281 魔族側の対応予定
「ちょっとあなたねえ、ドラゴンがいることを知っていて、内緒にしていたわね!?」
アッシラさんを前にして「ふにゃあああ!?」と可愛い悲鳴を上げてしまったことがとっても恥ずかしかったらしく、ボクがジョナさんを連れて来ると同時にシュレイちゃんは彼に詰め寄っていた。
「いやあ、申し訳なかったっす。すっかり言うのを忘れていたっすよ。というか、ミロク様から聞いているものだとばかり思っていたっす」
だけど、口では一応謝ってはいるものの、ジョナさんはシュレイちゃんの怒りを受けてもどこ吹く風といった様子でさらりと受け流している。こっそりとミロク君のせいにしているし。
シュレイちゃんの一方的な空回り具合は、糠に釘とか、暖簾に腕押しということわざの見本のような状況だね……。
余計なことを言って矛先がこっちに向いたりしたら嫌だから黙っているけど。
「ティンクの相棒だと聞いていたが、これまた随分と性格が違うのだな。まあ、得てして気が合う相手というのはそういうものなのかもしれんがな」
一方、原因のアッシラさんはというと、自分が元凶であることなんて全く考えてもいないのか、のほほんとそんなことを言っていた。
そして相棒呼びにティンクちゃんは素直に嬉しそうな笑顔を、シュレイちゃんはどことなく不機嫌そうな顔でそっぽを向く――実際はただ照れているだけのようだったけどね。だって、そのことには一言の文句も言わなかったし――という、これまた対照的な仕草を見せたのだった。
「確かに性格が違う相手の方が案外長続きしたりするものっすよね」
ジョナさんは、その上で共通の趣味なんかがあると相性はばっちりっす!と力説したりしている。
あれ?それって結婚相手とか恋人の相性でよく言われることじゃなかったっけ?うーん、長く一緒にいるという意味では似たようなもの、なのかな?
「しかし、迷子猫に放浪猫とは珍しい種族となったものだな」
のほほんとした口調のまま、アッシラさんが何やら重大なことポツリと漏らした。
「え?二人のそれって種族名だったの!?」
「うん?リュカリュカよ、一体何だと思っていたのだ?」
「肩書とか名乗りとか、ボクらで言う職業みたいなものかと思ってました」
ティンクちゃんはボクのフレンドモンスターとなっているから、大雑把なステータスを見ることはできるのだけど……、本当のところ種族名とか気にしたことがなかったよ。
「相変わらずお前は大らかというか大雑把というか……」
ぜひとも大らかということにしておいてください。
「ボクのことはもういいよ。それより珍しい種族だと何か問題でもあるの?」
レアモンスターを仲間にしていることで妬まれたりするのはプレイヤー側の問題なので、今は一旦置いておくことにする。
もしかしてティンクちゃんとシュレイちゃんの元の飼い主の血族が復讐をしようと狙っているだとか、危険なフラグでも立ちかけているのだろうか。
そんな風に内心で身構えていたっていうのに、
「別に何もないが。ただ我でもほとんど見たことがない種族だったというだけの話だな」
返ってきたのは能天気な回答。思わずつんのめりそうになってしまいましたよ……。
「さあ、そろそろ話を本題に移してはどうだ」
くっ……。
その通りなのだけど、このグダグダの空気を作る元凶だったアッシラさんに言われるのはどうしても釈然としないものがあるね……。
「ああ、それじゃあ外での続き、魔族側の対応から話しをさせてもらうっす」
そして、それまでのことなどなかったかのように報告を始めるジョナさん。平常運転への切り替えが早っ!?
「今回は邪神がミロク様と同等プラスアルファの能力を持つと仮定して動いてもらうことになったっす」
ミロク君の『転移』の魔法では自分と数名――試したことがないので最大数までは不明とのこと――を世界各地へと瞬時に移動させることができるそうだ。
この場合の世界各地というのは町や村、ダンジョンの外のフィールド上ということになるとのことで、ボクが想像した町中にいきなり現れるというようなことはシステム的にできないようになっているらしい。
「人数が増えるごとに加速度的に消費魔力量が増えるという話なので、集めた軍勢を全て『転移』させるということもできないだろうと言っていたっす」
ミロク君としては十人程度をいくつかの町に断続的に送り込んでくるのではないかと考えているようだ。
「俺たち魔族は、もしも一カ所が襲われても生き延びることができるようにあちこちに散らばって住んでいるっす。だから外に出て戦うことのできる人数が揃っていない町も少なくはない状態っす」
つまり種族として生き残るためにとっていた行動の、いわばウィークポイントを突かれる形になる。
「複数個所にほぼ同時に展開するのは、魔王たちが加勢し難くする狙いもありそうだな」
「さすがはドラゴンさんっすね。その通りっす。ミロク様もそう読んでいたっす」
邪神と自称するだけあって汚いやり口だね。まあ、それだけミロク君たち魔族側に対して有効な一手ということなんだろうけど、ゲームの中なのにそこまでえげつない方法を取らせるというのはどうなんだろうか、などと思ってしまった。
「とにかく、距離の云々に関わらず全ての町で敵襲を警戒するようにしているから、こちらのことは気にしないでくれ、と言っていたっす」
戦闘能力という面では、ボクはミロク君どころか大抵の魔族の人たちにも及ばないだろうし、こちらの方に集中できるのはありがたいかな。
「そうなると、もしも村やここに『神殿』関係者がやって来たとしても、それほど多くはない?」
「そうっすね。恐らくは一部隊か二部隊、十人から多くても二十人といったところではないかと思うっす。邪神の命ではなく独断で動く形になるので、徒歩での移動になるはずっすから、発見するのは簡単っすよ」
それにこちらに手出しをさせないようにと、ランドルさんたち多くの神殿騎士が見張っているはずなので、余計に大勢では動き辛いだろう。
後はファルスさんをはじめ村の人たちが隠れてやり過ごすか、それとも迎え撃って倒してしまうかのどちらを選択するか、かな。
知り合った以上見捨てるつもりはないけれど、ボクたちだけで戦いに出向くつもりはない。一旦は様子見、向こうの出方待ちかなあ。
とりあえず、いざ戦うとなった時のためにシュレイちゃんやジョナさんとの連携の確認だけはしておくことにしよう。




