235 出現
ボクたちが楽しい破壊活動に勤しんでいる間に、スライムさんたちは捕らわれていた仲間のエレクトリックスライムの救出に向かっていた。
しかし、何体かは救い出すことができたのだけど、多くのスライムたちは犠牲になってしまっていたそうだ。
「いのちをおとしたどうほうのことはざんねんだが、いまはすくいだすことができたなかまがいることをよろこぼうとおもう」
そう思ってくれるのであれば、手伝ったボクたちとしても救われるかな。
「ぐぬぬ……。我らによって知性を与えられた恩を忘れて逃げ出しただけでなく、我らの邪魔をしに来るとは……!お前のような欠陥ひにゅごっぱあ!?」
せっかくの良い雰囲気に口を出してきた空気を読めないケン・キューカのおじさんには、ビィの締め上げを再びプレゼントして黙って頂いた。
何やらおかしな悲鳴と共に聞こえてはいけない危険な音がしていたような気もするけど、人間を半分以上止めているようだし命に別状はないだろう。
実はこのおじさん、体のほとんどを機械化していたのだ。鑑定してみると、種族もサイボーグ人間となっていた。
……だから世界観というものをもう少し考えろと言いたい。違和感どころか、完全に異物だよ。
そして驚いたことにこの秘密研究所にはおじさん以外の知的生命体は存在していなかった。偉そうに自慢されるのが目に見えているので詳しい話は聞いていないのだけど、どうせ自分たちの体ですら研究対象にするようなマッドな集団だったのだろう。
しかし、サイボーグ化に成功したのはおじさんだけだったとかいうオチなのだろうと思う。
特に興味もないので聞くつもりはないけど。
それにしてもスライムさんはこの研究所で改造された存在でしたか。あんな天才スライムが自然発生したのではないことにちょっと一安心。
さすがにスライムさんのような規格外がポコポコ発生するようになったら大変だ。一体なら天才でも、数が集まると天災になりかねないからね。
まあ、今のスライムさんたちなら相互に不可侵の約束さえすれば、村の人たちとも諍いを起こすことなく生活していけるだろうと思う。
えーと、余談なんだけど、こうやってボクたちが話をしている間もうちの子たちは研究所内の破壊活動を続けていました。
今はセキュリティをわざと反応させて、出てきた警備用ロボットを壊して遊んでいる。そして倒し方すら確立したみたいで、エッ君やエリムを含めて全員が一撃でロボットを金属塊へと変貌させていた。
ボクにまでものすごい勢いで経験値が加算されているのでちょっとビビってます……。
もちろん、こうやって念入りに壊していることには訳がある。前にも軽く説明した通り、この辺りの地域は実質的に『神殿』の管轄下にある。
そして世界規模の組織である『神殿』には数多くの人たちが所属している。その中には権力欲に憑りつかれた人間や出世欲に凝り固まってしまった人間もいるかもしれないのだ。
もちろん、そんな欲とはかけ離れた人たちも大勢いるのだろうけれど、アッシラさんの一件でボクの心に刻まれた不信感は未だに根強く残ったままになっているのだ。
こうした個人的感情により、絶対に悪用されることがないように完膚なきまでに叩き壊しているのだった。
「うぐぐ……!おのれ、真理を理解しようともしない愚か者どもめ。だが、お前たちはすぐにでもおのれの行動を悔やむことになるだろう」
あ、性懲りもなくおじさんがまた変なことを言い始めた。
「我らが戯れにスライムに知性を与えたとでも思っているのか?」
「なんだと!?きさま、わたしいがいのどうほうになにをした!?」
「ふん!お前たちのような欠陥品はどこまで言っても欠陥品だ!だから我らは創り出したのだ!究極の生体兵器をな!」
おじさんが叫ぶと、壁の一面が開いてモニターらしきものが姿を現した。そしてそこに映し出されたのは、薄暗い中で蠢くブヨブヨとした物体だった。
「ぐっふっふ。あれこそが究極の兵器だ!いくら攻撃されても消滅することなく、わずかな時間で復活を遂げることができるのだ!」
あれ?それってもしかしなくてもレイドボスの特徴なのでは?
