233 仲間
「確か、俺が依頼したのはスライム退治だったはずなんだが……?」
そう口にする『組合長』さんの声には呆れと驚きが多分に含まれていた。
無理もない、村に一軒だけある酒場の奥の小部屋で、彼と向かい合って座っているボクの腕の中には一匹のちびエレクトリックスライムがいたのだから。
「嬢ちゃんがテイマーだって話は村のやつらから聞いていたけどよ。よりによって討伐目標のはずのスライムをテイムして帰って来るとか一体どうなってんだ?」
「ええと、まあ、なんと言いますか色々とありまして……」
うん。本当に色々あったのだ。あの時確保した怪し過ぎる物体Aが実はシンリンジャーと敵対していた悪の組織ケン・キューシャの流れをくむケン・キューカという一派の手先で、生体電池として利用するべく繁殖期に生まれたばかりのエレクトリックスライムを捕まえに来ていた。
それから逃れるためにスライムたちは沢の下流へと移動、結果として村の田畑を荒らすことになってしまっていたのだった。
村の人や冒険者たちのこともケン・キューカ一味だと思っていたそうだ。さらにはあのスライムさんことエキセントリックスライムもやつらの怪しい実験によって生み出された存在だったのだ!
という感じでここまででも十分に盛りだくさんな内容だったのに、ついにはレイドボスまで現れて……。
もうお腹一杯です……。
「……話すと長くなりますけど、聞きたいですか?」
「さすがに「スライムたちが沢を下ってくる原因をなんとかしたからもう大丈夫です」なんて言われて、「はい、そうですか」という訳にはいかないからな。何よりスライム退治ではなくなってしまっているから、依頼を取り下げるか差し替える必要もある。多少長くなっても構わないから詳しく聞かせてくれ」
そう言われてしまっては拒むこともできない。ボクは腕の中のエレクトリックスライムを撫でながら、物体Aの身柄を確保した時のことから話し始めることにした。
スライムさんたちの住処である洞窟には物体Aを含めて三人の謎物体が襲撃してきていた。
「おお!おまえたちがたすけだしてくれたのか!おんにきるぞ!」
スライムさんいわく、この謎物体たちは生まれたばかりの赤ちゃんスライムを拉致しようとやって来ていたらしい。
そして物体Aを倒したことで、スライムさんはボクたちのことを完全に信用するようになっていた。そんなに簡単に余所者を信用して良いのかとちょっと彼らのことが心配になってしまったのだけど、いまさら戦いたくはないので黙っていることにした。
「こいつらはわれらのもつかみなりのちからをつかって、きかいとかいうものをうごかしているのだ」
つまり、生きた電池として利用してきたという訳だ。
そんな連中だから当然、雷や電気の性質には詳しくて、
「われらのとくいとするかみなりがほとんどきかないので、なんかいかにいちどはとりにがしてしまうことがあったのだ」
どうやら絶縁体で体を覆っているみたいだね。物体たちの姿は全身タイツじゃなくて、全身ラバースーツだったということだ。
……傍目からみると、どちらも変態っぽいことには変わりがないけど。
だけど、本当にびっくり仰天するポイントはその中身にこそあった。
覆面を剥いだ下から出てきたのは、なんと機械の顔だったのだ。ラバースーツの方も着せられているだけのようだったので同じように剥いてみると、出てきたのは予想通り機械の体だった。
「わーお……。このファンタジーな世界でメカメカしい物を見ると、違和感が半端ないね」
「ぬうう。なかまをりようしてうごくものになかまをつれさらわれていたとは……!くつじょくだ!」
動く気配はなかったけれど、何かの拍子に再起動するかも分からないので残る二体とこれまでに返り討ちにしてきた物体たちは念入りに破壊してもらうことにした。
え?得意の雷が効かないのにどうやったのかって?
スライムたちのうち何体かはかなりの大物であったことを覚えているかな?
彼らに乗ってもらいました。
跳ねてもらいました。
潰れました。
ええ、まさかの『物理で殴る最強伝説』の爆誕です。これにはスライムさんも驚いていたもよう。
「こ、こんなかんたんなことにいままできづかなかったなんて……!」
とショックを受けて、うちの子たちに慰められていたりした。
ところで一ついいかな?
スライムさんと合流してから、正確に言うと物体Aから助け出してからずっと、エレクトリックスライムの赤ちゃんがボクの足に纏わりついて来ているんですけど……。
「リュカリュカさん、この子テイムして欲しいのではありませんか?」
ティンクちゃんにもそう見えてしまいましたか……。
〈エレクトリックスライムがテイムできるようになっています〉
そして久しぶりのインフォメーションさんの登場。ゲームシステム的にもオッケーですか、そうですか。
「スライムさん、この子やけにボクに懐いてくるのだけど、テイムしちゃってもいいの?」
「うぬ……?ああ、たすけてもらったことによろこんでいるのか。ほんにんがのぞんでいるのならもんだいはないぞ」
うちの子たちの献身的な励ましのお陰で何とか復活を遂げていたスライムさんに尋ねると、あっさりと許可が下りた。
ちなみにうちの子たちは「新しい仲間が増えるの!?」的なワクワクした表情を浮かべている。
「えーと、きみ、ボクたちと一緒に行くということは、群れの皆と離れ離れになるっていうことなんだよ。それでも良いの?」
しゃがみ込んでちびスライムをプニプニしながら伝えると、迷うようにプルプル震えた後、再びボクの足に引っ付いてきたのだった。
そっか、決めちゃったか。
それじゃあ、ボクも心を決めよう。
「それならきみも今日からうちの子だよ。テイムモンスター!」
ピカッと強い輝きが治まると、そこにはボクのテイムモンスターとなったちびスライムが佇んでいて、次の瞬間にはイーノたちにもみくちゃにされていた。
こりゃこりゃ。嬉しいのは分かるけど、みんなと違ってレベルが低いんだから加減してあげないとダメだよ。軽く注意すると、ボクは大事な課題に取り組むことにした。
「仲間にしたからには名前を決めてあげないとね。うーん……。よし!君の名前はエリムだよ」
エレクトリックスライムだからエリム。ちょっと安直かとも思ったけど、本人は気に入ったようで嬉しそうにぷにょんぷにょんと跳ねていた。
「よん、にょん!」
謎の奇声を上げながら。
……え?
スライムって鳴くの!?
「ほほう。まだうまれてまもないというのに、もうこえをはっすることをおぼえたのか。このこはかしこいな」
……鳴く、みたい。
今日も『アイなき世界』は驚きと不思議に満ちていました。
ドラゴンとスライムは仲間にするべきかどうか迷っていたのですが、やっちゃいました。
喋るというか、鳴くのはリアクションが分かり易いからという作者の都合が多分に入っています。
きっとそのうちエッ君も鳴くようになるはず……?




