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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
16 新米冒険者たちの話し
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247 レアモンスター

「あの子たち?ああ!そっちの二人はテイマーとサモナーだったな」


 おじさんが手を打ち合わせて思い出したと口にしていた。そう、私とルタはそれぞれテイマーとサモナーなのだ。

 男連中の二人を含めてまだまだ低レベルな私たちが曲がりなりにも何とかやっていけているのはそれぞれのテイムモンスター、サモンモンスターのお陰だといっても過言ではない。


「ここは混み合っていることが多くていつもは喚んでいないから、おじさんが知らなくても仕方がないよ」


 そう言って肩をすくめるルタ。加えてどちらも珍しい種族らしく、テイマーやサモナーの諸先輩方から「余計な騒ぎが起きないように街中では人前に出さない方がいい」との助言を受けていたのだった。


 ランダムで召喚する相手が決まるサモンモンスターはともかく、スタート地点である古都ナウキ周辺でレアモンスターが出現して、しかもテイムまでできるとはどういうことだと言われそうだが、私としてはできてしまったのだとしか返しようがない。


 検証によると、イベントを経て仲間にしたテイムモンスターはユニークな特性を持ちやすい――具体的にはプレイヤーの意図に沿った動きをしてくれやすいなど――らしい。

 私の場合、最初期のテイムモンスターを仲間にする職業専用クエスト――やらなくても可――を受けた際、さらにレアモンスター出現を引き当てたのではないかと考えられている。

 実際に以前からこのイベントではレアモンスターらしき影を見たという情報がいくつも上がっていて、最近では私の他にもレアモンスターを仲間にしたという報告が匿名ながら寄せられ始めたのだとか。


「やたらと強いモンスターを従えている新米冒険者たちがいるという話を小耳にはさんだことがあるんだが、もしかしてあれはお前さんたちの事だったのか?」


 私たちの様子から何かを察したのか、おじさんは声を潜めてそう尋ねてきた。


「……その条件なら他にも当てはまりそうな人たちがいそうだな」

「だが、俺たちもまたそれに該当しているのは確かだ」

「街中では隠しているけど、戦いのときにはそういう訳にはいかないしね。多分その時に見られたんだよ」


 推察するのは構わないけど、もっと声を落としなさい。普段通りの声量で話すものだから周りの人全てに聞かれてしまった。

 せっかくの気遣いを台無しにしてしまった仲間たちの姿に軽く眩暈(めまい)がしてくる。さらには、


「冒険者には大雑把なやつが多いからな。気にするな」


 と慰められてしまった。後で必ず説教をしなければ。


「すみません、さっきの話はどこで聞いたんですか?」


 だが、今はそれよりも話の出所についてもう少し詳しく探ることの方が重要だ。


「場所はここだな。冒険者たちが話していた。いつだったのかは……、すまん、はっきりとは覚えていない。多分ここ二、三日の間だったとは思うんだが……。そっちの子が言ったように戦っているところを遠目にでも見たんだろうよ」

「話している人たちの様子はどうでしたか?何かおかしなところとか気になる所はありませんでしたか?」

「悪いがその辺りのことは全く覚えていないな」


 そうなると、ただ単に珍しいものを見たというだけの事だったのかもしれない。

 しかし世の中には私たちのような初心者が珍しいものを手に入れるのを極端に嫌悪するという不可解な人もいる。絡まれておかしな難癖を付けられないように注意だけはしておくべきだろう。

 三人にも後でようく言っておかないと。


「おっと、いけねえ!つい話し込んでしまったな。すぐに査定を始めるから、他にも素材があるなら出してくれ」


 話は終わりだと言わんばかりに、業務に戻るおじさん。ちょっと動きが露骨過ぎるような気がしないでもないが、私たちとていつまでもここにいる訳にはいかない。大人しく残りの素材を出して査定をお願いする事にした。


 そして数十秒後、提示された金額の高さに思わず叫びそうになった餅べえの口を残る三人で抑えるというハプニングを乗り越えつつ、依頼の報酬と合わせて想像以上の成果に私たちはホクホク顔で冒険者協会を後にしたのだった。


「これだけあれば間違いなくモンスター用の収納ボックスを買うことができるね!」

「それどころか装備を新調できるかもしれないぞ!」


 テイムしたモンスターたちを収納できる専用ボックスの購入は私たちパーティーにとって一つの目標だったので、喜びもひとしおだ。

 さらに予定をはるかに上回る大金を得たことで、次の目標だった装備の刷新も現実味を帯びてきていた。


 ちなみに今現在私のテイムモンスターが入っている収納ボックスは、とあるギルドから格安でレンタルしているものだ。もっとも借りたのは一番安い物だったのでかなり座りが悪いらしい。

 しかしそれも今日限りだ。これからはあの子にも居心地のいい場所で休んでもらえる。そう思うと知らず知らずのうちに笑みが溢れてくるのだった。


「ところで、さっきから俺たちの後をつけてくるやつがいるんだが、気が付いているか?」


 前を向いたまま、ぼそっと私たちにだけ聞こえる程度の声量でがんもが呟いくと、私を含む残り三人が一斉に頷く。


「あー、私だけなら気のせいだと思えたのにー」

「いや、それも問題があるだろう」

「狙いは何かしら?」

「金目的じゃないのか?具体的な金額は言わなかったけど、依頼をS評価で終えた事やファンクローウルフの素材が高く売れたことはあの場にいたなら知っているだろうし」


 可能性としては一番あり得そうな餅べえの予想に反対意見を出す者はいなかった。


「それじゃあ、何かあってもすぐに逃げたり、助けを呼んだりできる場所まで移動するとしますか」

「それなら『わんダー・テイみゃー』の所に行こうよ。どうせ借りていた収納ケースを返さなくちゃいけないことだし、あそこなら珍しいモンスターたちが一杯いるから『(らい)どん』や『シリウス』を出しても驚かれないし」


 もっともらしいことを言っているが本当のところは、


「そんなこと言って、あそこにいる子たちとルタが遊びたいだけでしょ」

「バレたか」


 ということなのだった。だけどここからそう遠くはないし、可愛らしい名前とは裏腹にあのギルドには腕の立つ人が揃っている。逃げる先としては適当な場所に思えてきた。

 何よりルタが言ったようにうちの子たちを外に出してあげられるのが良い。


 こうして私たちは不審な男を引き連れたまま、ギルド『わんダー・テイみゃー』へと向かうことにしたのだった。

 ……迷惑をかけることになるかもしれないから、連絡だけは入れておこう。


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