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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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289 やっぱり本職はすごいです

 ファルスさんを説得――篭絡(ろうらく)?何のことでしょう?――した後、すぐに村の皆を集めてもらい説得第二弾に取りかかった。

 暴動が起きることはないだろうけれど、話し合いが紛糾して熱くなることはあるかもしれない、ということで村の周囲を見張っていたティンクちゃんとシュレイちゃん――魔族関係者と紹介したのだけど、誰も信じてくれていなかったです――にも来てもらっていた。


「えー、現状『ミュータント』に対して劣勢を強いられていて、このまま何もしなければ最悪『神殿騎士団』は壊滅的な打撃を受ける可能性が高い。そうならなくても集められた神殿騎士の多くが命を落とすことになるだろう」

「脅すような言い方になって申し訳ないけど、そうなってしまうとこの村も危険になると思う」


 このまま負けてしまうようなことになれば、それを口実に『神殿騎士団』は解体されてしまうかもしれないのだ。後ろ盾となる『神殿騎士団』がなくなってしまえば、『神殿』の後ろ暗いところのある連中は喜々としてこの村を潰しにかかるだろう。

 場合によっては反逆者をかくまっていたとして『神殿騎士団』に更なる罪を被せようとしてくるかもしれない。

 もちろん『ミュータント』が襲ってくるかもしれないという危険性も相変わらず残ったままだ。


「よって私は、リュカリュカ殿が提案してくれた通り、魔族と協力してこの戦いに介入しようと思っている」


 村の人たちは顔を見合わせたりして困惑していたようだけど、しばらくすると一人の男性が意を決したように声を上げた。


「俺は賛成だ。神殿騎士のお方々にはたくさん世話になってきた。その恩を少しでも返せるというならやるべきだと思う」

「しかし、魔族と手を組むことになるんだぞ?」

「だからどうした。それを言えば俺たちは『神殿』にだって裏切られているじゃないか!」


 その言葉にざわめきが大きくなる。彼らにとってそれは心と体に刻まれた癒えることのない大きな傷のようなものだ。だけど前に進むにはその傷と向かい合う必要があるのだろう。


「ちょっといいかしら」


 その時、それまで黙って話を聞いていたシュレイちゃんが口を開いた。


「神話に語られている内容だけれど、どうやら事実とはかなり異なっているらしいわ」


 ちょっとちょっとちょっと!それが本当のことなら聞き捨てならないんですけど!?


「シュレイちゃん、今のはどういうこと!?一体誰から聞いたの!?」


 思わず彼女に掴みかかってしまったのだけど、結果的にこれが良かった。実はいきなりなトンデモ発言にファルスさんを含めた村の人たちが殺到しそうになっていたのだ。

 ボクが極端な行動をとったことで冷静さを取り戻すことができたのだそうで、そのことを後から聞かされた時には密かに交渉が決裂する寸前の状態だったと分かり、嫌な汗が背中を伝い落ちていきましたよ。


「誰からって、魔王様のところにいる魔族に決まっているじゃない」


 それによると、魔族が他の種族を弾圧していたのではなく、逆に強い力や魔力を持つがゆえに他の種族から迫害され続けていたのだそうだ。


「まあ、力に溺れる者が一人もいなかったと言えば嘘になるけれど、少なくとも神々を滅ぼして自分たちがその座につこうなんて大それたことは誰一人として考えてはいなかったそうよ」


 無実の罪で迫害される、か。なんだかどこかの誰かたちと同じような経歴だね。どこかの誰かさんたちもそのことを感じたようで、集まっている人たちは揃って複雑な表情をしていた。


「これではっきりしたな。『神殿』は古からの悪しき体質を改善することができてはいないのだ。むしろ悪化しているともとれる。このまま放置すればいずれ神々の名のもとに世界を支配しようと企む者すら現れかねない」


 ファルスさんの言葉に村の人たちは青い顔で頷いていく。確かに可能性は(ぜろ)じゃない。いや、それどころか『神殿騎士団』を解体して武力行使のできる集団をその身に取り込んでしまえば、ほぼ間違いなくその予想が現実となってしまうだろう。


「『神殿』による暴走を起こさないためにも、私は立ち上がる!できることなら皆にも『神殿』を変える手伝いをしてもらいたい」

「ファルス様……。分かりました。お供いたします!」


 ファルスさんの力強い誓に一人が応じると、後は「私も!」と次々に参加を表明していった。


「ファルスさん、皆のため、子どもたちのためだってことは言わなくても良かったんですか?」


 村の人たちが盛り上がるなか、ボクはこっそりと近づいて耳打ちした。


「あれは私の個人的な動機だ。それにそんなことを言えば皆は恐縮してしまうに決まっている」

「でも、その方が話は早かったんじゃないですか?」

「自分から進んで参加したのではない人間を連れて行ったところで、どこかで足手まといになってしまうだけだ。それならばいっそのこと、最初からいない方が良いのだよ。まあ、幸いにも全員協力してくれるようだがね」


 こ、これが本職による人を扇動する方法ですか。ボクの小悪魔化なんて可愛いものに思えてしまうね……。

 とにかく皆がやる気になってくれたようなので良し、ということにしようと思います。


「しかし、戦いに介入するのはいいが、どうするつもりなのだ?」

「戦い自体は魔王様がいてくれれば何とでもなりますけど、問題はその後ですよね」


 ボクたちと魔族が協力関係にあることを神殿騎士さんたちや砦にいる人たちに知らしめながら、反乱だの造反だのとそれらしい言葉でもって攻撃されないように『神殿』側の動きを封じておく必要がある。

 そんなことを考えていると、ファルスさんの呆れたような混乱したような視線を感じた。どうしたのかと思って見てみると、


「いや、多くの神殿騎士が体を張ってようやく進行を食い止めている相手を、何とでもできるというので、つい、な……」

「ああ、そういうこと。あれは何というか別格の存在ですね。ボクも直接は戦っているところを見たことはないですけど、彼女、シュレイちゃんが言うには別の『ミュータント』を遠距離から魔法一発で倒したこともあるらしいです。ただ、ちゃんと話は分かる人ですから、敵対したり騙そうとしたりしない限りは人畜無害ですよ」

「人畜無害……。ふっ、ははっ!魔王もリュカリュカ殿にかかれば形無しだな」


 うみゅう……。微妙な評価を頂いてしまったけれど、笑えるだけの元気を出すもとになったのなら、まあ、いいかな。


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