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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
15 壁の向こうを目指して
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234 破壊

 謎物体改め、謎ロボットの弱点――大質量が上からドスンなんて、生き物に限らずほとんどのものには弱点になると思う――も分かったところでスライムさんたちの士気はこれでもかというほど高まっていた。

 こうなってしまうと「次からは負けないぜ!」どころではなく、


「とらわれているどうほうたちをたすけにいくのだ!」


 なんてことになってしまった。居場所については知っていたのだけど、これまでは手が出せなかったのだそうだ。

 やっと巡ってきた逆襲の機会にすっかりハイになってしまっているみたい。

 同種族たちの熱気に当てられたのかエリムまで


「にょん!よよん!」


 と、何やらやる気を出している様子だ。

 まずいよ、これ!「それじゃあ、この辺でお先に失礼します」とはとても言えない雰囲気になってきているよ!?


「おお!おまえたちもてつだってくれるのか!?」


 はいー!?まだ何も言ってませんけど!?

 慌てて振り返った先には体格変化の特殊技能で大きくなって、スライムさんにアピールしているイーノたちの姿が!

 おうっふ……。他の子たちも当てられちゃっていたのかー。

 ティンクちゃんも苦笑いで肩をすくめている。


「結局ほとんど戦えずじまいになってしまっていたので、力が有り余っているみたいです」


 ついでにボクと離れ離れになってしまったストレスもあると言われてしまっては、反論することもできない。

 ボクたちはスライムさんたちご一行と共に、謎ロボットの本拠地へと向かうことになったのだった。




「ちょっと待ってくれ。それはもしかして、スライムたちのいる沢の源流がある小山の向こう辺りか?」

「あれ?『組合長』さん、知っていたんですか?」

「昔から何年かに一度くらいの頻度で小山向こうからおかしな連中が「食料を寄越せ」と言ってやって来ることがあるのだ。いつも金ではなく正体不明で何に使うのかも分からないようなアイテムで支払おうとするから、断ることになっていたんだが……」


 そもそもここで作られているのは町にいる『神殿』関係の人たちの食糧なので、勝手に売ったりはできないようになっているのだとか。


「そういえばやつらが来た後は決まってスライムの被害が大きかった気がするな」

「それって、腹いせにわざとこちらの方へとスライムたちを追い立てていたんだと思います。実験だの検証だのと言って、それくらいのことは平気でやるような連中でしたから」

「……そんなに悪どいやつらだったのか?」


 そんなに悪どい連中だったのです!

 なにせ……、




「ぐわっ!な、何者だ!?我々を偉大なる『ケン・キューシャ』の正当な後継である『ケン・キューカ』と知っての狼藉か!?」

「あれの関係者かー!!」

 だったからだ。

 シンリンジャーから話を聞いていたこともあって、ボクの中では悪の組織だと断定されていたケン・キューシャ。その生き残りとあっては放置しておく訳にはいかない。


 対立していた一方の意見だけを聞くというのはアンフェアじゃないかって?確かにそれはボクも気になっていたところだ。

 エレクトリックスライムを誘拐して生体電池のように扱っていたことだって、褒められたことではないけれどその有用性と使い道を知っていたなら他の人間であっても同じことをしていたんじゃないかと思う。


 だけど……、だけどケン・キューカのアジトにあったプレートを見て考えが変わった。

 そこにはこう書かれていたんだ。


 『人工生命製造研究所』と。


 こいつらは命ですらただの研究対象としてしか見ていなかった。その証拠に中の研究施設のほとんどには――その誤魔化し方はどうなのよと思わないでもなかったけど――モザイクがかかっていたのだ。

 そんな倫理観も道徳観もない、自分の欲望に忠実でマッドな連中を好き勝手にさせておく訳にはいかない。ボクたちは全力で研究所を破壊していくことにした。


「イーノとニーノはスライムさんたちと一緒に捕まっているエレクトリックスライムを探しに行って。途中にある怪しいものは壊しちゃっていいから。

 ワトは上から全体を監視、ビィは他に仲間が潜んでいないかを探って。ピンチの所の手助けもお願い。

 ティンクちゃんとボクは魔法で施設の破壊だよ。エッ君とエリムはボクたちの護衛をしてね」

「ごっ!」

「ふご!」

「ぴい!」

「しゃー!」

「に、にゃあ」

「!!」

「よよん!」


 ティンクちゃんはまだ照れが残っていたけど、それぞれ元気な返事を残して担当する場所へと向かっていく。

 ボクたちのさっそく近くの謎機械を破壊すべく魔法の準備に入る。

 相手は巨大な機械群だし、まずはあの魔法からいってみましょうか。


「『水撃』!」


 ぶあっしゃー!と大量の水をぶつけるけど……、あまり効果なし。


「エリム、あそこにちょっと放電してみて」


 それならと強制的に漏電を狙って水浸しになった機械へとエリムに雷を撃ち込んでもらう。

 ……うーん、これも効果が薄い?


「ふははははは!!そんな魔法程度では我らの英知が揺らぐことはないわ!絶縁体で保護しているに決まっているだろうが!」


 遠くで白衣を着た偉そうな人が何やら喚いている。

 ああ、ゴム素材でコーティングしてあるのか。だから水も雷も通さないということね。


「教えてくれてありがとう。これならどう?『氷針』!『風刃』!『飛礫』!」


 予想通り氷の針はドスッと刺さり、風の刃がスバッと切り裂き、小石がメキョッと凹ませる。


「なんだと!?」


 こちらが理解できるとは思ってもいなかったのか、白衣の人が驚いている。

 だけど、一度口から飛び出した言葉をしまうことはできない。こちらを見下していたことが敗因だよ。


「ティンクちゃん、あの壊れた所に『水撃』をお願い。エリムはその後に放電ね」

「にゃあ!」

「よん」


 そして壊れた隙間をさらに破壊して広げるように水の柱が叩き付けられた。

 わーお。ティンクちゃんの魔法の威力も上がってきているね。そしてすかさずエリムが放電びりびり!


「な?ああっ!?」


 パシュンとかバシンという音と光を出しながら次々にショートしていく機械たち。後からはうっすらと煙が立ち上っていた。


「まだまだいくよ!『地槍』で土台の部分を壊して、『突風』でなぎ倒しちゃえ!」


 ピタでゴラなスイッチみたいに、次々と倒壊していく機械群。ドミノ倒しって楽しいよね。

 ティンクちゃんもエリムと協力しながらどんどんと機械をショートさせていた。

 こらこらエッ君、卵の殻が割れたら困るから体当たりはほどほどにね。


「や、止めろ!我らが英知の結晶を何と心得ごべはっ!?」

「しゃー!」


 非難なのか自慢なのかいまいちよく分からない台詞が中断したので、どうしたのかと思って視線を移動させると、白衣のおじさんが巨大化したビィに締め上げられているところでした。

 胴回りが一抱え以上もある巨大蛇に締め上げられる人間という、アニマルパニック映画も真っ青な状況だけど気にしない。


 何せそのすぐ近くでは巨大ひよこ状態のワトが飛び上がっては、おヒップアタックを繰り返して機械を破壊しているというファンシーでファンタジーな光景が繰り広げられていたのだから。

 後からスライムさんに聞いた話だけど、イーノとニーノも怪しい機械を見つけるたびに喜々として破壊して回っていたみたい。


 こうしてケン・キューカたちの極秘研究施設は、ボクたちの侵入からわずか数十分で壊滅することになったのでした。


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