232 確保
こんにちは!スライム退治に来たはずが逆に捕まってしまって、絶賛スライムさんたちの寝床に連れ去られている最中のリュカリュカです。
うーん、用心していたつもりだったんだけど、心のどこかで油断していたのかなあ……。
やめやめ!これ以上うじうじと後悔しても何にもならないよ!それどころかせっかく逃げ切ることができたうちの子たちを危険に晒してしまうかもしれない。
さっさと切り替えてこれからのことを考えよう!
まずは何はともかく、現状を伝えなくちゃいけないかな。それと感情に任せて突っ込んでこないように釘を刺しておかないと。
ティンクちゃんなら様子を見て隙を窺ってという判断もできるだろうけど、他の子たちにもそれを求めるのはちょっと酷だろう。
何だかんだ言ってもみんなまだまだ小さな子どもだし、エッ君に至ってはまだ卵から孵ってすらいないからね。
「アッシラさん、聞こえますか?」
「聞こえておるよ。……しかし、見事に捕まったな」
「えへへ」
「笑い事ではないぞ……」
小声で呼びかけると呆れたような、それでいてどこか安堵したようなアッシラさんの声が聞こえてきた。あ、ボクの声は聞き取り辛いので、通常の発音状態でお送りしております。
ちなみに現在、大き目のエレクトリックスライムの背?に乗せられているんだけど、ポヨンポヨンな上に時々低周波のような微かな電気が走ったりしてとっても快適です!
ホネホネホーネットの攻撃で全身麻痺していなかったらもっと良かったのに……。まあ、麻痺していなかったらそもそも捕まっていなかっただろうけどね。
そして仰向けに寝かされているので、アッシラさんのいる『移動ハウス』はボクの下で担いでいるスライムに埋まっている状態なんだけど……。普通に会話できているね?はてさて、これはアッシラさんの力なのか、それとも『移動ハウス』の隠し効果なのやら……。
うん。なんだか面倒なことになりそうなので、アッシラさんのぱわーということで!
「それで、やつらにバレる危険を冒してまで話しかけてきたということは、何か逃げる算段が付いたのか?」
え?そうなの?小声の内緒話だから気付かれないものとばかり……。
「……その様子だと、そこまで考えておらんかったな。そんなことだからあんなホネにやられたり、スライムに捕まったりするのだ」
「お、お説教はまた今度で!今はこれからのことを考えないと!」
今でも事あるごとにみなみちゃんさんやバックスさんからのお説教メールが届いているというのに、この上アッシラさんにまでお説教されるようになっちゃったら、毎日がお説教漬けになっちゃうよ!
ボクは慌てて話題転換を図った。
「みんなが暴走しないように付いていてあげてください。さすがにティンクちゃん一人では荷が重いと思うから」
「うーむ……。昨日飯を食べたばかりだからそのくらいは造作もないことだが……」
???
何か気になることがあるのだろうか?
「何をしでかすか分からない、お前のお目付け役がいなくなるというのも、な……」
えー、そんな理由なのー。それ以前に、アッシラさん自身もボクがやらかした――ということになっている――ことの一つなんですけどー。
「まあ、あの子らが無差別に暴れ回る方が問題か。分かった、その役目は引き受けよう。だが、くれぐれもこれ以上の無茶はするんじゃないぞ!良いな、絶対だぞ!」
実は振りなんじゃないかしらん?などと思えてしまうくらい念を押してから、アッシラさんはそっとみんなの元へと向かってくれたのだった。
「そうやって気配をなくす動きができるなら、ボクたちにも教えてくれればいいのになあ……」
思わず通常の声量で呟いてしまったボクは悪くないはず。
「なにかいったか?」
「何でもないよ」
とスライムさんの追及を適当に流しながら運ばれていくのでした。
あ、ものすごく今更になるのだけど、スライムさんの鑑定結果をここでお知らせしておきます。
種族名はエキセントリックスライム。スライムがお話しして仲間に指示するなんてどう考えても普通じゃない。名は体を表すという通り常軌を逸しているですね。
エレクトリックと似せてあるので、上位種族か突然変異の個体ということになるのだと思う。喋るスライムの情報なんて今までに一度の出てきていないので、多分後者だろう。
こんなトンデモスライムが何体もいたら怖い!というボクの願望も入っているのは否定はしません。
それにしてもドナドナ状態のはずが、乗り心地が良過ぎるせいか全くそんな気にならない。これはちょっと困った事態だ。緊迫感がどんどんなくなっていくのですよ、はい。
並のマッサージチェアなんかでは太刀打ちできない気持ち良さだ。だんだん瞼が重くなって、く、る……。
はっ!ね、寝てないよ!?
