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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
14 混迷する帝都
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209 どうも、ニンジャさん

 通常であれば一週間近くかかる帝都までの旅路をわずか二日で踏破してきた俺たちは、ここでの拠点となる『諜報局UG』の支部が入った建物へとお邪魔していた。


「乗合馬車を乗り継いだ時に比べて半分から三分の一の時間で着くとはな」

「オートモードを駆使して、一日当たり十二時間以上走ったからな。むしろ潰れずに走り切ったあの馬たちや馬車こそ賞賛すべきだろう」

「さすがはあの副市長やアルスが用意しただけのことはある、ということか」

「全く、大きな借りができてしまったというものだ」


 その殊勲者とでもいうべき馬たちは現在、支部のある建物に併設された厩舎でブラッシングなどを受けながら労われているはずだ。

 それとユージロにとっては身内であり部下に当たるから何も言っていないが、御者役を務めていたのは『諜報局UG』のギルドメンバーだった。交代しながらとはいえ数時間もの間、高速で馬たちを走らせるのは並大抵の技量でできるものではない。ギルドメンバーの層の厚みを思い知った気分だ。


 そんなことを考えていると、不意に周囲の空気がざわめきだした。

 何事かと頭を巡らせると、そこには忍者の集団がいた。何を言っているのか以下略という気分だが、ざわめいた空気は一瞬で消え失せていたことを鑑みると、ここではありふれた光景ということなのだろう。

 ……全くもって意味不明だった。


「おお!ユージロ殿!よく来てくださった!」


 と、忍者集団の先頭に立っていた真っ青な――濃紺とかではなく、爽やかさすら感じられるようなスカイブルー――忍者装束を纏っていた男が親しげに声をかけてきた。


「権三郎か。いや、こちらこそ知らせてくれて感謝している。噂が本当だとすると洒落にならない事態だからな」

「うむ。何を考えてそんなものに手を出そうとしているのか、理解に苦しむでござるな。しかも一部のプレイヤーなどは「本物のデスゲームだ!」と喜んでいる始末。馬鹿につける薬はないと申すが、なんとも気を削がれてしまう話でござるよ」


 そう言う権三郎なる人物は心底呆れたという雰囲気を醸し出していた。

 ちなみに彼を始め忍者集団は全員が目元以外を覆面で覆っていたので表情自体はよく分からないようになっている。ただし身に着けている装束の色がパステルカラーだったり原色だったりするので、非常に目立ってはいたので、表情だけ隠す意味があるのかと、つい思ってしまったのだった。

 まあ、権三郎の様子を見るに、忍者っぽいロールプレイを中心として楽しんでいる一団なのだろう。


「ところでユージロ殿、(それがし)お隣の御仁とは初対面のような気がするのでござるが……?」

「ああ、すまない。紹介するのを忘れていた。権三郎、彼はバックス。『裏ボス』と言った方が分かり易いか?」

「おお!そなたがあの!」


 ……一体俺は他のプレイヤーからどういう目で見られているのだろうか。そちら関係の掲示板からはすっかり足が遠のいていたのだが、一度覗いて見ておいた方がいいのかもしれないな。


「まあ、この通り本人は気に入っていないようなので名前で呼んでやってくれ」


 あからさまに不機嫌であるという態度を取ったので、ユージロは苦笑しながらそう付け加えてくれた。そして権三郎も素直に「それは失礼いたした」と謝ってきたので水に流すことにする。


「紹介にあずかったバックスだ。俺としてはただのPvP好きというだけのつもりなんだがな。そういう訳で対人戦ならそれなりの経験がある。それと無理矢理に仕掛けたりはしないから安心して欲しい」

「ご丁寧にありがとうでござる。今度はこちらの番でござるな。某はギルド『SI・NO・BI』のギルド長を務めている権三郎と申す。後ろに控えているのはギルドメンバーでござる」


 ギルドの名前と異なり、全く忍んでいない連中だな。

 むしろ積極的に目立っているような気がするのだが……。


「バックス、今の彼らの姿は俗にいう「仮の姿」というやつだ。人波に紛れての情報収集ならうちでもまず勝ち目がないからな」


 マジか!?


「はっはっは。ユージロ殿、仮の姿というのは言い過ぎでござろう。何せ某たちはこのニンジャコスプレも楽しんでいるゆえに」


 勝ち目がない云々について否定しないということは、そちらに関しては自信があるということの現れなのだろう。

 普段は派手な衣装で人目を引いておきながら、仕事となると目立たない姿で道行く者たちの中に潜むということか。さらに普段の派手な忍び装束も好んでやっていると……。

 これはなかなかに隙のない布陣と言えそうだ。


「良いな。そういうプレイスタイルは嫌いじゃない」

「バックス殿!分かってくれるか!」

「ああ。やっぱりゲームは楽しんでなんぼだからな」

「その通りでござる!だからこそ今回の一件は捨て置けないと考えているでござるよ!」


 権三郎の言葉に忍者集団は揃って頷いていた。

 と、その中から一人が進み出てくる。


「頭領、時間です」

「なんと!?もうそんな時間になっていたのか!お二人とも申し訳ない。これから『闇に隠れて生きる♪』のギルド長と面会する約束があるのでござる。故にこれにて失礼するでござる」


 丁寧なのは好感が持てないでもないが、忍びなのに相手の素性を漏らしてもいいのか?


「それはすまなかった。また後日、詳しい話を聞かせてくれ」


 ……ユージロが特に突っ込まないということは問題がないということか。


「そうであるな。近い内に他のギルドの長たちも交えて、情報の共有をしておいた方が良いでござろう。ああ、某たちが調べてことは全て公開しているのでいつでも訪ねて参られよ」

「助かる」

「それでは、また」


 権三郎を先頭に、忍者集団は会釈をしてから去って行った。


「面白い連中だったな」

「ああ。しかしその力量は本物だぞ。メンバーは全員変装や隠密系の技能だけでなく、手品や幻惑術といった人の意識を逸らせるような技能を持っている。しかも忍者だけあって戦闘能力も高い」


 へえ。一度戦ってみたいものだな。


「ちなみに、この建物も『SI・NO・BI』の所有物だ。そこにうちや先ほど名前の出ていた『闇に隠れて生きる♪』などの諜報系のギルドが間借りさせてもらっているという状態だ」


 帝都だけでなくラジア大洞掘南部にある諜報系ギルドのまとめ役のような存在なのだそうだ。少し変わったところはあるが、強力な協力者ができたと思えば悪くはない。

 そしてそんな彼らですら『ペインドラッグ』を危険視している。死んでしまうというのはともかくとして、覚悟を持って挑まないとかえって足手まといになってしまうかもしれない。

 気持ちを引き締めていかねば。


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