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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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290 魔王を昏倒させし者

 具体的にこれからどうするかをボクたちだけで考えていても仕方がないということになり、一旦ミロク君、魔王様にも話し合いに参加してもらうことになった。

 その際、伝言を頼むためにジョナさんを呼んだ時に一騒動、そしてミロク君がやって来た時にまた一騒動あったのだけど、話が進まなくなるので割愛。とりあえず、


「あ、ども。魔王です、よろしく」


 という挨拶はどうなのよと思いました。そしてそう思ったのはボクだけではないらしく、


「相変わらず威厳が全くないわね」

「魔王らしくもっと偉そうにしていて欲しいものっすよ」


 シュレイちゃんとジョナさんがミロク君の後ろでぼそぼそと言っていた。


「そこ、うるさい。帰ってからの書類仕事を二倍にされたくなけりゃ黙ってろ」


 と注意されてすぐに直立不動になって黙っていたけど。そしてそんなやり取りにファルスさんたちは呆気に取られてポカーンとしていた。


「えー、リュカリュカちゃんから聞いているようだけど、『ミュータント』を倒すこと自体は特に問題ない。さっきまでも極端に押し込まれないようにこっそりと魔法を撃ち込んだりしていて、こちらの攻撃が通るのは実証済みだしな」

「そうすると問題となるのはやはり『神殿』側の動きですか」

「ああ。何もせずに砦に引きこもっているバカを捕まえるのが先決だろうな。できれば邪魔が追加されるのを防ぐために『転移門』の封鎖もしておきたい」


 ミロク君の提案にファルスさんは渋い顔になる。


「ううむ……。『転移門』封鎖となるとそれなりの立場の者が必要となりますな」


 非常事態であっても、ある程度は正式な手続きを踏まなくてはいけないようになっているのだとか。

 まあ、簡単に開け閉めできるようだと不当に高額な使用料を要求したりする人が出てくるかもしれないから、これは仕方がないことだろう。


「ランドル殿にも協力を求める必要があるでしょう」

「ランドル?……ああ、リュカリュカちゃんにこの村のことを頼みにきた神殿騎士だな」

「役職的にはこちらの砦一帯とロピア大洞掘側の最西端近辺の辺境守備隊の隊長ということになっているっすよ」


 ……隊長なのに大洞掘間通路の番をやっていたの!?

 そしてあの砦の『神殿騎士団』側のトップってことじゃない!もしかして現場主義とか現場好きを口実に、書類仕事とか事務作業から逃げているのではないのかな?


「確信したわ。魔王様とその隊長はきっと気が合うはずよ」

「ん?そうなのか?」


 ミロク君も彼にしかできないこととはいえ、出歩いていることには変わりがないからね。どちらも副官ポジションの人には迷惑をかけていそうだよ。


「な、なんだ?リュカリュカちゃんまでオレのことをじっと見て……?」

「なんでもないよ。ただちょっとフットワークが軽いのも善し悪し何だな、と思っただけ」


 ボクの言葉の意味がよく分からなかったのか、ミロク君は大量の(ハテナマーク)を頭上に浮かべていたのだった。

 後、組織やグループの場合、上の人が何でもやってしまうのは下の人が育つための機会を奪ってしまうことにもなるのだとか。

 他の種族に比べると何倍も強い魔族だけど、魔王であるミロク君はさらに桁が違う。本人の性格的なこともあるけれど、何でもできる能力があるためか――事務系の仕事以外は――つい何でも自分でやってしまおうとするのだろう。


「任せられることは任せていかないと、いつか潰れちゃうよ」


 ゲームである『アイなき世界』での能力はともかく、受け答えとかから察するにプレイヤー(中の人)はごく普通の一般ぴーぷるである可能性が高い。年齢も多分ボクとあまり変わらないように思われるしね


「まあ、程々に気を付けるよ」


 無理をするなと言っても聞かないだろう――ボクだってうちの子たちやティンクちゃんにシュレイちゃん、アッシラさんが危険な状態なら絶対に無理してしまうという自覚がある――し、頭の片隅に置いてくれているならそれで良しとしようか。

 そんなことを考えていると、何やら周囲からの視線を感じた。


「アリィ様以外に魔王様を窘められる人がいるとは思わなかったっす……」

「しかも限定的ではあるけど、納得させているし……」


 ジョナさんとシュレイちゃんが妙なことに感心していた。


「いやいやいや、ボクと魔族の人たちとでは立場が違うからね!?」


 上司と部下的な関係がある彼らに対して、ボクたちの場合は同じプレイヤー同士であり同じ立場の仲間的な関係なのだ。

 ……だけど、この説明の言葉が良くなかった。


「魔王様と同じ立場……!」

「そんなことを言いきる人間がいるとは思わなかったっすね」

「リュカリュカさん、すごいです!」


 関心の眼差しを向ける面子にティンクちゃんが追加されている!?

 えへへ。そこまで尊敬されるとちょっと照れちゃうね。


 ……ではなくて!


 どうしよう、これ?

 どうやって収集をつけたらいいんだろう。


 こういう時は亀の甲より年の功、ということで年配のファルスさんや、どうにか上手くまとめてください。

 最後の望みとばかりに期待を込めた視線を向けた先では、ぶつぶつと呟いている中年元司教の姿があった。


「……人間も魔族も、そして魔王ですら関係ない。皆等しく同格の存在であるとリュカリュカ殿はそう言うのか?『御言葉の書』に記された神々の望みそのものではないか!」


 ファルスさん、あんたもかい!?


 しかも超都合良くアンド好意的に神様の言葉と一致させている!?


「ああああ……。同じプレイヤー(冒険者)仲間だと言いたかっただけなのに、どんどん大ごとになっていく……」


 心の底から、どうしてこうなった!?と叫びたい気分だよ。

 そしてその原因ともなったミロク君は、ボクの肩をポンと軽く叩くと、


「諦めろ。こうなったらもう止まらないよ」


 といい笑顔でのたまいやがったのでした。


「ふん!」


 反射的にボディーブローを叩き込んだボクはきっと悪くない。


「ごふっ!?」


 イベント扱いだったのか、PvP状態でならダメージにもならないはずのボクの一撃を受けたミロク君が地面へと崩れ落ちていく。

 静まり返る一同、しかしてそれは嵐の前の静けさだった。


「えええええええええ!!!!!?!?」


 ジョナさんたちの驚きの叫びが響き渡る中、ボクにだけポーンと軽やかな電子音が聞こえてきた。


〈称号『魔王を昏倒させし者』を得ました〉


 う、嬉しくなーい!!


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