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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
16 新米冒険者たちの話し
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261 新スキルで大逆転

 じわじわと両面から押し込まれていき、いつしか私たちは壊された壁の位置で魔物たちから挟まれてしまった。


「これは、やばいな……」

「すまん。魔物の数を甘く見ていた俺の失策だ」

「餅べえが失敗するのはいつもことでしょ」

「そこは「気にするな」っていう場面だろ!?」

「はいはい、バカなこと言っていないで切り抜ける方法を考えて」


 こみあげてくる笑いを押さえながら仲間たちをたしなめる。危機的状況にもかかわらず普段通りの掛け合いをするのだから、この仲間たちは大物だ。

 そしてこういう時には良くなるにしろ、悪くなるにしろ、状況が大きく変化するというのが定番である。


「かあさん!」


 頭上を飛び越えた勢いそのままに、私を狙っていた魔物を蹴散らしたのは三つ首の魔犬であり、その背には褐色肌の美女がまたがっていた。

 ふう、どうやら私たちは状況変化の賭けに勝ったらしい。ピンチに颯爽(さっそう)と現れたのは雷どんと我が愛しの娘、シリウスことスゥであった。


「私たちが来たからにはもうかあさんたちに手出しはさせない。領域を前方に固定、『不幸の(アンラッキー)溜まり場(フィールド)』展開!」


 彼女の口から飛び出したのはファンタジーな世界観に似合わない、どちらかと言えば近未来物やSF物――『アイなき世界』は未来の地球という設定だから、意外なようで実は合っているのだろうか?――に出てくるような台詞だった。

 そしてその言葉が響き渡ると、かざされた両手から灰色の(もや)のようなものが魔物たちを覆っていく。


「な、なんだあれ?」


 すると、魔物たちはいきなり躓いたり足が絡まったりして転び始めたのだ。運の悪いものなどは大きな個体が転んだ際に巻き込まれて押し潰されたりしている。

 統率も何もなくただ暴れ回っていただけの魔物たちはあっという間に恐慌状態へと陥ってしまった。

 さらに、


「雷どん、やって!」

「ぐおう!」


 スゥの言葉に雷どんが大きく吠えた次の瞬間、名は体を表すと言わんばかりに三つの口から紫電の稲妻が正面の魔物たちへと襲いかかっていく。


「ふおおお!さっすが雷どん!登場のタイミングだけじゃなくて、新しい必殺技を引っ提げて登場するなんて、分かってるね!!」

「ええええええええええ!?!?!?」


 その一撃は凄まじいの一言だった。なんと十体以上の魔物がいっぺんに倒されてしまい、私たちはルタの親バカかつズレた台詞に突っ込みを入れる余裕すらなくしていたのだった。


「はっ!?まだ魔物は残っているから呆けている場合じゃないぞ!」

「このままじゃ二人に美味しいところを持っていかれかねない。今のうちに俺たちも反撃開始だ!」


 スゥと雷どんの活躍に触発された男二人が雄叫びを上げながら森側の魔物へと突っ込んでいく。


「ちょっと!?そっちの魔物は元気なやつばかりなんじゃ!?ああ!もう!ルタ、スゥと雷どんのことはお願い!」


 ルタからの了承の返事を背中に受けて男どもを追う。全く、いつまで経っても子どもなのだから困ったものだ。案の定、二人は魔物たちに取り囲まれ始めていた。


「この、おバカ!状況をよく見てから突っ込みなさい!」

「わ、悪い」


 二人の後方へと回り込もうとしていた魔物をさらにその後ろから不意打ちで倒すと、包囲網を抜けて後退する。

 先ほどスゥと雷どんが暴れ回っていたからなのか、魔物たちの動きが精彩を欠いていたので助かった。


 その後は壊された壁の部分で堅実に魔物をあしらい、開発地に入り込んだ魔物を殲滅させたルタたちが合流してきたところで反撃、無事に魔物の群れを倒しきることができたのだった。


「ふあー……!。つっかれたー!」


 全くもって疲れた感のない口調でルタが叫ぶ。もっとも体の方はぺたんと地面に座り込んで動けそうもない様子だったので疲れているのは本当の事なのだろう。


「今回は雷どんとスゥのお陰で助かったな」

「どこかの誰かさんたちの考えなしの行動で、台無しにするところだったけれど」


 終わり良ければすべて良し的な雰囲気で餅べえがしれっと口にするので、反省を促すためにも少しきつめに言い放つ。


「うぐっ!」

「ぐはっ!」


 先走ってしまったという認識はあった二人は呻いて蹲ってしまう。


「あー、さすがにさっきの兄さんたちの突撃についてはフォローできないな」


 男同士の気楽さゆえか、餅べえたちの味方につくことも多々ある雷どん――そういう時は彼も含めて大抵碌な目に合っていなかったりする――ですら匙を投げてしまっていた。

 助けがないと分かり、さらに小さくなる二人。

 少々オーバー気味のリアクションだが、実際には何割かは照れが含まれているので心配の必要はない。むしろ落ち込んでいる訳ではないと分かったくらいだ。


 しかし、毎回上手く背中を守れるとは限らないので、猪突猛進とまではいかないが、その場の勢いに飲まれやすい性質は割と本気で何とかしてもらいたいものである。

 まあ、しばらくの間は今回の件を引き合いにだして手綱を握ることができるだろうが。


「それにしても、雷どんもスゥちゃんもすごいスキルだったね」

「まあ、色々と制限とかがあるものだからなあ」

「私としては、もっと攻撃的なものの方が良かったのだけど……」


 ルタに水を向けられた二人は微妙な顔で応えていた。特にスゥは自分のスキルに納得がいっていない様子だ。


「何を言っているの、あんなにたくさんの魔物の足止めができるなんてすごいことよ。自信を持ちなさい」

「そうそう。役立たずのがんもたちよりよっぽど助けになるっていうものだよ。それと雷どん、制限や条件があるならそれをしっかり理解しておけばいいだけのことだから、悪く考える必要はないよ」


 私とルタの言葉に笑顔になる二人。一方、地面に横たわって吐血しそうな勢いで呻きながら痙攣(けいれん)している物体が二つほどあったが、生きているようなので放置しておく。


「新しいスキルについてもう少し詳しい話を――と思っていたけれど、時間切れのようね」


 開発地中心の方角から親方さんを始め大勢の作業員さんたちがやって来るのが見えた。

 急いでスゥと雷どんの二人を動物の姿へと戻す。


「うーん、もう少し早く来てくれれば良かったのにと思っちゃうけど、二人のことで騒がれてしまいそうだし仕方がないかな」


 イベント的な気配もあったし、それは大人の事情というか設定的なものなので諦めるしかないところだろう。


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