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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
16 新米冒険者たちの話し
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248 上には上がいるもので

 ギルド『わんダー・テイみゃー』の建物の近くにまでやって来たところで、見知った顔が入口前に立っていた。


「いらっしゃい」


 その人物、(はるか)さんは私たちを見つけると、笑顔で出迎えてくれたのだった。


「ごめんなさい!待たせてしまいましたか?」

「ああ、違いますよ、ファアさん。ちょうど気分転換をしたかったから外に出てきていたのよ。それと、皆もいらっしゃいませ」

「テイマーじゃない俺たちまでお邪魔してしまって申し訳ないです」


 テイマーである私に類似職のサモナーであるルタはともかく、餅べえとがんもは戦士なので傍目から見れば場違い感がある。もっとも当人たちは――リアルを含めて――動物大好きなので喜々として私たちについて来ていたのだった。

 ちなみにいざという時には壁役になれるように二人とも盾を装備している。なんでもレトロゲームでは盾装備が基本だったから、なのだそうだ。


「あら、そんなことは気にしなくていいですよ。うちのギルドにはテイマー以外の職業の人も多く在籍しているのですから」

「え?そうなんですか?」

「ええ。……言っていませんでしたか?私の妹二人も職業は商人系ですよ」


 確か(なつめ)さんに(あきら)さんというお名前だったか、一度だけ会ったことがある。その時にテイムモンスターの紹介がなかったので少し気にはなっていたのだけど、そもそもテイマーではなかったかららしい。


「だから動物好きであれば遊びに来る分には何の問題もありません。ただ、ギルドへの加入となると審査が必要となりますけど」


 所属しているプレイヤーがいくつかの有名動画の公開元ということもあって『わんダー・テイみゃー』は比較的新興ながらも、この古都ナウキに居を構えるギルドの中では最大規模を誇っている。

 同時に『アイなき世界』全体としても所属人数が上位に位置する大型ギルドなのだから、加入に審査が必要なのは当然の事だろう。

 むしろ、そんな大ギルドのホールがほとんど出入り自由な『触れ合い動物(モンスター)広場』と化していることが異常とも言える。


「ところで、あそこにいる男が話にあった不審者?」


 遥さんがくいと形のいい顎を動かした先へと視線を飛ばしてみると、そこにはいかにも怪しい男が一人存在していた。

 別に姿形がおかしいという訳ではない。所々を金属で補強した革製の鎧はリアルでならともかくこちらではごく当たり前の格好だ。


 それでは何が怪しいのか?


 その挙動だ。


 その男は現在、隣にある宿屋――確か『聞き耳のウサギ亭』という名前で、以前からテイマー御用達の宿だったはずだ――の軒先に置かれた樽の陰にその身を隠していた。

 いや、隠れられていると思っているのは本人だけだろう。何せその樽は大型のトランクケースくらいの大きさしかなかったのだ。そんな物の後ろに大の大人――しかも鎧まで着込んでいる――が隠れようとすればどうなるのか?

 正解は色々とはみ出てしまう、だ。


「えーと、なんか色々とごめんなさい」

「あのくらいなら別にどうということはないですよ。プレイヤー、NPCを問わず変わった人は多いですから」


 後から来た話だが、副ギルド長を任されている遥さんは様々な方面と交流があるそうで、中には相当な変わり者や癖のある人もいるとのことだった。


「いえ、そちらだけではなく、面倒事を持ち込んでしまって――」

「こんなものは面倒事に入りませんよ」

「え?」

「うちには導入された新システムを誰よりも先んじて発現させてしまったり、突然ドラゴンの動画を送ってきたり、レイドボス出現に係ったりするような子がいるから、あの程度の変人が出たくらいでは何の問題にもなりません」


 言い切る遥さんの目は完全に座っていた。恐らく、そうした出来事の処理に走り回ることになったのだろう。


「それにしてもすごい実績ですね、その人。やっぱり攻略中心に活動しているんですか?」

「攻略と言えなくはないのでしょうけれど……。行く先々で設定されているイベントをことごとく起動させているような状態かしら。しかも困ったことに正規のルートじゃなくて、本人も気付かないうちに横道や脇道から侵入していることがほとんどなのよ」


 それは運営か何かが誘導しているのでは?遥さんたちもそうした疑問は抱いたらしく、問い合わせてみたところ「そうした事実はない」との回答だったそうだ。

 さらに「調査をした結果、異常は見当たらなかった」ともあったらしい。


「反対に言えば、正常に何かが作動しているっていうこと?」

「以前から噂されていたNPCの好感度設定辺りが関係しているのではないかと言われていますね」


 好感度が高いことによってイベントが発生し易くなる。なるほど、分かり易いし、あり得そうな設定ではある。


「話がそれましたけど、ともかく迷惑だなどとは思っていませんから、気に病む必要はありませんよ」

「ありがとうございます」


 社交辞令なのかもしれないが、そう言ってもらえただけでも心が軽くなるというものだ。私たちは素直に感謝の意を示したのだった。


「それではこの場は私に任せてくださいね」


 パチリとウインクして見せると、彼女はおもむろに件の男の方へと歩いて行ってしまった。


「少しお尋ねしたいのですが、そこで何をしているのでしょうか?」

「な、なぜ気付かれた!?」


 遥さんが問いかけると、男は狼狽して叫んでいた。しかし、こちらとしてはどうして気付かれていないと自信を持っていたのかと問いたい。

 それほど抜けていると思われていたのだとしたらかなりショックだ。仲間たちも同じように感じたのか、苛立ちをあらわにしている。


「痛っ!?ムカついたのは分かるけど、俺の背中や腕を突いたり抓ったりするのは止めろ!ファアも笑っていないで止めてくれ」


 ルタとがんもの怒りの矛先が餅べえへと向かっていたが、それは彼のリアクションが良い証拠でもある。

 同時に暴走してしまった場合、最も手が付けられなくなる餅べえの気を逸らして押さえる役目も果たしているのだが、それを本人に伝える必要はないだろう。


 一方、ファーストコンタクト以降、遥さんと男は声を荒げることも鳴く言葉を交わしているようだった。と、しばらくして二人が近寄ってくる。


「外で話すようなことではないので、彼にも中へと入ってもらおうと思いますが構いませんか?」

「はあ。遥さんがその方がいいというのであれば……」


 状況が掴めず、そう返すより他はないのであった。


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