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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
14 混迷する帝都
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216 復讐を望む者たち

長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。

連載を再開します。

 俺はともかくとして二人のギルド長が同時に死に戻ってくるという事態に、建物内は上へ下への大騒ぎとなってしまった。が、そこは大規模で、かつ情報を主に取り扱っているギルドの者たちだけあって、ユージロたちの一喝ですぐに我を取り戻していた。

 そして『闇ギルド』のメンバーや犯罪者NPCを捕らえて一まとめに押し込めているアジトの方にも連絡がとられて、厳戒態勢が敷かれることになったのだった。


 幸いにもその日は俺たち以外の仲間が襲われることはなかったのだが、ユージロたちによると「長期戦によるこちらの消耗を狙っている可能性もある」とのこと。

 特にほとんどのプレイヤーが中の人不在(オートモード)になってしまう深夜の時間帯は注意が必要だということで、『闇に隠れて生きる♪』など他の協力関係にあるギルドとの調整が進められることになったのだった。


 一方、残る『闇ギルド』への攻撃は一旦中止となってしまった。本人は否定していたが、俺たちを倒したあいつが本当に『闇ギルド』の関係者ではないとは言い切れない。

 ギルド長クラスでないと察知できないほどの隠遁能力と、ギルド長クラスでも歯が立たないほどの戦闘能力を持った相手がいるかもしれない状況下では、うかつに仕掛けることができなくなっていた。


 元々『闇ギルド』自体にも高レベルプレイヤーが多く在籍していた。加えてそんな規格外が合流していたとすれば、例え数で勝っていたとしても返り討ちにされてしまう。

 それどころか下手をすれば『ペインドラッグ』の体のいい実験台にされてしまうかもしれない。慎重になるのも当然だ。

 前回の攻撃により資金調達をしていた下部組織を潰したことで、向こうの行動を阻害できていたというのも大きい。

 もちろん逃げられでもしたらことなので、監視はそれまで以上に密にされるようにはなっていた。


 しかし、組織が大きくなったり関わる人間が増えたりすると中には従わない者が出てくるのが常だ。今回も一部の人間が『闇ギルド』への攻撃延期に反対していた。

 彼らはユージロや権三郎たちとは異なる外部の者たちであり、どこで聞きつけたのか今回の作戦のことを知って「自分たちも参加させて欲しい」とやって来たのだった。

 当初、それこそ『闇ギルド』のスパイではないかと疑われたりもしたが、優秀な諜報員たちの手によって裏が取れ、今では白だと確定している。


 そんな彼らは全員、過去に『闇ギルド』から被害を受けたことのある者たちだった。


 ある者は初心者の時にPKされてなけなしのアイテムを奪われ、ある者はトレインしてきた魔物を押し付けられてMPKされる様をあざ笑われたのだという。またある者は口八丁で騙されて悪事の片棒を担がされた上にPKされたのだとか。

 そんな感じで『闇ギルド』の連中に恨みを持っていた。その憎悪だけで権三郎たちの作戦を嗅ぎつけたのだから、人の感情の強さと恐ろしさというものは侮れないものがあるなと思い知らされた。


 そんな彼らであるから『闇ギルド』を壊滅させる機会が遠のくというのは我慢がならなかったのだろう。だが、『ペインドラッグ』の一件もある今、勝手をされる訳にはいかない。

 ユージロたち各ギルド長を含む上層部は、彼らを力づくで押し留めることにしたのだった。

 正確に言うと、『闇ギルド』の監視にアジトの警備、そして謎の規格外プレイヤーの洗い出しにと忙しく、彼らを説得するだけの人員を割くことができなかったのだ。


 ここまで言えばもうお分かりだろう。そう、造反者たちを押し留めたのは他でもない俺である。

 ……諜報活動などができないので手が空いていたともいう。


「どうした、どうした!もう終わりか!?」


 ユージロたちが拠点にしている建物の地下にある訓練場――権三郎たち『SI・NO・BI』はこの建物に一体どれだけ金をつぎ込んだのやら……――で、倒れている元被害者たちを前に俺は声を張り上げた。

 しかし、「出て行くなら俺を倒してからにしてもらおうか」とべたべたな台詞を言った俺も俺だが、それに乗るこいつらもこいつらだと思う。

 実は状況をちゃんと理解していて、出て行くつもりなどなかったのではないだろうか。文句を言ったのは感情を抑えきれなかっただけ、という気もするな。


「ぐっ……、くっそお……!」


 比較的ダメージが少なかった戦士系の男が悪態を吐きながら立ち上がる。が、それが囮であることはバレバレだった。

 なにせ起き上がる際に隣に倒れていた魔法使い風の女と目配せし合っていたのが見えていたからな。


「『地裂斬』!」

「なっ!?」

「きゃあ!」


 なので魔法が飛んでくる前に二人まとめてふっ飛ばす。

 ついでに二人を引き離して連携が取り難くしておいた。まあ、こちらは偶然だけどな。


「俺はあの謎の男に完敗したんだぞ。そんな俺に勝てないのに、どうやって『闇ギルド』を潰すつもりだ!?」


 自分で言って情けなくはないのか、だと?

 そりゃあ情けないし、悔しいさ。これでも戦闘要員としてユージロたちに連れて来られたんだからな。

 だけど、負けたことを認められなければ次に進めない。くさい言い方だが、敗北を糧にしないといけないのだ。


 彼らの職種自体は様々で、二人ほど盗賊や斥候系の職に就いているプレイヤーもいる。しかし、そんな彼らもユージロたちほど奇襲等に秀でているようには見えなかった。恐らくはダンジョンなどに潜る際に必要な技能の持ち主なのだと思われる。

 つまり、戦いにおいては基本的に正面から正々堂々と当たる者たちなのである。実際、俺との戦いでも散開して連携攻撃はしてくるものの、状態異常を引き起こしたり即死を狙った急所攻撃をしたりという、嫌らしくかつえげつないものは一切なかった。


「それと動きが正直すぎる。魔物相手ならいいが、人、特にプレイヤー相手では甘いものが多いな」


 戦ってみると、彼らは恨み辛みの気持ちが先走っていた感が強いように思われた。レベルはそれなりに上がっているが、いわゆるプレイヤースキルといわれるものがお粗末なのだ。

 これではいざ『闇ギルド』との戦いになってもやられてしまうのではないか。


「あんたたちの気持ちが分かるなんてことは言わないが、このまま『闇ギルド』の所に突っ込んでも無駄死にすることになるぞ。俺で良ければ対戦相手になってやれるし、それに慣れたらここの連中に口をきいてやることもできる。どうだ、短気を起こさずにもうしばらくここで技量を磨いてみないか?」


 被害者たちはしばらく悩んで話し合っていたが、最終的には俺の提案を受け入れることにした。

 さて、それじゃあ俺もリベンジに向けて鍛え直すことにしますか。


しばらくの間は火・木・土・日の週四回ペースでいきたいと思います。

以前に比べて連載頻度が下がってしまいますが、よろしくお願いします。

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