「あれのいばしょはどこだ!」
「くっくっく。無駄だ。あれはここより遠く離れた東の地、三国が戦場としている地にいるのだからな!」
あ、それはむしろ好都合じゃないかな。
ブイーム、ブイーム!
突然アラーム音が響き始めると、それに伴って照明が赤一色へと変化する。
「こんどはなにをした!?」
「くっくっく。この研究所の自爆装置を作動した。これで生体兵器を止めることはできなくなったのだ!ぐわっはっはっは!抗うことができない恐怖に絶望するがいい!」
自爆装置とかあるんだったら、こんなに必死になって壊して回らなかったのに……。すっごく無駄な体力を使ってしまった気分だよ。
むー、なんだかそう思うと無性に腹が立ってきたよ。おじさんの自慢げな笑い声も癇に障るし、ちょっと言い返してやろう。
「あの程度の魔物じゃあ、どうにもならないと思うよ」
「わっはっは――なんだと?」
「今、三国の間の戦場には三度のご飯よりも戦うことが大好きっていう人たちが集まっているんだよね。そんな人たちにとってみれば、強い上に復活してくる魔物なんてご褒美以外の何物でもないよ」
あそこにいる人たちは大規模な集団戦闘が一番好きなだけであって、魔物と戦うことが嫌いな訳じゃない。
実際レイドボスが登場したことで、何割かの人たちはレイドボスの討伐に流れていったそうだ。
「だからおじさんの最高傑作も復活してはすぐに潰されるっていうことの繰り返しになるだろうね」
きっと数日以内にはボス討伐のタイムアタック動画が公開され始めることだろう。
〈レイドボス、貪り食らいつくすものが出現しました〉
……動画のタイトルは『中二病死すべし!』とか『俺の古傷を抉るな!?』に決定だね。
数日以内どころか今日明日にでも公開されるかも。レイドボスさん、ご愁傷さまです。恨むならそんな名前にしたこのおじさんを恨んでください。
哀れな情景が脳裏に浮かんでしまい、思わず遠い目でナムナムしてしまった。
「は、はったりに決まっている!?」
ところがおじさんはまだ現実を見ようともしないで喚いていた。うるさいなあ。
それ以前に、そろそろ研究所から逃げないと危ないかも。
「それじゃあ、現場に連れて行ってあげるからその目でしっかりと見てみなよ。あ、スライムさん、ちょっと込み入った話があるからまた後でね」
「う、うむ」
スライムさんに挨拶してビィにキュッと縊られたままのおじさんを連行していく。
「アッシラさん、東へ飛んで!」
「おうよ!」
そしてアッシラさんに出てきてもらい、一路レイドボスが現れた地を目指すことに。
その日、大規模戦闘のメッカである戦場に二体の巨大な物体が現れた。
一体はインフォメーションが流れたレイドボスで不気味な色をしたスライムだったのだったのだが、周囲にいた戦闘狂たちに集られて、現れてわずか数十分で活動を停止することになった。
もう一体はなんと巨大なドラゴンだった。が、こちらは地上すれすれまで降りてきたかと思うと持っていた何かを放り捨ててすぐに去ってしまったのだった。
捨てられたなにかは人型をしていて、その背中にはでかでかと『私はレイドボスを創り出した悪の科学者です』と書かれていたという。
そしてその人型は、復活する度に集られて潰されるレイドボスを見て怪しい奇声を発していたのだが、そのうち動かなくなってしまったのだそうだ。
ちゃんちゃん。
最後の部分は第三者のナレーションではなく、リュカリュカちゃんのモノローグです。
それにしても作者にも予想外の所でスライム繋がりなお話になったしまいました。
元々リュカリュカちゃんのお供にスライムが欲しいなとは思っていたし、アッシラさん登場の段階でこの地方のレイドボスはスライムにすると決めてはいました。
が、それが繋がるとは全く考えていませんでした。
あら、まあ、びっくり。




