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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
17 変わりゆく世界
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268 集められた者たち

バックスさん視点です。

 召集を受けて赴いた古都ナウキの議事堂の一室には見知った面々が顔を連ねていた。


「やあ、久しぶりだな、バックス殿」

「無沙汰をしております、アルス閣下。お元気そうで何よりです」

「うげっ!?バックスさんが礼儀正しい!?……あ、何でもありません」


 それでもごく少数ながら初見の顔もあったので、アルスからかけられた言葉に慇懃に返したのだが……、ゼロとかいうどこかのおバカのせいで台無しになってしまった。

 ギロリと睨みつけて黙らせたが、後でしっかりと教育しておくことにしよう。


「ろ、ロヴィン兄ちゃん、なんだかバックスさんがめっちゃ怖いんだけど……」

「自業自得。諦めて一対一のPvPで鍛えてもらうんだね」


 隣の席に座るロヴィンの言葉にがっくりと項垂れるゼロ。

 おいこら、それではまるで俺が稽古や修行や訓練にかこつけていたぶっているようではないか。


「ははははは。皆相変わらず仲が良いようで結構なことだ」


 文句を言ってやろうかと思った矢先、アルスが大きな声で笑う。……やれやれ、まったく気の回るやつだ。

 今のは本音が半分、場の空気の調整が半分といったところだろうな。お陰で訝しげな眼で見ていたご新規さん方の視線が幾分か和らいだのを感じる。


 だが、上に立つ者としては少々気を回し過ぎているようにも思わないでもないな。泰然自若と構えていなくては、利用してやろうとすり寄ってくる者たちに隙を見せることになりかねないのではないだろうか。

 まあ、その分彼を支えようと集まってくる人間も多いように見受けられるので、悪いことばかりではないのかもしれない。


 隙の多い愚王となるか、それとも懐の深い賢王となるのかはこれから次第、彼と家臣たち次第か。

 何にせよ俺が手出しできるようなものでも、心配するようなものではないな。


 そうこうしている間に近づいて来ていたアルスの副官、ハリューに促されて与えられた席に着く。周囲にはロヴィンにゼロとその仲間たち、古都ナウキを拠点にしている大手ギルドの幹部やギルドメンバーたち――要するにプレイヤーたちが固められていたということだ――が座っていた。


「さて、少し予定時間には早いが、全員揃ったようなので始めさせてもらおう」


 扇状になった部屋の(かなめ)方向に据えられた議長席に進み出て、アルスが集会の開始を告げる。

 ……俺が最後だったのか。遅れてはいなかったとはいえ皆には悪いことをしたな。


「皆もすでに噂などは耳にしていると思うが、帝都にてモーン帝国宰相が暗殺されるという事件が起きた。これにより帝都周辺を基盤としている第一王子派の足並みが乱れている」


 第一王子派の連中は外部への流出を隠し通そうと必死になっていたようだが、人の口に戸は立てられない。じわりじわりと噂が広がっている最中だった。


「そのことですが、出所はどこなのですか?聞けば宰相閣下が暗殺されたのはわずか半月ほど前という話ではありませんか。対立しているはずのこの街に情報が届くまでの期間としては、短すぎると思うのですが?」


 そう声を上げたのはアルスの配下の一人だった。見覚えがあると思ったらハリューと共に大洞掘西端にあるアルスの試練に同行していた人じゃないか。

 配下というよりはアルス個人の子飼いに近い立場のような気がする。そうなると今の質問は情報の共有化を行うための前振りなのか。少なくとも彼自身がそのことを知らなかったり、話の腰を折ったりしようとしたものではないだろう。


「そのことについては私からお答えさせて頂きます」


 立ち上がったのはすぐ近くにいたユージロだ。帝都にも支部を持つ『諜報局UG』のギルド長である彼以外の適任者はこの場にはいないだろう。

 しかも『ペインドラッグ』の件で折よく暗殺直後の帝都にもいたので説得力もあるというものだ。


「初めての方もいらっしゃるようなので名前と所属から。冒険者のユージロです。ギルド『諜報局UG』の長を務めさせて頂いております。以後お見知りおきを。

 それでは本題に入ります。別件ではありましたが私が帝都へと赴いた時がちょうど宰相が暗殺された直後の事でありました。そして、あちらに拠点を置く冒険者仲間の協力を得て事実に相違ないことを突き止められましたので、他の地域より先んじて古都ナウキとアルス閣下の元に情報を持ち帰った次第であります」


 ユージロの発言にアルスは鷹揚に頷いていた。そういう姿も随分と様になっているものだ。


「前帝陛下やウッケン市長とも話し合った結果、これを好機として私は帝位継承のための最後の試練の地へと赴くことにした」


 確か最後の試練の地は帝都よりもさらに南、ラジア大洞掘の最南端に近い場所にあるのだったか。その場所柄、平時より帝位継承のための試練としてはそこが用いられてきたという話だったはずだ。

 アルスの場合、前皇帝の甥ということで血筋的には問題ないのだが、帝妹であった母親が降嫁しているという事情があったために、その地を含む全三カ所の帝位継承の試練を受けることになっていたのだった。


「しかし、宰相が暗殺され混乱しているとはいっても帝都周辺はあちらの勢力圏だ。さらに旗印である第一王子は存命であり派閥としての求心力がなくなった訳でもない。よって、今回は私はある計画を立てた。ゼロ!」

「おう!」


 あらかじめ打ち合わせをされていたのか、突然呼ばれたことに驚きもせずにゼロたち六人が立ち上がる。


「お前たちには特に危険な役を頼むことになる。友としては心苦しい限りなのだが、正直お前たち以外に適任がいないのもまた事実なのだ。だから――」

「アルス!」


 自らに言い聞かせるように重ねていた言葉をゼロが遮ると、議事堂の一部でざわめきが起きる。

 まあ、未来の皇帝となるかもしれない人物が話しているのを――例え友人だとアルスが言っていたにしても――一介の冒険者が止めたのだ、礼儀だの何だのにうるさい頭の固い者たちや、上手く立ち回り利権を得ようと画策していた者たちにとっては驚愕の事態以外の何物でもないだろう。


「友達同士の間にまだるっこしいことはいらないぜ。お前の助けになるなら、俺たちは何だってやってやる!」


 その言葉に合わせるように、ぐっと拳を前に突き出すゼロたち。それを見て一瞬呆気にとられたアルスだったが、すぐに満面の笑顔となり、同じように拳を前に突き出していた。


 まったくこのガキンチョどもときたら……。

 だが、嫌いじゃないな、こういう熱い展開は!


次回はこの続きをロヴィン君視点でお送りします。

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