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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
13 ロピア大洞掘探訪 1(北部地域へ)
211/574

204 覚悟と責任

 想定通りの展開をしていた力比べ大会――おバカ一号二号いわく「だから決闘だって!」――は最終戦となったところで想定外の状況に陥っていく。

 適当なタイミングを見計らって負けるはずだった三号君――出来レース?八百長?何のことかしら?――がまさかまさかの大逆転をしてしまい、カリオンが敗北してしまったのだ。

 その後、救護室として解放されていた村長さん家の一室にカリオンを連れて入ったところ、衝撃の事実が語られることとなった。


「子どもたちが捕まっているって、具体的にどういうことなの?焦らなくていいから、順番に一つずつ聞いた内容を教えて」


 事態を把握しきれていないのか、軽くパニック状態になっているカリオンを宥めながら先を促す。

 こういう時にはただ単に落ち着けと言うよりも、得た情報を本人が咀嚼(そしゃく)できるように仕向けてやる方が結果的に早く落ち着きを取り戻すことが多いからだ。


「ええと、捕まっている子どもというのはアスール、三号君のことですけど彼の弟と妹、それとその友達が二人の全部で四人だそうです。三号君に接触してきたのは見知らぬ男が一人だけで、他に仲間がいるかは分からないそうです。あ、捕まっている場所も不明です。ただ村の近くで隠れられる場所といえば近くの森の中だけなので、多分そこじゃないかと言っていました。後は……、相手の目的は不明ですけど、私たちに勝つように指示されたと言っていました。できなければ子どもたちの命はないと脅されたそうです。メイプルさん!なんとかして子どもたちを助けってあげられませんか!?」


 縋り付いてくるカリオンを抱きしめてぽんぽんと背中を軽く叩いてやるて、強張っていた体から少しずつ余分な力が抜けていくのが感じられた。

 その体勢のままジュンちゃんを見ると、一つ頷くと部屋から出て行く。

 別に二人きりにしてくれたということじゃないわよ。カリオンからの情報を元に、子どもたちの居場所を探りに行ってくれたのだ。

 ジュンちゃんとてギルド『諜報局UG』のメンバーで、しかも単独で私の護衛役を任されるくらいなのだから、このくらいはできて当然という訳。しばらくは彼女からの報告待ちということになるだろう。


 待機とはいっても私にも当然やることはある。

 まずは何はともあれ時間を稼ぐ必要があるだろう。子どもたちの命を平気で取引の材料にしてくるような連中だ、フェスタが勝つにしろ三号君が負けるにせよ無事ではすまない可能性もある。

 私は素早くメール機能を立ち上げると、


〈「とにかくどんな手を使ってでもいいから試合を長引かせて!詳細については後から送るから!」〉


 現在進行形で三号君と舞台の上で戦っているフェスタへとメールを送ったのだった。舞台から離れる際にも時間を稼ぐように言付けていたから、これで緊急事態が発生していると察してくれるはずだ。

 力量的にはフェスタの方が上なので、状況によって――三号君が疲れてへばってしまった時など――は挑発等悪役っぽい行動をしてもらわなくてはいけなくなるかもしれない。

 まあ、その辺りは本人に任せよう。案外ノリノリで演じてくれるかもしれないし。


 さて、本命へと移ろう。抱擁を解いてカリオンの顔を両手で挟み込むようにして捕まえ直す。

 困惑の色を浮かべるその顔は整っており、絶世の美少年といっても差し支えなかった。……いくら外見は自由に設定できるからってやり過ぎじゃない?お姉さん、あなたたちの将来が少し心配です。

 それはともかく、


「カリオン、これから私たちは子どもたちの救出に向かうことになるわ。相手次第ではあるけれど、場合によっては私たちだけで行動しなくちゃいけないかもしれない。もしかすると死に戻るようなことになるかもしれない。その覚悟はある?」


 私の言葉にカリオンは視線を泳がせた。ああ、やっぱり死に戻った経験があったのね……。

 これはゲームの中の話であり、本当に死ぬ訳ではない。そしてその他のゲームに比べて『アイなき世界』では死に戻った際のペナルティも少ない。

 それでも、いや、だからこそというべきか、一度死に戻るという経験をすると、その時の恐怖に捕らわれてしまうという人も少なくないのだ。重度のケースだとゲームを辞めることもあるのだとか。

 掲示板等では、死に戻るということに対しての心構えができていなかったことが大きな要因だと議論されていたように思う。


 そしてカリオン――恐らくフェスタも――は死に戻りへのトラウマを抱えていた。そんなプレイヤーが低レベルのまま動き回るなよと思わないでもないが、風の向くまま気の向くまま、そして流されるがままにここまでやって来てしまったのだろう。


「できないならできないで構わない。この部屋か部隊のある広場に残ってもらえればいい。ただ、自分の力で子どもたちを助けたいと願うのなら……、覚悟を決めなさい」


 これまでのような中途半端になんとかなるだろうという程度の覚悟では、いざという時にはかえって邪魔になってしまうこともあり得る。

 厳しいようだけど、使えない人間を連れていけるほど私たちに余裕がある訳ではないのだ。


 ちなみに相手を殺してしまうことへの覚悟は必要ない。例えHPを零にしてしまったとしても瀕死の戦闘不能という扱いとなるからだ。これについてはゲーム様様ね。

 まあ、イベントのシナリオ展開によっては死亡するというケースもあるようだけど、その際には注意や警告が発せられるのだとか。


「……私が参加することで戦いが有利になりますか?」

「もちろんよ。私もジュンちゃんも基本的には後衛だから、接近戦ができて壁役もこなせるあなたがいれば、戦術の幅が広がる。それにあなたが敵の足を止められたなら子どもたちを安全に助け出すこともできるはずだわ」


 子どもたちの安全性が増すと言った瞬間、カリオンの目に光がともったような気がした。


「……やるっす。俺も戦うっす!」


 取り乱したことによって素であろう女性的だった口調がカリオン本来の独特なものへと切り替わった。


 心に刻まれた恐怖というものはそう簡単に消えるものではない。それでもなけなしの気持ちを振り絞って立ち上がってくれたのだ。必ず支えてみせる。

 そして子どもたちも助け出す。

 それが先輩プレイヤーとしての矜持であり、彼を焚き付けた私の責任の取り方だ。


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