弱い者いじめをしているような気になってしまった。
ちなみに経験知増加の隠し技能は、レベル百になると効果がなくなってしまうようだ。それ以降急激にレベルが上がり難くなった。
ボーナスポイントを無駄遣いせずに取っておいて良かった。下手をすれば必要能力不足とか、必須技能を所持していないとかで詰んでしまうことになったかもしれない。
そうそう、普通のプレイヤーの場合、ゲーム開始後に新たに技能を習得しようとすると、色々と面倒な手順を踏む必要があるそうだけれど、オレの場合は魔王だからか、ボーナスポイントを消費するだけであっさり取得することができる。
こんなところまでチートですヨ……。
そんな訳で『転移』でやって参りましたのはイグルポックという町の跡地だ。
理由は簡単、一番大きな町の跡地で、砦からもかなりの距離があるから。
「これ、本当に町の跡地なのか?」
門に壁、そして中の建物と、入口から見る限り長期間放置されていたとはとても思えない状態だ。
家というものは住む人がいなくなると途端に朽ちてしまうものなのだそうだ。それなのに、綺麗とは言えないが木製の窓や扉などもしっかりと残っている。
これは今でもこの町に人々が住んでいる、という可能性が高いのではないか。
それとも
「『ミュータント』とかいう怪物たちが居座っているか、かな」
いくらレベルやステータス値が高くても、相手の暗殺系技能型のレベルが高ければ、呆気なく殺されてしまうかもしれないのだ。用心しておくに越したことはない。
俺は慎重に門を潜って町の中に入って行った。
近くで見てみると、やはり町の建物はどれも使用されているように思えた。その根拠は?と問われると、そんな気がするからとしか答えようがないのだけれど。
ただ、どうにも感知系技能の調子がおかしい。何かに邪魔をされているような、何かに騙されているような、そんな奇妙で胸がむかむかするような気分にさせられていた。
「ぬわー!気持ち悪い!コソコソ隠れていないで出てこい!」
はい、癇癪を起しました。
そして今回も魔力が漏れ出ていたようで、幻惑封じか何かそんなようなものが発動しました。
一体この魔王という職業にはいくつの隠し技能が搭載されているんだろう?見てみたいけれど、ちょっと怖い気もする……。
一瞬で町の雰囲気が変わっていた。
たくさんの人の気配が感じられるようになったのだ。
「私たちの作った撹乱の術が、こんなにも簡単に掻き消されるなんて……。もしや!?あなたは魔王様ではありませんか!?」
そう言いながら現れたのは綺麗なお姉さんだった。
ということで、今章はグドラク君の側のお話しになる予定です。




