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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
13 ロピア大洞掘探訪 1(北部地域へ)
210/574

203 情報収集、そして試合開始

 残る三人のおバカどもとの戦い――彼らいわく「決闘だ!」――の開催は三日後ということになっていた。

 場所は村の中央にある広場。

 どうしてそんな目立つ所になっているのかと言うと、「どうせなら村の人たちの娯楽になるようなものにしたらどうか」と冗談半分で村長さんたちに進言してみたところ、予想外にも乗り気になったからだった。


 実害こそなかったもののおバカたちが仕事を放棄していたせいで、村の人たちは普段以上に忙しかったりストレスが溜まっていたりしたらしい。

 その気分転換を兼ねて見世物にしてしまおうということだった。


 対戦形式は二人対三人の変則的な団体勝ち抜き戦となった。こちらから出るのはカリオンとフェスタだ。

 私は魔法使いだし、ジュンちゃんも戦闘ではお手製の薬品類とトリッキーな動きで相手をかき回すというスタイルのため、向こうの負担が大きすぎるだろうと思われるため、保留となった。


 最終的に、二人が負けてしまいおバカたちが調子に乗った場合に限り私たちが出てぷちっと叩き潰すという流れに。

 もちろんそんなことにならないためにも、カリオンたち二人には事前準備としてがっつりと対戦を繰り返してもらっている。動画を撮ってユージロたち知り合いに改善点を指摘してもらったおかげで、見違えるように動きが良くなっていた。


 この調子でいけば私たちの出番はないだろう。だけどこの世の中、絶対なんてものはない。変なところにこだわりがある『アイなき世界』でも、恐らく同じことが言えるはずだ。

 よって残り時間は対戦相手の情報収集に努めることにした。


 まずおバカ一号、一言で言うなら脳筋。二言で言うならザ・脳筋。力の強いガキ大将がそのまま大人になったという印象。

 昔はそれほどでもなかったのだけど体格に恵まれていたということもあってか、いつしか猪突猛進な性格になってしまったのだ、と話してくれたのは彼のお父さんでもある猟師さんだった。

 血筋的には油断のならない相手なので、上手く煽ったり冷静に誘導したりということが求められそうだ。


 次におバカ二号。村長の息子で一号の副官やおバカどもの参報役を気取っていたけど、実際のところは周囲より少し頭が良いという程度。

 反面、力はさっぱりなので普通にやりあえば鎧袖一触とは言わないまでも、簡単に勝つことができるだろう。舞台が村のど真ん中で衆人監視の元なので、策を(ろう)すようなことも無理。そもそも駒となる仲間もいない。

 唯一用心しなくてはいけないのが、自滅覚悟で相打ちを狙ってきた場合かしら。初戦に現れた場合にはその可能性が高いと思われる。


 そして最後がおバカ三号。二号が参報寄りの副官だとしたら、彼は実働側の副官という立ち位置になる。なかなかの人気者で、仲間内だけでなく村の子どもたちの中にも彼を慕う子たちは多かったりする。

 実はこの三号君、完全なおバカたちの仲間ではなく村長さんたち村の上層部と繋がりながら、若者たちが暴走するのを内部から防いでいたという苦労人である。

 能力的には知力、体力共に高水準でまとまっている一番の難敵だけど、今回は事前に連絡がついていて、タイミングを見計らってそれらしく負けてくれる手はずになっている。


「こんな感じね。他のゲームとは違って、村人とは言ってもここで生きていけるだけの力を持っている。それさえ忘れなければ、問題なく勝てるようにはなっているはずよ」


 レベルといった目に見える部分に変化はなくても、間接的にユージロたちからの指導を受けて二人のプレイヤースキルは大きく上昇していた。

 油断さえしていなければよほどの事態がない限り大番狂わせは発生しないだろう。楽観視はできなくてもカリオンやフェスタの二人なら十分以上に勝ちが狙える対戦相手たちだと言えそうだった。




 そうして迎えた当日、よほどの事態が起きた。


 状況が悪化したのは三試合目、カリオンと三号君の対戦の時だった。

 ちなみに一試合目は予想通り相打ち狙いで突っ込んできたおバカ二号を返す刀で瞬殺――いや、殺してはいないけどね――し、二試合目は既に頭に血が上っていたおバカ一号を振り回してへばらせて試合終了となった。


「村長さん、どういうこと?もしかして騙された?」

「まさか!?そんなことをするやつじゃないぞい!」


 そして三試合目、本来であれば適度なところで負けるはずだった三号君が一向に終わらせる気配を見せていないのだった。


「何が起きているのよ……?」

 舞台の上では二人が手にした木剣を激しく打ち合わせていて、一進一退の戦いに事情を知らされていない村人たちは大きな声援を送っている。


「メイプルさん!」


 呼ばれて振り返ると、フェスタと一緒に選手?の控え席にいたはずのジュンちゃんがやって来ていた。


「ジュンちゃん!何か分かった?」

「はっきりしたことは分からないけど、舞台の二人は戦いながら小声で何かを話し合っているように見えたわ」


 彼女の見立てによると、カリオンは三号君との話を続けるためにわざと全力を出してはいないようなのだ。


「そういうこと……。一瞬、カリオンと打ち合えるほどの相手だったのかとゾッとしたわ」

「猟師さんみたいな例外はいるけど、普通の村人相手に今のカリオンやフェスタが真っ向勝負で負けるなんてことはないよ」


 クスリと笑うジュンちゃんを見て、少し緊張がほぐれていくのを感じた。


「だけど、何が起きても動けるように心の準備をしておいて。もしもカリオンが負けるとなると、三号君との話を聞いて自分一人では手に負えないと判断した時のはずだから」

「分かったわ。……でもそうならないことを祈りたい気分ね」

「私も同じだよ……」


 しかし、残念ながら私たちの祈りは天に届くことはなかった。

 それから十数合の打ち合いの後、三号君に得物を弾き飛ばされたカリオンは敗北を宣言したのだった。


「カリオン!?」


 ジュンちゃんと二人で控え席の方へと向かう。

 その姿は仲間――恋人と勘違いした人もいるのか、何やら場違いな歓声も聞こえていた――の敗北を心配して駆け寄って行ったように見えたはずだ。

 実際のところは状況を把握するため、一番情報を持っているであろう人物の元に突進して行ったにすぐなかったりするのだけど。


「姐さんにお嬢……、申し訳ないっす。……つっ!」


 最後の打ち合いで痛めたのか、カリオンは右の手首を押さえるようにして舞台から下りてきた。


「何かあったのは理解しているから気にしないで」

「急いで手当しないと。救護室に行きましょう」


 カリオンに代わって三号君と対戦することになるフェスタにできるだけ時間を稼ぐように伝えると、臨時の救護室として開放されている村長さん宅の一室へと向かった。


「メイプルさん、ジュンさん、大変です!何者かに子どもたちが捕まっているそうです!」


 カリオンの口から衝撃的な言葉が飛び出してきたのは、パーティー内会話モードを立ち上げたのとほぼ同時のことだった。


まさかの急展開!?

……あれ?ここでおバカたちを叩きのめして終わりのはずが、どうしてこうなった?

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