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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
14 混迷する帝都
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220 他人から見ると?

 作戦の決行は予定通り行われることとなり、それに合わせて『諜報局UG』のメンバーも続々と集結してきていた。

 予想外だったのが、他のギルドからも増援が来ていたことだ。どうやらユージロは筋を通すために各ギルド長には増援のことを話して回ったらしく、その際に同じような危機感を持ってくれたギルドもあったのだとか。


 もちろんいい顔をしない者たちもいたようだが、強硬に反対されなかっただけでもマシというものだろう。まあ、独断専行で動いた罰は作戦後にきっちり受けるとユージロが明言していたためとも言えるのだが。

 これについては「共同体として動くためにはどうしても必要なことなのだ」と権三郎からも頭を下げられた。


 確かに例え上手くいったとしてもこんなことを許していけば、組織や共同体としては立ち行かなくなってしまう。

 仕方がないとは分かっていても、無理を言った身としては少しでもその責を軽くできたり肩代わりできたりはしないものかと考えてしまうのだった。


「バックスさん、大丈夫ですか」

「うん……?ああ、佐介か。どうかしたか?」

「いえ、難しい顔になっていたので声をかけさせてもらいました」


 ああ、いかんな。また考え込んでしまっていたのか。


「こういう言い方はどうかとは思いますが、既に事態は動き始めてしまっています。今さら止めることもできなければ、なかったことにもできません。

 手から離れてしまったことをいつまでも思い悩んでおらずに、今新たにできることを考えて行動するべきではありませんか?」


 なかなかに辛辣な物言いだな。だが、そうであるためか、あえてそうした言葉を選んだ彼の気遣いというものも同時に感じることができた。

 普段はやわらかな風貌だが、それでもこの帝都の支部を統べているだけのことはあるというべきか。沈み込んでしまった部下に発破をかけることもそれなりにあるのだろう。


「気を遣わせて悪いな。長いこと一匹狼を気取ってやってきたからか、どうにも集団ならではのけじめのつけ方というものに納得ができずにいるようだ。

 ああ、頭の方では理解しているから心配しないでくれ。少なくとも納得できないからと言って暴れ回るようなことはしない」

「そんなことになったら『闇ギルド』も作戦もあったものじゃないですから、絶対に止めてください」


 いや、冗談というか、やらないから。まさか真顔で返されるとは考えてもみなかったぞ……。

 実は俺、暴れん坊か何かのように思われているのだろうか?


「それと、バックスさんが一匹狼というのは違和感しかないのですが」

「どういうことだ?」

「本当に一匹狼であるならば、のちほどのPvPを条件にクエストの手伝いなんてしませんよ。後、一般的には『わんダー・テイみゃー』の関係者だと思われていますから」


 なんだと!?確かにリュカリュカ関連――主にやらかしたことの後始末的な方面――で『わんダー・テイみゃー』にはよく出入りしていたが、そんな風に思われていたのか?

 言われてみるとそれまでは稀にあったギルドへの勧誘が、最近はすっかりなくなってしまっていたようにも思う。


「その様子だとやっぱり気が付いていなかったようですね。みなみちゃんや幹部たちは既成事実となるように、あえて何も言わなかったのでしょう」

「マジか……。しかし、俺なんて取り込んだところで得することなんてないだろうに」

「その辺りは個々人の考え方次第なので私からは何とも言えませんね。ただ、有名プレイヤーが所属していることでギルドの名前を売ることはできます。……が、あそこはもう十二分に有名でしたか」


 そうだな。古都ナウキをメインホームにしているまったり系ギルド――実際はアルスたちNPCへの協力や、リュカリュカのフォローなどで大忙しなのだが――の中ではトップクラスの知名度を誇っているな。

 場合によっては攻略系のギルドよりも有名で、そのためおかしな対抗意識を持つ連中が掲示板で絡んでくることもあるそうだ。

 しかしその連中、直接ではないところが何とも情けない限りではあるな。リアルでもこちらでも陰口をたたくようなやつらは変わらずに存在するということか。……あ、中の人は同じなのだから当たり前か。


「だが、そうなると本気で俺を取り込もうとする意味が分からんな」

「案外リュカリュカさんと仲が良いので手元に置いておきたいというところなのではありませんかね。あわよくば彼女の担当にしようとか?」

「おいおいおいおい!?それが一番ありそうな気がしてきたぞ!?今からでもきっちり言っておかないと、なし崩し的に押し付けられそうだな……」


 恐ろしい未来がありありと浮かんできて全身に寒気が走る。

 だいたいあいつは人に言われて素直に従うようなやつじゃないだろう。担当と言っても手綱を握って行動を御するようなものではなく、彼女がやらかしたことの後始末役にしかならないはずだ。


「バックスさんがそこまで恐れ(おのの)くとは……。リュカリュカさんとはそれほどに扱いが難しいプレイヤーなのですか?」

「いや、本人はいたって素直でいい子なんだが……。放っておくと何をしでかすか分からない部分があるとでも言えばいいのか?

 ついでに『アイなき世界』限定で騒動に巻き込まれやすい体質でもあるようだな」


 騒動に巻き込まれやすいというのは、ゲームだからプレイヤーである俺たち全員に該当することではあるのだが、彼女の場合その時に起きる騒動の質が他のプレイヤーよりも強大であるような気がしてならない。

 食材を取りに行っただけの魔獣の森で怪獣大決戦を引き当てるなんて、普通ならまずあり得ないはずだろう。しかし、リュカリュカだとそれが起きてしまうのである。


「噂の好感度関連の影響でしょうか?」

「どうだろうな?運営の説明によればイベントの発生確率が若干上がるというだけの代物だろう?イベントの難易度というか質まで変化するものかね」


 逆にそうではないとも言い切れないけどな。


「まあ、今はリュカリュカの事より、目の前の作戦のことに集中しないとな。……増援を呼んだことは『闇ギルド』のやつらには気が付かれているんだろう?」

「はい。他のギルドの人員も合わせると百人を超えていますからね。さすがにあれを見逃すほど耄碌はしていなかったようです」


 チッ!まだそれなりの手練れは揃っているということか。


「ですから目眩ましと陽動ついでに一騒動起こすことにしました」

「は?」

「実は今回の作戦のあおりを受けて後回しになっていたことがいくつかありまして。どうせならそちらを終わらせてしまおうということになりました」


 こいつら一体どれだけの(はかりごと)を抱えているんだ……。笑顔の佐介がちょっぴりと恐ろしく感じられたのだった。


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