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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
16 新米冒険者たちの話し
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254 任せろ!バックには俺たちが付いているゼ!

「それで、わざわざギルドの醜態をさらしてまで突入してきたのはどうしてですか?単に二人に会いたかっただけということではないでしょう?」


 言外に「もしそうでなければ承知しないぞ」という意思表示をしつつ遥さんが尋ねる。


「ち、違う違う!ちゃんと理由があってのことだから!」


 どうやらお怒り自体は完全に解けていなかったらしく、そのことを敏感に察知したみなみちゃんさんは慌てて答えていた。

 横から見ていただけでもあの重圧だったのだ。特殊な癖を持っているのではない限り、それを再び正面から受けてみたいとは思うまい。


「私たち『わんダー・テイみゃー』ならばその子たちの後ろ盾になることができると思って。もちろんファアさんやルタさんや仲間の皆さん、そして何より本人たちが同意してくれるならば、という話ではあるけれど」


 途中からはこちらを見ながら私たちに提案してくれる。彼女の言葉通りなら、あくまでも私たちパーティーやスゥ、雷どんの側に選択肢があるということになる。

 そして『わんダー・テイみゃー』のような大ギルドが後ろに付いてくれるだけで――プレイヤーやNPCを問わず、表立って行動する人から裏で糸を引く人まで――直接危害を加えようとする者は激減することになるはずだ。まあその分、嫌味などは増加するかもしれないが。


「ええと……、俺たちにとって好条件過ぎる気がするのですが?」


 餅べえがそう漏らしてしまうのも当然のことと言える。何というか話がうますぎるのだ。

 会話を聞かれていたので、こちらの困った状況を理解しているのは確かだろう。しかし、提示された条件は私たちにとって百利あって一害もないものであり、逆に『わんダー・テイみゃー』側からしてみれば特に利が見受けられないのである。


 もしも私たちがギルドメンバーであったならば、この待遇にも納得ができただろう。条件としてギルドへの加入を申し付けられたとしても不思議とは思わなかったはずだ。

 ただし何度も言っているように『わんダー・テイみゃー』はゲーム内屈指の大規模ギルドであり、動物好きやモフモフ好きのプレイヤーたちを中心に人気も高いので、ギルドへの加入はデメリットとしては捉え難いという部分もある。


「警戒する気持ちは分かりますが、いつものことですよ」


 なぜそんなに驚いているのか分からないといった顔で遥さんがそう口にする。


「いつものこと?」


 しかしそんな彼女の態度こそ分からなかった私は、重要だろう部分をおうむ返しにしてしまった。


「???……!ああ!そういえばファアさんたちはこちらに来て間もないのでしたね!」


 確かに私たちはまだこのゲームを始めてから日が浅いのだが、それがどうしたというのだろうか?

 何か新人プレイヤーが陥りやすい失敗でもしてしまっていたのだろうか?


「スゥちゃんと雷どんちゃんのことで頻繁に顔を合わせていたのですっかり忘れてしまっていました」


 そちらの方だったか。致命的な失敗はしていないようなので一安心だ。

 見ると仲間たちも同じ考えに思い至っていたのか大きく安堵の息を吐いていた。


「それで、いつものことっていうのは?」

「あっと、その説明からでしたね。……そもそもみなみちゃんを始め私たちがこのギルドを設立した目的の一つがレアモンスターとその主人となったプレイヤー(冒険者)の保護なのです」


 以前からサモナーの間ではレアモンスターを召喚できたできなかったで諍いが起きたり言い争いになったりすることが度々あった。

 炎上した掲示板が運営によって削除された事態も一度や二度ではなかったそうだ。


「なまじ成功事例ばかりが報告されるものだから、そういうものだと思い込んでしまう人も多かったのよね」


 一時は「サモナーであれば初期からでも楽に攻略できる」という噂まで立ってしまい、多くの人が確率という厚い壁に阻まれて撃沈していったのだとか。


「その分成功者へのやっかみが酷くなってね……。ついにはPKまで起きてしまったのよ」


 被害者の大半は煽るような文句で報告をしていた者だったので自業自得という側面もあったのだが、そうした状況が続けば純粋な喜びの声すら上げられなくなってしまう。

 実際、義務感から報告したプレイヤーが襲われるという事件も発生していたのだとか。


 その頃テイマーの中でも、数は少ないながらもレアモンスターを仲間にできたプレイヤーが現れ始めていた。

 このままいけば対岸の火事ではすまなくなるのではないか、そう考えたみなみちゃんや遥さんたちは――モフモフ好きの――知り合いを巻き込んで、いざという時には駆け込み寺としても機能できるようなテイマーを中心にしたギルドを作ることを画策し始めたのだった。


「市長たち町の有力者と懇意にしていたり、帝国のドタバタに首を突っ込んだりしているのも全てギルドの名前を売るためでもあるのよ。いくら志が高くても、無名じゃ頼ってもらえないから」

「ただ、ここまで大規模になってしまったのは完全に誤算でしたけれど……。しかもその原因の何割かはたった一人のプレイヤー(冒険者)だなんて、普通は信じられませんよね」

「あの子のことは言わないで……。ついに所在地すら臥せるようになっちゃったんだから……」


 ヒドゥンダンジョンの在り処のように情報を隠したい場合というのは多々あるので、現在地は内緒にすることはそれなりにあることではある。

 しかし遥さんたちからの口ぶりからするとギルドの仲間であるようだ。そんな相手が居場所を教えないというのは何やらおかしくはないだろうか?


「話がそれてしまいましたね。彼女のことは今回の件とは直接の関係はありませんので気にしなくてもいいですよ」


 要するに詮索はしないでくれということなのだろう。もっとも私たちも自分たちのことで手が一杯で、他人のことまで気を回せる余裕はないので問題はない。


「それで、どうかしら?ギルドへの加入云々は置いておくとして、私たちの提案は受けてもらえそうかな?」


 みなみちゃんさんの言葉に仲間たちと顔を見合わせる。


「悪くない話だと思う」

「同感だ。だが最終的な判断は二人に任せる」


 男たちは肯定的なようだ。まあ、そのことを理由に『わんダー・テイみゃー』へと堂々と出入りができるようになるのだから、動物好きな二人としては断る理由がないのだろう。

 それでも最終決定権をこちら、スゥと雷どんに委ねてくれるだけの判断力と理性は確保していたので仲間としては一安心でもある。


「かあさん、私は協力してもらうのがいいと思う。人だけじゃなくて、ここにいるモンスターたちもみんな親切にしてくれたから」


 スゥは賛成か。そしていつの間にか他のテイムモンスターたちと交流していたらしい。少し驚いたけれど、彼女の成長が嬉しくもある。

 ちなみにスゥの言葉を聞いた『わんダー・テイみゃー』の皆さんは、嬉しさ半分、誇らしさ半分といったデレデレの顔をしていた。

 さて、残るは雷どんだが、


「雷どんはスゥちゃんが良いなら構わないって」


 こちらも否やはないようだ。スゥへの配慮を欠かさない子だが、本当に嫌な時はきちんと主張するから、その点は間違いない。


 こうして、私たちは『わんダー・テイみゃー』の後ろ盾を得ることになったのだった。


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