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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
14 混迷する帝都
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221 いざ!突入!

 増援部隊による陽動というのは、『闇ギルド』ほどではないにしてもそれなりにお痛(・・)をしていたイリーガル系のギルドを叩いて回ることだった。

 当初案では警告を兼ねた痛撃を与えるだけという予定だったのだが、『闇ギルド』に悟られないようにするため壊滅することに変更したのだとか。

 正直に言うと俺はそんな理由で潰されてしまったやつらには多少の同情の念を感じていたのだが、蓋を開けてみるとどのギルドも『ペインドラッグ』らしきアイテムを隠し持っていたと聞いて「潰されて当然だな!」とあっさり前言を撤回したのだった。


 どうやら一言でイリーガルギルドといっても行動や考え方に違いがあるところも多く、いくつかのギルドとは協力とまではいかなくても情報を融通し合う関係にあるようだ。

 今回もそうしたギルド経由で『ペインドラッグ』所持の疑いがあるという情報を入手したことが、壊滅作戦決行となった一つの理由なのかもしれない。

 まあ、あくまでも素人考えなので、本職の皆さん――ゲーム内での話だ。……いや、案外リアルでも本職な人間が混じっているかもしれない――には別の意図があったとしても不思議ではないがな。


「それでも勘付いているやつはいる、か」

「ああ。こちらとしても、あれだけで全ての目を逸らすことができたとは考えてはいないさ」


 本命の『闇ギルド』への攻撃のために配置についている俺たちの目の前にあったのは、完全武装で警備に当たる一団だった。

 俺を含む『諜報局UG』の担当となったのは『闇ギルド』の中でも特に戦闘能力の高いいわゆる武闘派の連中が拠点としている場所だった。全体の戦力バランスを(かんが)みて、増援を呼んだために人数が多かったとこともあるのだろう。

 しかし、それ以上に独断で動いたことへの罰という意味合いも多分に含まれていたように思う。


 前回の襲撃時と同様に、その場所は帝都の地下道にこっそりと作られていた。闇の中に篝火とその周囲だけが浮かび上がる様は幻想的で、まるで映画か何かのワンシーンのようだ。

 まあ、ロマンス溢れる甘酸っぱいものではなく、血と叫び声が木霊するような戦闘ものだけどな。


「こういうのも違法占拠だとか、違法建造物だとかいうのかね?」

「さてな。そもそも取り締まる側の帝国が、この地下道のことを把握しきれているのかどうかすら疑問だぞ」

「それもそうか」


 ユージロと二人で間の抜けた会話をしながら決行時間を待つ。佐介以下ギルドメンバーたちにも気負っている様子は見受けられない。

 こうした状況に慣れているのか、それとも内心を(あらわ)にしない術に長けているのか。どちらにしても味方であるなら頼もしい限りだ。


 そうこうしている間に時間が迫ってくる。発起人である権三郎からメールで、予定通り作戦を始める旨が送られてきていた。

 今のところは予定通りで邪魔も入ってはいない、か……。

 だが、このまま問題なく進むということはまずあり得ないだろう、この時の俺はなぜかそんな気がしてならなかったのだった。




 視界の隅でカウントダウンが進むのが見える。それに伴い周囲の緊張感も増しているように感じられた。そしてゼロが表示された瞬間、ユージロたちは静かに行動を開始した。

 雄叫びを上げるような真似をする者は一人もいない。静かにそして着実に得物を追い詰めていくその姿はまさしくハンターだった。


 戦闘のために呼ばれたのに、何を暢気に観察しているんだ、だって?

 そうは言われても、俺にはあいつらみたいに隠蔽技能を持っている訳でもないから、一緒に動くと目立って仕方がないんだよ。

 囮になるならともかく、今はいかにして建物の中にいるやつらに気付かれないで、外にいる見張り兼警備のやつらを無力化するかということが大事だから、俺の出る幕はないという訳だ。

 もちろん、暴れたい気持ちはあるんだが、それで作戦を台無しにしてしまっては元も子もない。

 特に俺の一言が元で予定になかった増援を追加することになっているからな。これ以上勝手な真似はできないのさ。


 さて、俺がうずうずしている間にもユージロたちは着実に警備のやつらを無力化していた。

 しかし、改めて見るとすごいな。俺の場合は手加減技能に頼った力押しだが、『諜報局UG』の面々はそれをプレイヤースキルでこなしていたのだ。

 いや、マジでリアルでもそっち関係の職に就いているんじゃないのかと疑いたくなるほどの手際の良さだ。

 声も出させずに次々と戦闘不能に落とし込んでいくその姿を見て、不用意に彼らの怒りを買うことがないように気を付けようと心に刻むのだった。


 ふとユージロと目が合うと、手招きを受けた。外の制圧が完了した合図だ。勢いついているこのまま中へと押し入っていくようだ。

 つまりようやく俺の出番ということだ。増援に来てくれたメンバーたちは、もしもの事態、中にいる連中に逃げられてしまった時の対処や、この前の暗殺者プレイヤーのような規格外が潜んでいた時にすぐに乱入できるように二重、三重の包囲網を作り上げていた。


 しかし、建物の中に入った俺たちが目にしたのは想像もしていなかった光景だった。


「なっ……!?これは!?」


 体育館ほどの広さ――地下道のため高さはそれほどなく、三メートル程度だった――のその場所にはたくさんのプレイヤーが倒れ伏していた。

 最初は毒や麻痺といった状態異常になっているのかと思ったが、近寄って行った仲間の仕草から違うようだ。どうやら大ダメージを受けたことで気絶しているだけらしい。


 そして体が残ったまま、ということはつまり辛うじてHPが残っているということになる。繰り返しになって恐縮だが、瀕死の状態に留めるのは単純にHPを全損させることに比べるとはるかに難しいことだ。


 そして、それをやってのけたのであろう者たちが空間の中央に立っていた。


「おや?思っていたよりも早かったね」

「…………」


 一人は深いフードで目元まで隠した――よくあれで視界を確保できるな……――魔法使い風の男で、もう一人は逆に目元だけが露出した覆面姿をしていた。


「全員厳戒態勢!俺たちがやられた例の男だ!すぐに増援部隊も突っ込ませろ!!」


 そう、二人目の男は忘れもしない苦い敗北の味を舐めさせられた相手だったのだ。

 「ピィー!」俺の叫び声に従って佐介が指笛を吹く。これで外にいた仲間たちもすぐに突入してくることになるだろう。

 数に任せるだけで勝てるような生半可な相手ではないが、それでも少しは勝ちの目が増えるはずである。


 そうなるはずだったのだ。


「あはは。今の素早い判断はなかなかのものだったね。でも、残念。ここには結界を張ってあるんだ。ほら、君らが外にいる間、僕らが暴れた音もしなかっただろう?」


 楽しげに笑うフードの男。その言葉が真実である証拠に、一向に外からの増援がやってくる気配がなかったのだった。


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