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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
14 混迷する帝都
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224 魔王&邪神の退場

 暗殺者プレイヤーの仲間だと思われていた相手からの不意打ちによる死に戻りに、フードの人物――自称なのか他称なのかは不明だが、邪神、らしい――の捕縛という急展開についていけていない仲間たちや、その後のギャグよりな状況に俺が頭を抱えたくなっている中で、グドラク――予想通りと言うかなんというか、やっぱり彼は魔王でミロクと呼ばれていた――とその配下、そして邪神の三人による寸劇は続いていた。


「グヌウアアアア!!このままお前たちに捕まるくらいなら、いっそこの地全てを巻き込んで消え去ってやる!」

「ほあっ!?まずいっす!何か物騒なことを言い始めたっすよ!?」

「九割方は君が煽ったせいだよね!?」

「そんなことを言っている場合じゃないっす!早く何とかして欲しいっすよ!」

「そしてまさかの他力本願!?」


 おいおいおいおい!?大丈夫なのか?ここまできて帝都もろとも消滅エンドとか勘弁してくれよ!?

 そして邪神とかラスボスクラスのやつが、ちょっと拘束されたくらいで二流悪役みたいなことを言い出すなよ!


「キャハ!キャハハハハハハ!!消し飛べ!消え去ってしまえ!」

「ぎゃーす!やばいっす!魔力が集約し始めているっす!このまま集まり続ければ、肉体の限界を超えて、ボンッ!!っすよー!?」

「混乱しながらも詳しい説明ありがとさん!……あれ?仮にも邪神なんだからその肉体に溜め込んでおける魔力の量ってかなりの量になるんじゃないか?」


 確かにこの地全てを巻き込むとか、いくら超強力な魔法が使えても尋常ではない量の魔力が必要になるだろう。


「それって集めるだけでも相当な時間がかからないか?そもそも、それだけの魔力量がこの辺り一帯にあるのか?」

「……あ」


 指摘されて気が付いたのか、間の抜けた声を出したのは魔力を吸収していた当の邪神だった。

 ……そうか、できないのか。魔力なんてどこにでも無尽蔵に溢れ返っていて、それを吸収して己が魔力として行使できる量の違いが魔法使いの力量差だと思っていたぜ。

 だがそうではなく、どちらかと言えば空気中の成分とかと同じで、一定の空間には一定の割合しか魔力は存在していないという感じなのかもしれないな。


 そしてそのくらいの量では邪神が自爆できるほどの魔力には達しないということか。

 俺自身は生活魔法程度しか使えないのでそれがどのくらいの魔力量になるのかは分からないが、『諜報局UG』の魔法が得意なメンバーの反応――引きつった顔で硬直していた――から察するに、べらぼうなようである。


 ふと脳裏に大量の魔力を吸い込んで風船のようにパンパンに膨らんだ姿が思い浮かんだ。

 ふむ、丈夫なんだな。邪神の体というのは。


「おい、そこのお前!今なにか失礼なことを考えただろう!?ぐぬぬう……!邪神である僕をバカにするなんて許さないぞ!」


 と、そんな思考を見抜いたのか捕らえられたままの邪神がこちらを睨んでくる。

 うおっ!?おっかねえな!台詞の方はすっかり黒幕からお子ちゃまへと大幅にランクダウンした感じだが、眼力の方はいささかの衰えてはおらず、視線で射抜かれたかのように感じてしまった。

 この辺りは邪神を自称しているだけのことはあるということか。


「ミロク様、魔力を吸われきってしまうだけでも色々と良くない事が起こりそうなので、今の内に何とかして欲しいっす!」

「へいへい……。とりあえず場所を変えるとするか」

「ぐう……?な、なにをする気だ、まお――」

「『転移』!」


 邪神の言葉を遮ってグドラクが叫んだかと思うと、次の瞬間には三人の姿は影も形もなくなっていたのだった。


 ……はっ!散々場をかき回しておいて、いなくなりやがった!?

 ちゃんと後始末までしていけよ!


「ギルマス!皆!大丈夫か!?」


 だが、そんな文句を言う暇もなく、外で待機していた増援部隊が突入してきた。どうやら謎の力の元凶である邪神がいなくなったことでその結界も解けてしまったということらしい。


「た、助かったのか……」


 何人かが呆けたように呟いていて、他の何人かは腰が抜けたのか座り込んでしまっていた。あんな人外どもと相対していたのだからそれも仕方がないというものだ。

 しかし、状況が掴みきれていない後から入ってきた連中は、そんな仲間たちを見て驚いていた。


「まずはそこら中に転がっている『闇ギルド』のやつらを捕獲してしまおう。詳しい話は戻ってから他のギルドと一緒に行うことにする。それでは、動ける者は全員取りかかってくれ」


 ここで、なぜだとかどうしてだとか騒ぐ者がいないことからも『諜報局UG』の結束の強さと、リーダーであるユージロの統率力の高さがうかがえるというものだな。

 そして大量のミノムシが出来上がるころには、全員問題なく動けるようになっていた。


「そうだ!ユージロ、あれが偽物だったと、一応確認しておいた方がいいんじゃないのか?」

「……気は進まないが、やっておいた方が結果的に安心できるか。先ほどの薬のようなものを浴びた者は鑑定と確認を行うので、全員集まってくれ」


 ユージロの号令に従って先発隊のメンバーが集まってくる。害がないことは分かっているが、俺も対象者ではあるのでその中に混ざる。

 結果から言うと、鑑定でも何かしらの異常は発見できず、さらには軽く傷をつけてみても誰一人として痛みを感じる者はいなかった。


「やっぱり『ペインドラッグ』というのは、こちらの動きを止めるためのブラフだったようだな」

「そういえばバックスさんは最初から嘘だと分かっていたような様子でしたね。何か根拠でもあったのですか?」


 佐介の疑問はもっともだと思う。だが、困ったことに明確な証拠に気が付いたということではなかった。


「非常に説明し辛いし理解もし難いとは思うんだが、強いて言うなら勘、ということになるか。どうにもあの邪神とか呼ばれていたやつの言葉は胡散臭く感じてな」


 リアルに比べると『アイなき世界』の方が第六感的なものが働きやすいというのはよく言われていることではあるが、冷静になって考えるとかなり無茶なことをやったものだ。

 もしも痛みが走っていたかと思うと、背筋を嫌な汗が流れていった。それは話を聞いた全員が思ったことらしく、乾いた笑みを浮かべたり、頬を引きつらせていたりしたのだった。


「ギルマス、倉庫にあったアイテムの回収も終わりました」

「分かった。時間も押してきているし、一旦ギルドホームまで戻るぞ」


 こうして、死に戻ることこそなかったものの、二度目の『闇ギルド』襲撃も想定外な出来事の連発で終わったのだった。


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