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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
15 壁の向こうを目指して
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239 料理

 その後、何かの遊びだと勘違いした他の子たちに突進によって、お団子状態になりながらそれぞれとお話ししていった。

 すると、最古参のイーノやニーノですら不安に思っていることがあることが分かった。


 それは、戦いについて。

 ケン・キューカのアジト破壊の時に分かれて行動したことで、戦力不足を実感したそうだ。と言っているけど、本当はスライムさんたちにボクが捕まってしまったことを気にしているのだろうと思う。

 あれはどちらかと言えばボクの失態なのだけどなあ……。


 でも、みんなの不安はもっともなことでもある。魔物がうろつくこの世界はリアルに比べて危険が一杯だ。プレイヤーであるボクのテイムモンスターになったことで特殊な存在――HPがなくなってもプレイヤー同様死に戻りという扱いになる――になっているとはいえ、死にかけるような事態はできるだけ避けたい。

 だから、強くなることはとても大切なことなのだ。


「それじゃあ、どうやれば強くなれるかみんなで考えてみようか」


 幸いなことに特訓するためのスペースはあるしね。


「その前に……、何か食べさせてくれ……」


 あ、アッシラさんのことを忘れていた……。そ、それじゃあ先にご飯にしようか!


「リュカリュカの、あっという間クッキングー!」


 脳内であの曲を流しながらキッチンスペースへと移動。もちろんボクの後ろにはうちの子たちがぞろぞろとついて来ているよ。

 あ、ティンクちゃんはいつも通り、お手伝いをお願いします。

 さてさて今回の献立は、お馴染みの肉野菜炒めにパスタを投入してショウユで味付けした和風パスタと、余った野菜くずでスープを作ってみましょう。ええ、『組合長』さんたちの話に触発されたのですよ。


 用意するものは牛型の魔物マルバツオックス――正式表記は『○×OX』。運営さん遊び過ぎ……――の骨付きのお肉。お肉を切り離した骨はスープに使う予定。

 次はお野菜各種……。こらこらみんな、お野菜を見て文句を言わないの!完全肉食だった子はいないはずなんだけど、どうしてこうお野菜嫌いになってしまったのだろう?

 塩に自家製のミソとショウユにコショウショウショウと調味料を取り出し、最後に一番大事な……、調理技能!これであなたも料理上手!あ、ちなみにいつの間に技能レベルが上がっていたようで(基礎)の文字が取れていました。


 それではさっそく調理開始。キッチンスペースの前に立つとあら不思議、自動でお肉や野菜をちょうど良い形に切りそろえてくれます。

 ここでいつもなら捨てるはずの野菜の芯や皮にお肉の骨をまとめてお鍋にドボンと投入。煮だしてスープにしていきます。細かく言うと、根っこの野菜はお水から、葉っぱの野菜はお湯になってから入れないといけないのだけどね。


 さて、短時間の料理番組であればでき上がったものと交換するタイミングだけど、調理技能があれば一気に作り上げることができます。

 面倒な灰汁取り作業も一回やるだけでハイ、この通り。綺麗に澄んだスープになっていますね!

 これだけでも滋味あふれるお味ですが、具材が全くないのはちと寂しい。それでは、ふわふわ溶き卵のスープにしましょう、そうしましょう。


 ここでスープの方は一旦休憩。冷めないようにとろ火にしておく。火の番はティンクちゃんにお願いです。

 システムキッチンに最初は呆気に取られていた彼女も今ではすっかり順応してしまっている。一時は「こんな便利なものに慣れてしまったら、焚火でごはんが作れなくなってしまいます!?」と悩んでいたのだけど、最近では吹っ切れたもよう。単に諦めただけかもしれないけど。

 本職?の多恵さんたち『料理研究会』でも使っているのだから、気にしなくていいと思うんだけどね。


 それはさておき、和風パスタの方にうつりましょう。大鍋に大量のお湯でパスタを茹でていく。

 そういえば、この時にお塩を入れる必要がないとかいう話を聞いたことがあるんだけど、本当のところはどうなんだろう?

 最終的には個人の好みの問題ということになりそうなので、ボクはつい入れてしまうのだけど。


 それもさておき、具材である肉野菜炒め作りだ。こちらも本当はお肉を軽く焼いてからお皿に移しておいて、野菜は火が通りにくい硬いものから順に投入してしんなりしたところでお肉と混ぜ合わせる……、という手順が必要になるのだけれど調理技能があれば一気に投入しても美味しくできてしまうのでとっても便利。

 自家製ショウユをメインに少しだけ濃い目に味をつけて、茹で上がったパスタも投入して絡めていく。


 話は変わるけど、以前チャーハンを作った時にぶんぶんとフライパンを揺すってもごはんが一粒も零れなかった時には感動した。

 リアルでちょっと格好つけようとして悲惨な結果に終わった経験を持つ身としてはとっても嬉しかったのだ。こういう人、結構いるはずだよね?


 ここでティンクちゃんとバトンタッチ。パスタと具材を絡めてもらっている間に、スープを完成させてしまいましょう。

 まずはざるで濾して骨と野菜くずを取り除きます。卵を割った後に、殻に残った白身もしっかり指で掻き出して使うよ。貧乏くさい?もったいないと言ってください。結構バカにならない量になるんだから。


 しゃかしゃかと菜箸でかき混ぜてぐるりと外側から円を描くように流し込んでいく。ここで焦って混ぜてしまうとスープに卵が溶け込んでしまい、ふわふわ卵にならない。

 華が開くように溶き卵が浮かび上がってきたところでゆっくりと混ぜて、塩コショウで味を調えたら、完成です!


 引き続きティンクちゃんに和風パスタの取り分けと配膳を任せて、ボクはスープの方をそれぞれの食器によそっていく。

 スプーンやフォーク、お箸が使えるボクとティンクちゃんの分はテーブルに、他の子たちは一段高くした場所がテーブル代わりだ。


「はい、アッシラさんの分ね。面倒だけど全員が食べ終わるまでは『消臭』の継続をお願いね」

「うむ。そのくらいであれば造作もない」


 実はアッシラさんには、料理を開始してからずっと『消臭』の生活魔法を使い続けてもらっていた。匂いに釣られて魔物が寄って来るのを防ぐためだ。

 ボクたちがアッシラさんと出会ったのも『移動ハウス』から漏れ出た匂いを嗅ぎつけたからだったしね。


 加えて今のボクは樽の中に隠れていることになっている。その樽の中から美味しそうな匂いが漂ってきたら怪しいなんてものじゃない。バレないように気を付けるのは当然のことなのだ。


「それじゃあ、いただきます!」


 でき上がった和風パスタとふわふわ卵スープは、作られた時間よりもさらに短時間のうちに、ボクたちのお腹の中へと消えていったのでした。


 ごちそうさまでした。


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