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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
14 混迷する帝都
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218 それでも選ばなくてはいけない

 俺たちを瞬殺した人物に対しての方針が決まらない理由の一つに、情報をリークしてきた相手がよく分からないということがあった。


「よく分からないとは言っても、やつがプレイヤーだろうと垂れ込んできたくらいなんだし、当然その人物もプレイヤーということになるんじゃないのか?」

「それがでござるな……」


 言い辛そうに口を開いた権三郎の言葉をまとめると、その情報を受け取ったのは『SI・NO・BI』のギルドメンバーの一人なのだという。

 そしてその垂れ込み方法がメールによるものだった。


「バックス殿も知っている通り、メールのやり取りができるのは『フレンド』と『お知り合い』登録している相手に限られているでござる」


 ちなみに同じギルドの仲間は『フレンド』とほぼ同じ扱いとなる。それと、様々な連絡事項の通達のために運営からは一方的に送信できる――形式上は『冒険者協会』から、というものも多い――ようになっているが、これは例外なので気にしなくてもいいだろう


「今回も過去に『フレンド』登録していた相手からのメールだったのでござるよ」

「それは、これ以上ないくらい身元がはっきりしていると言わないか?どうしてこんな事態になっているんだ?」

「実はその相手というのが、リアルの都合で随分前から『アイなき世界』をプレイしていなかったのでござる」


 久しぶりに入ってきたメールで、しかも内容がピンポイントに自分たちの追いかけていたことだったため、驚いてメールを送り返しても一向に音沙汰がなかったのだそうだ。


「……アカウントハックされたか?」

「そいつもすぐにその可能性に思い至ったらしいでござる。運良くその相手というのがリアルでも親交のある知人だったので、あちら経由で連絡を入れて運営に調査をしてもらうように勧めたそうでござる」

「素直に従ってくれたのか?」

「最初は「そんな暇はない」だの「いざとなればアカウントを捨てればいいだけ」だのと言って取り合わなかったそうでござるが、RMTリアル・マネー・トレード等の犯罪に利用されると後が面倒になると説得して、やっと応じてくれたそうでござる。

 今は運営からの返事待ちだという話らしいのでござるが……。それもどこまで信用できるのか分からないというのが、某の本音でござるな」


 RMTの危険性を示唆されてやっとその態度ということは、ゲームのアカウント作成を『仮登録』で行ったということかもしれないな。

 この『仮登録』というものは、ゲーム内課金が一切できなくなるなどの一部サービスが利用できない代わりに、細かな個人情報を登録せずにゲームを始められるというものである。主に未成年プレイヤーに多く見られて、確かゼロたち六人も『仮登録』プレイヤーだったはずだ。


 それでもリアルの当局にかかればログインした場所を特定したりできる訳で、捨てアカウント感覚なのはいかがなものか。

 特に『アイなき世界』はようやく随時新規参入可能に移行しようとしている状態であり、誰かのプレイ枠を奪っているのにも等しい。

 いつか再開したいという思いがあるのならともかく、そうでないならさっさと辞めてしまえとも思ってしまう人間も多いだろう。


「これは情報の信憑性を疑われても仕方がないな」

「全くもって弁解の余地がないでござるよ……」


 加えて、この情報を受け取ったのが『SI・NO・BI』のメンバーであったことも問題を複雑化させていた。

 ギルド長である権三郎が謎の相手に負けた失点を補おうとギルドメンバーが自作自演をしているのではないかという疑惑が上がっているそうだ。


「その点はうちのメンバーであっても同じだったと思う。ただ今回は複数のギルドをまとめ上げて共同で作戦を実施することに成功した権三郎たちの方を狙った方が、よりこちらのダメージになると考えたのだろう」


 ユージロの言った通りだとすると、協力体制にあるこちらに互いに疑心暗鬼の目を植え付けようとしていることになる。

 そうなると狙いはこちらの分裂か……?

 垂れ込んできたやつは相当の切れ者だと言えそうだな。


「このまま放っておいても(らち)が明かないので、こちらからも運営に問い合わせることにしたのでござるが……」

「色よい返事がもらえなかったのか?」

「調査の約束はしてくれたが、いかんせん定型文での回答だったからどこまで力を入れてくれるのかは不透明だな」


 『アイなき世界』もプレイヤーたちの行動範囲が広がっているからな。純粋に運営の手が足りていないのかもしれない。

 ついでに俺たちは運営が危険視している『ペインドラッグ』の問題を自力で解決しようとしている問題児たちでもある。行動を制限するためにあえて調査の報告を遅らせるという可能性もあるのだった。


 これは、下手にあの男を気にし過ぎると、身動きが取れなくなって最悪仲違いしてしまいかねないな……。『リベンジャーズ』を抑えていられる期間にも限度があるだろうし、最低限の対策――PKされた時に本命のアイテムを奪われ難くするため、ゴミアイテムを大量に持っておく――だけしておいて、『闇ギルド』への攻撃を再開した方がいいんじゃないか?


「やはりその辺りが妥当か……」

「『ペインドラッグ』の回収を考えると、不確定要素はできる限り取り除いておきたかったのでござるがなあ……」

「計画立案者としては完璧を目指すのは仕方がないことだが、妥協できるところ(・・・・・・・・)と、妥協するべきところ(・・・・・・・・・)はきっちり見極めておかないと、周りで調整する人間の負担が膨大になるぞ」


 俺の忠告に心当たりがあったのか、権三郎が眉間にしわを寄せる。


「耳に痛い言葉でござるな。言われてみればここ数日、うちの者たちは疲れた顔をしていたのを思い出したでござるよ」


 覆面をしているのに分かるのか!?と思わず口走りそうになったのを気合で静止する。

 俺は空気の読める男なのだ。


「まあ、『リベンジャーズ』を仕上げるのにももう少し時間がかかるし、攻撃するメンバーの調整も必要だろう。それでも、とりあえず方針だけでも伝えておけば安心できるのは確かだな」


 こうして俺たちは、不安要素を解決できないまま、再度『闇ギルド』の壊滅作戦を進めていくことになる。

 そして神ならぬ身としては、この選択が間違いではなかったと言えることを祈るより他はなかったのだった。


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