249 不思議を見つけるだけでは終われない
数日ぶりに入ったギルド『わんダー・テイみゃー』のホールには種々様々なたくさんのテイムモンスターたちと、その子たちを愛でまくる大勢の人でごった返していた。
「ふおおおおお!!」
それを見て喜ぶ動物好きな仲間たち。そして、なぜか私たちの後をつけてきていた不審な男も歓喜の奇声を上げていた。
「彼、動物好きで一度うちのギルドに入ってみたかったのだけど、テイマーではないからと遠慮していたのだそうです」
その分別と配慮を私たちにも発揮してもらいたかったものである。ところで、
「あちらのたくさんの子どもたちは一体?」
絨毯が敷かれたホールの一画では、下は赤ちゃんから上は五歳くらいまでの子どもたちが十人以上も集められていて、大人しいテイムモンスターたちと遊んでいた。
「あれはこの近所の子どもたちですよ。ちょっと成り行きで保育所というか託児所の真似事をすることになったんです」
「え?でも今は夜時間のはずですよね?」
「ええ。でも『アイなき世界』は常に明るいでしょう。それに私たちのように夜時間に活動するプレイヤーも多い。だから必然的にその時間帯に働かなくてはいけない人が出てくるんですよ」
基本的には場所――とテイムモンスターたち――を貸し出すような形であり、子どもたちの面倒は大人のNPCが見ているそうだ。
時にはリアルで保育士の資格や幼稚園教師の免許を持っているプレイヤーが参加したりしているため、この近辺では幼年教育の水準が上がってきているという話だった。
「冒険というには物足りないかもしれないですけど、異世界を楽しむという分にはそういうプレイスタイルもアリ、ということなのでしょう。
ただ、そのうち古都ナウキの市長さんあたりから「モデルケースとして支援するから規模を拡大してくれ」とか言われないかだけが心配ですね……」
ナウキの市長さんは新しくても良さそうなものはどんどんと取り入れていく、リベラルな気風の人らしい。そうでもなければ第三陣が参加した際のお祭りなんてものは開催できなかっただろう。
また、お祭り目当て――という名目になっている――で多くの冒険者が集まったことから、その後の帝国との戦いに勝利することができたため、NPCたちの間でも彼の評価は高いものになっているという。
余談だが、私たち第四陣の参加に当たっては、大規模イベントが行われることはなかった。
それというのも第四陣参加と同時に受け入れ期間が削除され、自由にゲームを始められるようになったからだ。
またプレイヤー数が増加したことから、スタート地点に古都ナウキだけでなく、帝都近くにあるカオッサと北部の中心都市であるズフォークが加えられることになった。
つまり、ラジア大洞掘内であることには変わりがないが、中央、南、北の三カ所から自由に開始地点を選べるようになったのだった。
こうした新規プレイヤーの分散と、レイドボスや三国でのギルド対ギルドの戦いなど、大人数で参加するようなコンテンツが充実しつつあることによって、運営主催の大規模イベントは見送られたのであった。
「さて、いつまでもこうしていても仕方がありませんね。あ、少し込み入った話をしていますから、私への用事は後回しにしてください。……ええ。ギルマスへは私から伝えておきます」
近くにいたギルドメンバーに言づけると、奥へと繋がる扉を開けた。たくさんのテイムモンスターたちがいるこの空間を離れるのは名残惜しい気もするが、今は彼女の話、というか怪しい男の話を聞くことが先決だ。
周囲に見とれていた仲間たちと男を引っ掴んで、遥さんと共に奥の部屋へと進んでいった。
通されたのは会議室のような部屋だった。そこへ私たち、遥さん、男がコの字を描くように座る。もちろん向かい合っているのは私たちと男である。
それまでとは違って重苦しい雰囲気の中、口火を切ったのは男の方だった。
「まずは謝罪をさせて欲しい。気味悪がらせてしまって申し訳ない。こんなことを言っても信じてもらえないだろうが、君たちを脅すつもりも驚かせるつもりもなかったんだ」
「……信じるかどうかはとりあえずあんたの話を聞いてからだな。だがそれも、そちらにいる遥さんの顔を立ててのことだということは肝に銘じておいてくれ」
予想外の男の言葉に私たちは顔を見合わせた後、代表して餅べえがそう返したのだった。
「分かった。遥さんにも迷惑をかけてしまった。すまない」
「私への謝罪は必要ありませんよ。これからは周囲からの視線というものにも気にかけるようにしてください。それよりも、お互い自己紹介をした方がいいのではないでしょうか」
言われてみればお互い名前すら知らない。とてもではないが話し合って分かり合える状態ではないか。
「迷惑をかけてしまったこともあるし、こちらから名乗るのが筋だろう。私の名前はメガテン。
調査をしたり検証をしたりするのが好きなので、検証系のギルド『すうぱあひとしさん』に所属しているしがない調査員だ。
名前の由来は、いつか皆が驚いて目が点になるような発見をしてみたいからだ」
「はい。そのギルドは実在していますし、彼がそこのメンバーであることも問い合わせ済みです」
遥さんの追加の説明によると、地道で地味な反復作業により仮説の実証をしたり、丁寧で緻密な調査を行ったりすることで知られているギルドだそうだ。
それにしてもなぜその名前にしたのだろうか?世界の不思議を発見していくのは不可思議狩人であり、彼の御大ではないはずだが?
いや、総合司会という統括の立場にあることを鑑みれば、ギルドの名称としては妥当なのかもしれない。
いずれにせよ、今回のようなトラブルを起こして運営にぼっしゅーされないことを切に願う次第である。
「それじゃあ、今度はこちらの番だな。まあ、つけて来ていたことから既に知っているかもしれないが、一応は名乗っておこう」
と皮肉混じりに言ったのは、ニヒルになり切れないことで定評のある我らががんもだ。
そして肝心のメガテンの反応だが、こちらの名前は知らなかったようで、男二人の名を聞いて目を点にしていた。
そんな様子がツボだったのか、遥さんが一人笑いをこらえて悶えていたことも追記しておく。
「お互いの名前と素性も分かったことだし、本題に入ろうか。どうしてあんたは俺たちを尾行していたんだ?」
「私たちの次の調査・検証目標がレアモンスターの生態についてだからだ」
そう前置きをして、メガテンは彼らの調査の目的について語り始めた。
ネタがちょっとヤヴァイかもしれない……?




