217 内々の報告会
それから数日後、ようやく一段落がついた俺たちはお互いの近況を報告しあっていた。
報告会場となった『諜報局UG』の支部長室に集まっているのは俺とユージロ、そして権三郎の三人。他のギルドの関係者がいないのは全情報を知るものは少ない方がいいという判断からだ。
決してギルド同士の仲が悪かったり、俺がハブられている訳ではないぞ。まあ、自分たちの受け持つ役割で忙しいことと、俺の報告内容である元被害者の件がそれほど緊急性を有するものではないということはあるのだろうけれど。
「元々ある程度の連携は取れていたこともあって、かなりの上達を見せているな。このまま本人同士や俺を相手に鍛錬を続けるのもいいが、できれば戦闘スタイルが『闇ギルド』の連中と通じるものがあるようなやつとも戦わせておきたい」
しかも勝つためなら奇襲だろうと卑怯だと非難されるような手だろうと何でも使うような相手がいい、と付け足すと二人は思案顔になった。
……言っておいて何だが、そんなプレイヤーに心当たりがあるんだな。むしろ、それぞれのギルドに所属している可能性大だな。しかも複数。
「一つ確認しておきたいのだが、元被害者たち……、今は『リベンジャーズ』と呼称しているのだったか?彼らは直接手を下したがっているのか?」
「本音を言えばそれぞれ自分をはめた相手に直接復讐したいのだろうが、それが無茶な要望だということは理解しているな。その分せめて次回の『闇ギルド』への攻撃には参加したい、というところだ」
「そしてバックス殿が鍛えたことによってその資格は十分にあるという事でござるか……」
「十分かどうかは先程頼んだ相手との訓練次第だな。何せ俺ではどうしても正面切ってのぶつかり合いになってしまうからな」
加えて俺が訓練であることをつい忘れてしまい、PvPを楽しんでしまいがちだということも挙げられる。要するに教官役には向いていないのだ。
せっかく本人たちがやる気を出しているのに、俺のせいで大成できないのでは申し訳がない。
「まあ……、バックスならそうなってしまうか」
ユージロ、しみじみ言うな。
「ま、まあ人には向き不向きがあるものでござるよ」
権三郎の気遣いが心に痛いぜ……。
「それにしても『リベンジャーズ』でござるか……。某たちが言えた事ではござらんが、そのまんまなネーミングでござるな」
確かに権三郎たちには言われたくない、と思うかもしれない。なにせギルド名が『SI・NO・BI』だからな。
ちなみにこの名前だが、普段着の派手はでしい忍び装束の格好が外国産のニンジャなイメージと重なることから名付けられたのだとか。名前から色物っぽい雰囲気を醸し出しておきながら、実際には地味な諜報活動がメインであり得意なのだから恐れ入る。
つまりこれも周囲の目を欺くための手段の一つなのだった。
「あまり名が体を示すのは良くはないのだがな……」
と、渋い顔をしたのはユージロだ。どんな集団なのか、何を目的としているのが一目瞭然のため、それを知られるだけで相手に対策が取られてしまわれかねないからだ。
「今からでも考え直させることはできないか?」
「うーん……。個人差はあるが、彼らにとって復讐は存在理由に近い部分があるからなあ。意欲ややる気が低下するくらいならまだいいが、下手に説得しようとすると暴発する恐れもあるぞ」
「では、そういう危険性があるということだけは伝えておくことに留めるか。訓練相手となる者からの言葉であれば、聞き流すことはしないだろう」
色々と面倒な役目が追加されていっているが、まだ見ぬ『リベンジャーズ』の訓練相手になる人よ、頑張ってくれ。
「ところで、例の人物については何か分かったのか?」
これ以上彼らについての話を続けていると俺にも何か役割を押し付けられそうな気がしたので、強引に話題を転換することにした。
俺たち三人にとっては手も足も出ないまま敗北した相手ということもあって、一応は少しでも気楽に話ができるように水を向けるという意味合いもあったのだが。
「それなのでござるがな、恐らくはこのプレイヤーなのではないか、というところまでしか分からなかったのでござる」
ところが二人から返ってきたのは苦々しい表情と、思いもしていなかった答えだった。
いや、正確には頭のどこかではその可能性もあると考えていたはずだった。しかしそれを理解することを無意識に拒んでしまっていたのだ。
「我々の身動きが取れない状態の原因はやつの動向が不明な点にあるので、所属ギルドに関係なく手が空いている者は全てやつの捜索へと回されていた」
「……それは具体的にはどのくらいの人数だ?」
「少ない時でも十人、多い時には五十人以上がその任に当たっていた」
それだけの人材を投入していたのに、それらしい相手を絞り込むことしかできなかったのか……。
「その情報も、実はよく分からない相手からのリークされたものなので、どこまで信用できるのかが怪しい代物なのでござる」
「おいおい!ということは実質こちらの調査では何も分からなかったということか!?」
「悔しいがその通りだ。相手は我々よりも一段どころか数段は上の高みにいる存在だということになる。二次上位職へのクラスチェンジをしているものと仮定して、現在は動いてもらっている」
どれだけ廃人プレイや廃課金プレイをすればその域にまで達せられるのやら……。
面倒な相手と対立関係になってしまったかもしれないものだ。
「頭の痛くなる話だな。それで怪しいリーク先とその内容は教えてもらえるのか?」
「ああ。どちらも教えられる。まずは内容の方だが、さすがに名前は伏せられていたが、レベル五十以上の
暗殺者のプレイヤーだろうと記されていた」
レベル五十というのは現在最も二度目のクラスチェンジの条件であると言われているレベルとなる。それ以上ということはユージロたちの読みが当たっている可能性が高いな。
しかし、暗殺者か。正面からの戦いですらあれだけ強かったというのに、向こうの得意分野である暗殺に持ち込まれてしまっては成す術がないぞ。
「未だに俺たちが無事で、さらにはアジトも潰されていないことを考えると、本当にやつは『闇ギルド』とは無関係だったのかもしれないな」
「それは某たちも考えたでござるよ。あの場にいたのは某たちが最後に連れていこうとしたNPCを暗殺するためだったような気がしているでござる。ただ、それが依頼なのか私怨によるものなのかは不明でござるがな」
私怨であればその対象者は『闇ギルド』の者たちにも及ぶだろうから、依頼によるものだった方が自然な気がする。
……これはやつを無視して『闇ギルド』を攻撃すべきかどうかで一揉めしてしまいそうだな。