ふと気づくと、スライムたちの動きが止まっていた。ボク一人だけそんな別次元の戦いを繰り広げている間に目的地に到着したのかな?
だけど、何か様子がおかしい?ようやく動くようになってきた首と連動させて周囲を見回してみると、そこはまだ森の中だった。
「ぬ!このけはいは!?またやつらがきているのか!?かえりうちにしてやれ!」
スライムさんが叫んだ途端、
「あ痛!?」
ボクはぺいっ!と地面に投げ捨てられ、スライムたちはものすごい勢いで目の前にあった洞窟らしき場所へと突っ込んでいっていた。
「いたた……。うわ!なんかすごいことになってる!?」
打ち付けた腰をさすりながらようやく上半身を起こした時には、洞窟の中に閃光がほとばしっているのが見えたり、ビシャーン!という甲高い音が聞こえてきたりしていた。
「リュカリュカさん!」
「おふっ!?」
呼ばれたと同時に体のあちこちにそれなりの衝撃が走った。
こ、今度は何!?
また魔物からの奇襲攻撃かと慌てて視線を巡らせてみると、ボクの体には五つの巨大引っ付きむし、もというちの子たちがぴったりと寄り添っていた。
「あ……、ごめんね、みんな。心配かけて」
落ち着かせるように一体ずつ丁寧に撫でていく。この子たちがここにいるということは、さっきの声はティンクちゃんかな?
振り返った先には予想した通り黒にゃんこさんことティンクちゃんが小さなドラゴンを肩に乗せて立っていた。
「ティンクちゃんもごめんね。そしてみんなの面倒を見ていてくれてありがとう」
「いえ。アッシラさんも来てくれましたから。でも、ご無事なようで安心しました」
近寄ってきたティンクちゃんも他の子と同じように撫でてあげると、ホッとしたようなはにかんだ笑顔を浮かべてくれた。
「これでお役御免だな。それでは『移動ハウス』に戻るとしよう」
小さくなってティンクちゃんの肩に乗っていたアッシラさんはそれだけ言うと、さっさとボクの背負っている『移動ハウス』の中へと戻ってしまった。
最近分かってきたことなんだけど実は彼、結構照れ屋さんなのです。特に面と向かってお礼を言われるのが苦手ならしく、今回もボクがありがとうを言う前に逃げてしまったという訳だ。
落ち着いたらアッシラさんの好物の肉野菜炒めを作ってあげることにしよう。
そんな感じでボクたちがちょっとの間ぶりの再会を楽しんでいると、二足歩行の生命体らしき物体が、スライムさんたちが突っ込んでいった洞窟からこそこそと出てきた。
いや、そうとしか形容できないよ。黒の全身タイツっていうの?それを着込んで頭だろうと思われる部分には覆面のようなものを装着していた。
ふと、互いに目が合い、硬直するボクと物体A。
その腕の中で小型のエレクトリックスライムがぴちぴちと釣り上げられた直後のお魚のように跳ねまわっているのが見えた。
「あ、怪しいやつー!みんな、確保してー!!」
うちの子たちの総攻撃を受けて物体Aは一瞬でノックダウンしたのでした。
という訳で、確保、しました。
物体Aは、戦隊ものに出てくる悪の戦闘員のようなイメージです。




