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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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274 神託と魔族と反逆者

 お互いの、というより一方的にボクの側の近況報告を行っている――魔王様の近況なんてそんなもの危険物以外の何物でもないので聞きません!あ、既に話がある程度広がっている帝都での一件とか邪神との関係だけは聞いておいたけどね――と時間となったらしく、誰かがやって来ていることをミロク君が感知したのだった。


「それじゃあ、もう少し分かり易いところまで移動しようか。みんなは『移動ハウス』に戻って。ミロク君は?」

「気付かれないように少し離れた場所から様子を見ていることにするかな」


 彼の性格から、見捨てられるような心配はしなくてもいいだろう。むしろボクは神殿騎士だと思われる人と話し合いをしなくちゃいけないので、周囲への警戒が疎かになることが十二分に考えられる。その穴埋めをしてもらえるのだから任せてしまった方がいい。


 それぞれの役割が決まったところで行動を開始する。例の人物は大洞掘間通路を通ってきたらしいので、出会いやすいように町跡の中央で二分している大通りの近くへと向かう。

 さてさて、ようやくメモの主との対面だね。一体何者なんだろう?


 まだ見ぬ相手を想像しながら物陰でじっと待つ。

 やがて大通りの向こうに微かに人影が見えてきた。もしもロピア大洞掘側の関――というよりは検問?――で会ったあの神殿騎士さんだとすれば、ボクらを見送った後それほど間を置かずに追ってきたということになる。

 まあ、顔は分からない上に声は基本樽ごしだったから確かめる術なんてないんだけどね。状況的にその可能性が一番高いってことで。


 考え事をしている間にも豆粒大だった人影はあっという間に大きくなっていく。ミロク君同様、感知系の技能でもあるのか真っ直ぐこちらへと向かってきている。

 隠れている側から見ると怪しい挙動です。相手の油断を誘うなら時々横道を覗き込むなり何なりすべきだね。一つお勉強になりました。


 そしてそのお顔はどこかで見覚えのあるものだった。

 あれ?どこで会ったのだろう?記憶を漁り必死になって思い出そうとするボクの努力は残念ながら実を結ぶことはありませんでした。

 なぜなら、


「改めてお久しぶりです、リュカリュカさん。神殿騎士のランドルです。狂将軍の時にはお世話になりました」


 と自己紹介をしてくれたからだ。

 ええ、いくらおっとりゆったりまったりうっかりを自認しているボクでもここまで丁寧に言われたらちゃんと思い出しましたとも。

 狂将軍の再封印――レイドボスであったため、結果的に封印は失敗に終わっちゃったけど――の時に神殿騎士たちのまとめ役となってくれていた人だ。

 ラジア大洞掘からロピア大洞掘に向かう際に色々教えてくれた――大洞掘間通路を抜けるならお金が要らないことなど――人でもある。


「お久しぶりです。ロピア側の関にいたのはランドルさんだったんですね。お目こぼしをしてもらえた訳が分かりました」


 ボクがトアル師匠の弟子という事もあって、ランドルさんは出会った当初から好意的だった。


「いえ、あの時に我々がしでかしたことを考えればこの程度なんのことでもありません。しかも私はこの期に及んであなたに面倒をかけようとしている……」


 おうっふ。面倒って言っちゃったよこの人!

 何も聞かなかったことにしてすぐさま回れ右したいというのが本音だけれど、何が起きているのかを知らずに動き回るのもとっても危険だ。


 狂将軍の時に一緒になった神殿騎士のプレイヤーさんによると、ランドルさんは各地を動き回っていることが不思議なほど高位の地位に就いているらしいので、情報を聞き出すには打って付けの存在とも言える。諦めて詳しいお話を聞くことにしましょうかね。


「ロピア側で話していた綱紀粛正とは違うのですか?」

「全くの無関係という訳ではありませんが、あちらはまず地盤を固めるという意味合いもあって『神殿騎士団』内部を対象としていました」


 今の言い方からすると、面倒事は『神殿』全般が関わってきている?ミロク君情報の砦に人や武器が集められているというのは、『神殿騎士団』ではなく、『神殿』本体によるものなのかな。

 半ば独立しているとはいっても『神殿騎士団』は『神殿』の一組織でしかない。強権で持って言い寄られたら従うしかない部分はあるのかも。


「協力を求めようというのに詳細を説明しないなどというのは論外なのでお話ししますが、この後のことはできれば他言無用にお願い致します」


 今さら話の腰を折るつもりはないので、素直に頷いておく。


「先日の事なのですが『神殿』の高位の者たちが集まっていた場において信託が下ったらしいのです」


 ……また随分と話がぶっ飛んだね。


「それによると、この砦の近くに神に仇なす魔族なる存在が潜んでいるというのです」


 ピンポイントに名指しされたミロク君の気配が微かに揺らぐ。一瞬の事だったのでランドルさんには気付かれなかったようだけど、心臓に悪いことは勘弁して……。


「そして、神の名において魔族を滅せよ、とのお言葉があったそうです」


 はあ?


 もしかしてそんな胡散臭い話を信じたっていうの?

 仮にも全世界規模の組織のトップたちが?


 一応、その相手が神であるという根拠はいくつかあるという事なのだけど、聞いてみるとただの自意識過剰にしか思えなかった。

 だって「神託を受けた場所は『神殿』の中枢で自分たちを除いては神々しか入ることができない」とかですよ。キリッ!とした大真面目な顔でそんなことを言っているところを想像すると、もう乾いた笑いしか出てきません。

 少なくともボクたちのすぐ近くにいるはずの魔王様なら簡単にやってのけてしまいそうだなんですけど。


「これだけでも大問題ではあるのですが、本質はそこではありません」


 あれ?そうなの?


「そのことを話す前に、もう一つの事情を伝えなければいけません。実はこの近くに『神殿』への反逆者とされた者たちをかくまっている場所があるのです」


 な、なんだってー!?


「個々の罪状等は様々ですが、多くは権力を笠に着た冤罪を受けた者たちなのです。情けない話ですが、現在の『神殿』の一部にはかなりの腐敗が進んでしまっているのです」


 ああ、何となく読めてきたよ。つまりランドルさんは、何らかの手段で反逆者たちがかくまわれていることを嗅ぎつけた『神殿』上層部が、神託をでっちあげたと考えているのだろう。魔族というのは方便で、実際は反逆者とされた人たちのことを指していると思っているのだ。


 ミロク君たちのことを知らなければ納得のできる話だ。それどころか神託なんて怪しいものと比べてよっぽど説得力がある説だと言えるかな。


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