表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
286/574

277 新しい旅路

 ファルス元司教はボクの言葉に驚愕の表情を浮かべていた。

 へえ……、今の口ぶりからして狂将軍の封印までのいきさつとアッシラさんの関係を正確に知っているみたいだ。『神殿』本部付きの元司教という肩書は伊達じゃなかったってことかな。


「教えてくれ、冒険者殿!ドラゴンは、いや『守り神様』は今も苦役を強いられているのか!?」


 わお。よほど切羽詰まっているのか、ボクの呼び方が小娘から冒険者殿へと格上げされているね。

 ……はい、突っ込むところはそこじゃないですね。予想外の単語が飛び出してきたので、ボクの方としてもワンクッション入れたくなったのですよ。


「えっと……、ドラゴンに対してその呼び方をするという事は、おじさんもしかして守り神の山近くの村の出身?」

「そうだ。私は守り神の山のすぐ近くの村の生まれだ。そして毎日のように大空を羽ばたく守り神様の姿を見て育ったのだ」


 おお!懐かしい話だ。そういえば村の人たちにはちゃんと話をしてくれたのだろうか?ランドルさんならその辺りのこともそつなくこなしている気がするけれど、いかんせんそれを邪魔しそうなNPCもいたからちょっと心配。


 あ、でも神殿騎士の中にはタクローさんたちプレイヤーの人もいたし、何よりレイドボス討伐のために頻繁に一般のプレイヤーも訪れるようになっているはずだ。

 もしも『神殿』側に情報規制がされていても、そちらから話しが漏れていくことになるだろう。


「ええい、私のことはどうでもいい!守り神様は、守り神様はどうなったのだ!?」


 おじさん、あんまり叫ぶと血圧上がるよ。まあ、それだけアッシラさんのことを心配してくれているのだと好意的に解釈することにしようか。

 だけど、どこからどこまで話していいものなのやら……。


「少し長くなりますけど……」


 結局、そう前置きしてほとんどのことを思い出せる限り正確に話した。ぼかしたのはボクたちがどうして守り神の山へと足を踏み入れたのかという理由と、アッシラさんがボクたちに同行しているという部分だけだ。

 隠し事としては十分?ボクもそう思うけれど、こればっかりは簡単に話せるようなものではないのですよ。


「……そうか、そのようなことになっていたのか」


 話し終えた後、ファルス元司教は吐き出すようにそう口にするとがっくりと肩を落としていた。

 周りの人たちも彼から守り神のドラゴンについては聞いていたのか一様に暗い顔をしていた。


(アッシラさんや、これ何とかなりませんかね?)

(無茶を言うな。今ここで我が姿を見せたところで余計に混乱させるだけだ)

(あ、そっか。『神殿』の伝承だとスピリットドラゴンは神様たちの次くらいに偉い存在だっけ)

(正確には違うのだが……、まあ、その理解でも問題はないだろう)


 微妙に歯切れの悪い答えだね。それはともかく、このまま気落ちしている人たちを放置しておくのはよろしくない気がする。

 まだ確定ではないけれど、彼らを連れて避難先の町跡まで行かなくてはいけないのだ。いつまでも腑抜けた状態でいられては守り切れるものじゃない。


(ふうむ……。我は無理だが、代わりにエッ君でも見せてみればどうだ。あやつは我の肉体の生まれ変わりだから、そこの男にとっては一番馴染みがある存在かもしれない)


 おお、その手がありましたか!という訳でエッ君、さっそく出てきてくださいな。


「な、な、な……、なんじゃそりゃあ!?」


 しゅぽん!と音がしそうな勢いでエッ君が背負った『移動ハウス』から飛び出すと、大人たちの驚き戸惑う叫び声が綺麗に重なった。


「うわー!可愛い!」


 同時に黄色い声も上がり、建物の中からのぞき見していた子どもたちが一斉に集まって来たのだった。


「卵に足と尻尾が生えてるよ!?」

「ホントだ!変なの!でも可愛い!」


 遊び相手だと認定したのか、集まった子どもたちの間をすいすいと走り回るエッ君。釣られて子どもたちも捕まえようと追いかけ始める。そうなると後は彼らの独壇場だ。さすがにエッ君だけでは荷が重そうだと判断したボクは残りの子たちも全員外に出してあげることにした。


 あ、ティンクちゃんは子どもだけでなくお母さんたちまで目の色を変えて追いかけてきそうなので『移動ハウス』の中で休憩を続けてもらうことにしました。

 ここしばらくの間はずっとボクの相談相手に乗ってもらったり、他の子の面倒を見てもらったりと忙しかったからね。

 まあ、ある意味一番の問題児であるアッシラさんと二人きりなので、あんまり休めないかもしれないけど。


「最初に出て来た卵の子がエッ君。ボクのテイムモンスターの一匹で、守り神様がスピリットドラゴンになった時にその肉体が変化して生まれた子です」


 砂煙を上げそうな勢いで走り回っているうちの子たちと子どもたちを眺めながら追加の説明をしたのだけれど、まだ理解が追いついていないのか皆唖然としたままだった。

 一瞬、頭が固いなあと思ってしまったけど、よくよく考えてみれば生まれ変わりだとか卵が走り回るとか突然言われたら混乱しても当たり前か。

 ボクがある程度落ち着いていられるのも、ここがゲームの中の世界――さすがに何でもアリとまではいわないけれど――だと認識しているという事があるためだし。


 だけど、いつまでも呆けられていては話が進まない。残念ながら時間的な猶予はそれほどないのだ。


「守り神様としての存在がなくなってしまったのは残念なことだけど、その精神も肉体も新しい生を始めています。悲しむよりもそれをよろこんで、そして祝福してはもらえませんか」

「そうか……。そうだな。結局私は何もできはしなかったが、せめて守り神様の新たな旅路が幸多からんことを祈らせてもらおう」


 ふみゅ。今の言葉といい、どうやらファルス元司教には守り神の山近くの村の出身という以外にも秘密を抱えていそうだ。避難が終わって落ち着いたら詳しい話を聞いておくべきだろうね。


「冒険者殿、あなたは信頼に足る人物だ。先ほどまでの非礼を詫びさせて頂きたい。そして本来導くべき立場にある『神殿』の者たちが多くの迷惑をかけてしまったことについて、既に組織からは追われてしまった身だが、関わりがある者としてせめて謝罪をさせて欲しい。本当に申し訳ないことをしました」


 ファルス元司教に続いて周囲の大人たちも次々に頭を下げていく。


「はい。皆さんの謝罪は確かに受け取りました。正直まだ『神殿』を信頼することはできないけれど、皆さんのような人たちもいるという事をしっかり覚えておきたいと思います」


 それが本心からの行動であると伝わって来て、ボクも丁寧に言葉を返すことにしたのでした。

 が、その周りではうちの子たちと子どもたちが走り回っていたので、どうにもシリアスな展開になり切れず、顔を上げたボクたちは誰からともなく笑い声を上げ始めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