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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
15 壁の向こうを目指して
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230 発見

 おばちゃんを始め何人かの村人たち話によると、北の沢というのは小山の中腹から湧き出した水が小さなせせらぎになっているというものだった。

 せせらぎは雑木林を抜けて田畑を潤した後、他の川と合流して大きくなることもなく大洞掘の壁の隙間へと流れていくのだそうだ。


 そして、今回のボクの討伐対象であるスライムたちは上流の雑木林に住み着いているということだった。そのスライムたちについてもいくつか重要な話を聞くことができた。


「何年か前にスライム退治に同行したことがあるんだが、あの時は参ったよ。やつらときたら麻痺の状態異常を持っているみたいでな。大物に気を取られている間に小さいのに近づかれて何人もの冒険者が痺れて動けなくなっていたよ」


 なんと大きいものだと小さな物置くらいまで成長するらしい。だけど危険なのは動きが素早くて的を絞り難い小さいものの方だという。

 話にもあった通り、隙を突いて近付いて来ては麻痺の状態異常にされてしまうのだそうだ。


「スライムの割に随分と賢そうですね?」

「昔はそうでもなかったんだがな。ここ数年、妙に知恵がついたような動きをすることがあるよ」


 そういえば『組合長』さんも似たようなことを言っていた。

 ちなみに、通常スライムは相手がどんな存在であろうとも正面から突っ込んでくるという脳筋――筋肉も脳もないけどね――仕様だ。

 極まれに魔法や擬態といった技能を習得している種類のものもいるけれど、そうした連中でさえ仲間同士で連携したり、こちらの隙を突くといった知能的な動きを見せるものはまずいない。

 麻痺の状態異常持ちだということもあるし、たかがスライムだなんて甘く見ない方が良さそうだね。


「準備は念入りにやっておかなくちゃ」


 まずは村の道具屋さんで回復薬だけでなく麻痺回復薬に状態異常の回復薬――いわゆる万能薬の類でどんな状態異常にも効果のあるやつね。高かったよぅ……――を買い込む。

 続いてもしもボクが麻痺等で動けなくなった時にも各自の判断で戦闘を継続できるように練習しておく。幸いにもすぐに退治しに行けとは言われていないから、ある程度形になるまではしっかりとやっておくことにした。


 どのみち、あちらではこちらと同じように町や村があるのかも分からない。頼れるものは自分たちだけという可能性も大いにある。

 早く進みたいという思いはあるけれど、ここは訓練ポイントなのだと頭を切り替えてみっちりと練習を繰り返していった。


 余談だけど、うちの子たちが大きくなっているのを見て驚いていた村の人たちも、二日目には慣れて、三日目には子どもたちの軍団が押し寄せてくることになりました。

 順応早過ぎだとティンクちゃんと二人で笑ってしまった。


 そしてついにスライム討伐に向けて出発する日となった。いや、村から歩いて一時間くらいの近場なんだけどね。

 そういえばなぜかスライムは村の方には進出してこないのだそうだ。理由があるような気もするけど、案外ゲームの仕様ということもあり得るので深くは考えないことにした。『移動ハウス』から全員――アッシラさん以外ね――外に出てもらい、陣形などを確認しながら歩いていると、あっという間に雑木林に到着した。


「ここからは慎重にいくよ」


 林と言っても木々の密度は低いので十分に明るい。ワトにふよふよと飛んで先行してもらいながら不意打ちに備えて進んでいく。

 スライムだからビィの熱感知センサー的なものが効き辛いのが地味に痛いです。


 用心しながら歩くこと数分、目的の沢の近くまでやって来ることができていた。

 木々の陰から顔だけ出して沢の方の見ると、うわー、いるわいるわ。

 ほのかに黄色く色付いた半透明の物体がでーんと沢の両脇にある砂地に広がっていた。


 あれ?よく見るとこれくっついてない?

 なに、ここのスライムって群体か何かなの?

 それとも合体しちゃうの?


 絨毯のように一面に広がるその様子に、頭の中がわきゃわきゃとなりながらも鑑定技能を使っていく。


 結果、スライムさんたちは『エレクトリックスライム』という種族で、たくさんの個体が集まってくっ付いているように見えるだけだということが判明した。

 って、エレクトリックって電気だよね?まさかの雷属性スライムですか!?

 あー、そりゃあ麻痺とか起きるかー、と妙に納得してしまいましたよ。


「それにしても、随分と大きさに違いがあるね……」


 今はどの個体も、のべーっと広がっているから高さは数十センチというくらいなのだけど、大きいものだとテニスコートの半分くらいはある。逆に小さいものだと直径にして五十センチ程度しかない。


「ティンクちゃん、こいつら魔法を使えると思う?」

「年を経てヒュージスライムに進化した個体が魔法を使ったという話は聞いたことがありますけど、あそこにいるのは珍しいとは言っても通常種ですよね?それなら魔法を使われる心配はいらないと思います」


 ふみゅ。それじゃあ通常攻撃に気を付けていれば、麻痺する危険は少ないかな。

 問題はそれが属性付加によるものなのか、状態異常付加によるものなのかは分からないことだよね。それというのも抵抗となる部分が異なるからだ。


 検証チームによる調査によると属性系、つまり魔法の効果で状態異常が発生する場合、抵抗できるかどうかは魔力の値が関係してくる。

 一方、毒や麻痺に暗闇といった身体面の状態異常は体力値に、混乱のような精神面に影響する状態異常は知性値に依存するらしい。

 これについて運営さんは――いつもと同じく――何も正式な発表をしていない。だけど、有志による検証数はかなりの数になるのでまず間違いないだろうと言われている。


 ボクたちの場合、前衛寄りが多いうちの子たちは体力が高めだけど反面魔力や知性の数値は低めだ。そしてボクやティンクちゃんは魔法メインで戦うことが多いということもあって、魔力と知性が高くて、体力は低い。


 当初の予定では普通?の麻痺攻撃だと思っていたから、最悪体力値の高いうちの子たちのごり押しでやっつけるということも考えていたのだ。

 だけど、魔法効果によるものだとなると、抵抗できずに状態異常になって後は一方的にやられてしまう可能性もある。

 これはもっと以前の討伐時の話を詳しく聞いておくべきだったね。


「……みんな、ここは一旦引こう。もう少し情報を集めてからじゃないと危な過ぎる」


 一当てして相手の力量を図るというのも手だけど、再戦を認められずに失敗扱いになってしまっては目も当てられない。ボクたちの目的はあちら、サウノーリカ大洞掘へ行くことであってスライム退治ではないなのだから。


 そんな訳でお暇させて頂こうとこっそりと移動を開始したところで、


「そこにいるのはなにものだ!?」


 スライムたちしかいるはずのない沢の方から、なぜか誰何の声が飛んできたのだった。


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