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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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285 避難先からの避難

 ジョナさんたち魔族のことはぼかして『ミュータント』や近づいて来ている――とりあえずエッ君の不思議パワーのお陰ということにしておいた――ことを告げると、ファルスさんをはじめ村の人たちは驚きながらも事実として受け止めてくれた。


「何百年も姿を見せなかったというのに、なぜ今、突然現れたのだろうか?」

「真っ直ぐに砦を目指していることから、大勢の人間の気配を察知できるようになっているのかも。まあ、あくまでもボクの予想ですけど」


 ゲーム的にはプレイヤーの存在を感知して動いている、ということなのだろう。

 ただ、レイドボスが解禁されて以降、これまでにも魔族の町周辺にだけは出没していたことから、出現の条件の一つに『一定範囲に一定以上の人間が集まる』というものはあったのかもしれない。


「なんにせよこの町跡は『ミュータント』の進路のすぐそばにあります。目的自体は砦でも隠れていることに気付かれるかもしれないから、面倒ですけど村に戻る方が安全だと思います」

「いくら強者ぞろいの神殿騎士たちでも『ミュータント』相手では苦戦は(まぬが)れ得ない。そうなれば我々を討ちに来る余裕もなくなるか……」

「下手に動けば『ミュータント』から逃げ出したと思われかねませんから、どこかのお偉いさんの肝入りで砦にやって来ていたとしても簡単には身動きが取れなくなるはずです」


 戦いの後は後で、『ミュータント』の出現の報告に大騒ぎになるだろうから、こちらに手を出している場合ではなくなっているだろう。


 それ以前に勝てるかどうかも分からない。砦に集められている人たちの中には当然プレイヤーも混じっているだろうから、初見殺しの鎧袖一触で全滅、なんていうことにはならないとは思う。

 だけど、もしもプレイヤーたちが抑えきれずに敗北してしまったら?残るNPCたちで倒しきることができるのだろうか?


 ぶるぶるぶるぶる!


 際限なく広がっていく想像を、勢いよく頭を振ることで吹き飛ばす。ここでボクが考えたところでどうなるものでもない。

 それよりもやるべきこと、やることができることに集中しなくちゃ。


「とにかく、急いでここから離れられるように準備をしていきましょう。ああ、でも『ミュータント』がやって来るまでに時間はありますから、焦る必要はありませんよ」


 村の人たちには来た時と同じように、自分たちの私物の整理から始めてもらうことにした。


「さてと、それじゃあボクは食べ物と水の収納を始めます。一応、またこちらにも戻って来れるように、保存食などは置いていくことにしますね」

「すまないがよろしく頼む」


 ファルスさんは、荷物の中で最も重い水と、一番かさばる食料をボクに押し付けることになっていると感じているのか申し訳なさそうな顔で頭を下げていた。

 アイテムボックスに入れて持ち運べるから、全然大した苦労ではないのだけれどね。


 だけど、部外者であるボクに命綱を全部持たせてしまっているような状況はいかがなものなのだろうか。

 仲間や身内を無条件に信頼しているということ、そしてボクもその内側に入れてもらえているということは素直に嬉しくは感じる。でも、そのことを逆手に取ろうとするような輩が今後も絶対に現れることがない、なんてことは言い切れないのだ。

 将来的に元いた町や村に帰ることができる時が来るかもしれないし、もう少し危機意識というものを持ってもらいたいと思ってしまうのでした。


 考え事をしながらでも手は動いているもので、気が付けば村へと持ち帰る食料の収納は完了していた。

 あ、そういえば村へと戻ることをうちの子たちやジョナさんに伝えるのを忘れたままだった。


「ちょっと外の様子を見てきます!」


 と言い残して、急いでみんなの元へ。

 仮宿にしていた廃屋に置いた『移動ボックス』の中に入ると、ジョナさんを除いた全員が揃っていた。どうやら彼は周囲の警戒と他の魔族たちと情報交換を行っているらしい。


「それじゃあ、予定通りそいつらの村に戻るのね」


 シュレイちゃんの確認の言葉に頷いて返す。


「うん。ミロク君に張ってもらった『結界』が消えたら、すぐにでも出発するつもり。できればシュレイちゃんにも移動中の護衛を手伝ってもらいたいのだけど?」

「嫌よ。他の人間と関わり合いになりたくないわ」


 ほほう……。つまり裏を返せばボクたちとは関わり合いになっても良いと。もう関わり合いになってしまっていると。

 ティンクちゃんも同じことを感じ取ったのかニコニコと笑顔を浮かべていた。


 が、そんなボクたちとは正反対にシュレイちゃんは不機嫌になっていく。


「……ちょっと、どうして二人してニヤニヤしているのよ」


 だからそこはニコニコとか嬉しそうとか言ってよ。

 まあ、気分がいいから許してあげよう。


「べっつにー」

「何でもないですよ」

「くっ……!なんだかよく分からないけれど無性にムカついてくるわ……」


 それはきっとカルシウムが足りないんだよ。小魚食べなさい。

 それからしばらくの間、他の子たちも加えてじゃれ合っていると、ジョナさんが戻ってきた。


「あ、お帰り」

「ただいまっす。その様子だと話し合いは上手くいったようっすね」

「うん。今、村に戻る準備を進めてもらっているところ。『結界』がなくなり次第出発しようと思っているけど、後どのくらいか分かる?」

「そうっすね……、多分一時間くらいじゃないかと思うっす長くても二時間は持たないはずっす」


 そのくらいならちょうど村の人たちの準備が終わる頃合いだろう。


「ジョナさんは移動中どうするの?」

「少し離れた場所から広範囲の警戒を続けるっす」


 それって結構集中が必要なんじゃないの?


「ティンクちゃん、シュレイちゃんと一緒にジョナさんの身辺警護をしてあげて」

「分かりました」

「え?」

「いや別に一人でも問題ないっすよ」


 強気な平気だよ発言に、ボクはゆっくりと首を横に振った。


「ダメです。ジョナさんに何かあったらミロク君たちと連絡が取れなくなっちゃう」


 土地勘も何もない場所で情報まで遮断されてしまったら詰んでしまいかねないよ。ボクたちのためにもティンクちゃんを同行させるのだ。

 まあ、一番はシュレイちゃんと一緒にいさせてあげたいと思ったからだけどね。


 それから一時間半後、ボクたちは数日間過ごした町跡を後にしたのだった。


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