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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
14 混迷する帝都
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222 壊滅?されど事態は好転せず

 『闇ギルド』が拠点としている場所の一つに突入してみると、二人の謎の人物によって制圧された後だった。

 まるで性質の悪い冗談のようだったが、謎な人物の内の一人が俺とユージロ、そして今回は別行動となっている権三郎の三人を瞬殺したあの暗殺者プレイヤーであることから、不本意ながら現実のもの――ゲームだがな!――だと理解したのだった。


「な、なんだ?扉から外に出られない!?」

「外にいるはずの仲間への連絡が一切できなくなっています!?」


 一緒に突入した『諜報局UG』のギルドメンバーたちが叫び声を上げる。建物の外にいた見張りたちを音もたてずに無力化していた彼らが、だ。つまりそれほどの異常事態ということだといえる。

 結界と言っていたので、恐らくは空間魔法の『結界』と似たような効果なのだろう。

 確か、本来はセーフティーエリアを作る魔法だが、応用で指定した相手のみが往来できる空間を作ることができるのだったか。俺は随分前に一度だけ見たその魔法の効果を思い出していた。


 そしてそれを引き起こしたであろうフードを被った謎の人物の片割れは、ニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべていた。目元が隠れている顔の下半分だけでそう感じさせるのだから相当なものだ。

 もしもフードがなければ思わず殴りかかっていたかもしれないな。いや、案外それが向こうの狙いだったのかもしれない。


「おいおい、そんなに怯えないでくれよ。せっかく君たちへのご褒美を準備して待っていたのだからさ」

「……ご褒美だと?」

「その通り!君たちが色々と動き回ってくれたお陰で、僕の手間が省けてね。これ(・・)はその少しばかりのお礼という訳さ!」


 そう言ってフードの人物は舞台じみた動きで周囲の惨状を見回していった。

 大方の予想は付いていたが、本当にたった二人でここの制圧をしてしまったようだ。『闇ギルド』の中でも戦闘能力が高い連中が集まっていたにもかかわらずだ。

 一体どれほどのレベルや技量に到達できればそんなことが可能になるのか?改めてその事実を突きつけられて、背筋に薄ら寒いものを感じていた。


「ああ、安心してくれていいよ。他の場所も同じように全員昏倒させておいたから」


 なんだと!?こちらは連中のことを常に監視――しかも複数で、だ――していたんだぞ?その目を掻い潜ったというのか?

 いつの間にそんなことを!?


「いやあ、さすがに一か所当たり数分で潰して回るのは骨が折れたよ。こういうやつらってどうしてこう害虫のように散らばって隠れているのかね?集まってくれていれば楽だったのにねえ」


 フードの人物は別段なんでもないことのように、自分たちがしでかしたとんでもない行為を語っていった。


「移動はあらかじめこっちの彼に目印を置いてもらっていたから簡単だったのだけど、やっぱり数がねえ。あはは。いつの間にか増えているところも害虫そっくりだったね」


 耳障りな声と台詞に心がささくれ立ち、しかめっ面になっていくのが分かる。それでも行動に移せない(・・・・)のは、相手との絶望的とも言える力量差を感じ取ってしまっていたからだろう。

 あらかじめ目印を置いていた、ということは『闇ギルド』の拠点に連中にも、その監視をしているこちらにも気付かれることなく潜入していたということに他ならないからだ。


 それと、仲間たちは分かっていないようだが、移動が楽だったのはその目印に向けて転移系の能力で瞬間移動したからだろう。

 先ほどの結界といい、やはりこいつは空間魔法かそれに準ずるような能力を持っていると考えておいた方が良さそうだ。


「まあ、でもそのせいでここの処分が遅れてしまったのは失敗だったね。まさか僕らが撤退する前に踏み込まれるとは。……見られたからには死んでもらうしかないよね」


 突如、フードの人物は底冷えする言葉を発し、敵意をむき出しにし始めた。

 慌てて臨戦態勢へと移るも、その濃密な害意に思わず腰が引けてしまう。


 だが、失敗云々に関しては嘘だろう。何せやつは先ほど俺たちを待っていたと言っている。意図は不明だが、最初から生かして返すつもりなどなかったのだ。

 そしてそれが自身の正体の一端を示していることを理解していなかった。


 俺たちプレイヤーはゲームのシステム上、死ぬことはない。俗に死に戻りと呼ばれる強制移動が行われるだけ――もちろんデスペナルティは受けることになるが――だ。そしてプレイヤーかどうかを見分けることができるのは今のところプレイヤーのみなのである。

 よってプレイヤーの事情を知らなかったこいつは、高確率でNPCということになるのだ。


 ……問題はそれが分かったからといって、攻略の糸口ができた訳ではないということだな。


「おやあ?勝てないと分かっている割に絶望した顔はしていないね?もしかして自分たちは死なないとでも思っているのかな?」


 パシャリ。と、液体状の何かがかけられたのだと気付いたのはしばらく経ってからだった。


「これ、なーんだ?」


 空き瓶を持ったやつがそう言ってにんまりと口角を上げた瞬間、それまでとは比べ物にならないくらい嫌な予感が襲いかかってきた。


「まさか……」

「ペ、『ペインドラッグ』なのか……?」


 俺たちが何の行動もできないでいる間に、誰かがその可能性に辿り着いてしまう。


「いやあ、君たちがあちこちで暴れてくれたお陰で、予定していたよりも簡単に、しかも大量に手に入ったよ」


 はったりだ!やつは一度も自分の方からは『ペインドラッグ』だとは明言していない。

 さらに大量というのもブラフの可能性が高い。なぜなら、俺たちが掴んでいる情報によると現段階では『闇ギルド』は『ペインドラッグ』を入手しようと躍起になっているところだったからだ。既に手に入れてしまった後なのであれば、もっと異なる動きを見せているはずなのである。


 しかし、俺たちはそれを言い出せない状況に置かれていた。例の暗殺者プレイヤーが目を光らせていたのだ。

 その目はただひたすらに冷たく、少しでも怪しい動き――やつらから見ての話だ――をすれば、その瞬間にやられてしまう。そんな気持ちを抱かされてしまっていた。


「……つまらないな。命がかかったらもっと抵抗してくれるかと思ったんだけど……。君、この前の時にやり過ぎたんじゃないの?」

「……知らん」

「やれやれ……。まあ、それを言うなら君と戦った人たちが出張ってきたことも予想外か……。仕方がない、さっさと終わらせて戻るとしようか」


 まずい!せめて浴びせられたものが偽物だと証明しないと、一方的に蹂躙されてしまう!

 生半可な傷では痛みがないと分からないか……。ええい、ここは腕一本くらい犠牲にしても惜しくはないはずだ!


「それじゃあ、今度は俺たちと遊んでもらえないっすか?」


 決死の覚悟を決めて左腕を切り落とそうとしたところに、場違いな軽い口調が響いてきた。


「うわ!?もしかして間一髪だったか?」


 そして続けて聞こえてきたのは、いつかどこかで聞いたことのある声音をしていたのだった。


最後に割り込んできたのは誰なんだー(棒)?

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