202 丁寧な対応を心がけよう
ビッグレープを買ったついでにおばちゃんから情報から仕入れた私たちは、三度オニス村の外に広がる畑の一画に集まって密談をしていた。
「村長さんや冒険者協会の職員の人、それに門番さんたちにも、同じようなことを言われたよ」
合流したジュンちゃんによると、日増しに荒っぽさを増していく若者たちには村長を始めとした村の上部の人たちも手を焼いているとのことだった。
中には持て余してしまって、村から追い出してしまってはどうかという意見すら出され始めているそうだ。
「これで決まりね。ミッション内容は調子に乗っている村の若者たちの性根を叩き直すこと。やり方は……、どうしようかしら?」
と言うと、カリオンとフェスタの二人がつんのめる。新米とはいえさすがはリアルで劇団員をしているだけはある。いいリアクションだったわよ。
「定番かつ手っ取り早いのは、喧嘩を吹っかけて釣れたところをボコボコにして、自分たちの力量を体に覚えさせることかな」
「て、手っ取り早くはあるっすけど……」
「ちょっと物騒じゃないっすかね……」
ジュンちゃんの提案に対して、二人は腰が引けていた。結果がはっきりと分かるから言い訳もできなくなる上に明確な上下関係を構築できると、いいこと盛り沢山なのに。そう説明すると、
「姐さんたちが極悪っす……」
「できればもう少し穏便な方法でお願いしたいっす」
などとのたまいおった。
「こらこら。あなたたちのことなんだから自分たちで考えなさいな」
対案となるものも用意せずに、ただひたすら相手の意見を否定してばかりいると、話し合う意思がないのかと思われるわよ。
二人もこちらの言いたいことは理解できたようで、それまではどこかぽやんとした雰囲気だったのが一変して真剣に考え込み始めたのだった。
しかし、ぷちっと叩きのめすことがダメとなると、なかなかいい方法が思い付かない。
まず大前提として連中の伸びきった鼻っ柱を叩き折る必要があるので、勝負内容は向こうの自信がある事柄でなくちゃいけない。
次にしっかりと勝敗がついて、なおかつその結果に異議を唱えることができないものであるべきなのだ。
「ねえ、おバカちゃんたちは腕っぷしに自慢があるみたいだし、やっぱりガツンとやっちゃわない?どう考えてもその方が簡単に思えてきたわ」
「そんなにあっさりとを考えるのを止めないでほしいっす!?」
「さすがに脳筋思考はまずいよ。おバカたちの強さを知らない状態で挑むのは危険過ぎ。せめて下調べはしてからじゃないと」
「そういうことでもないっす!?」
まあ、万が一にも負けてしまったら増長を止められなくなってしまうしね。ただ、本当に私たちに勝てるのなら、村から出て冒険者としてでも魔物ハンターとしてでもやっていけそうな気はする。
そして厳正な話し合いの結果、力で何とかするのは最終手段ということになった。
「ちょっと遠回りで消極的な策ではあるっすけど、おバカたちがやるはずだった仕事を代わりに手伝うというのはどうっすか?」
「採用で」
「せめて説明を聞いてから判断してくれっす!?」
フェスタの考えた策というのは効果が二重三重に出るように考えられた優秀なものだった。
まず、その仕事をこなせるかどうかで間接的にだけどおバカたちの実力を測ることができる。次にこれは挑発でも――「鼻でフッと笑ってやれば、頭に血が上って乗ってくるよ」とはジュンちゃんの談――あり、乗ってきた相手に対しては、どちらがより上手く仕事をこなすことができるかという勝負を挑むことが可能となる。
逆に釣られなかった相手は、戦いで決着をつけるという方法を選択すればいい。
そして何より仕事を手伝うという行為そのもので村人たちからの好感度を上げることができるという利点がある。
最悪、おバカたちの暴走を止めることができなくても、これを繰り返すことで村人たちからの信頼を得ることができる、かもしれないのだった。
「欠点としては時間や手間がかかることなどが上げられるっす」
信頼というのは本来、一朝一夕で手に入るものではない。そう考えると多少の手間暇はかけるべきではないかとも思えてくるのだから、私も大概に都合のいい解釈をするなと、自分でも思う。
「いいんじゃない。元々あなたたちはアルレ教官の訓練を受ける予定だったのだし、私たちも先を急ぐような旅じゃない。しばらくは腰を据えるつもりでいきましょうか」
そんな訳でその日からお手伝いの日々が始まった。中心となって動くのはカリオンとフェスタの二人。彼らが訓練を受けるための条件をこなすためのものなのだから、これは当然のことだと言える。
私とジュンちゃんが担当したのは主に情報の拡散。二人の目的と、そのためにお手伝いをして回っていることを村の人たちに触れて回ったのだった。
後は村の外に出た時の護衛かな。いや、出現する魔物に勝てないから鍛えてもらう予定なのに、猟師さんの手伝いとして魔物が出没する森に行くと聞いたときは耳を疑ったわ。
結果だけを見れば、猟師さん無双で危険なんて影も形もなかった。むしろ畑仕事をしている時の方が危なかったほどだった。
肝心のおバカちゃんだけど、これがまた面白いように釣れていた。二人が手伝いを始めてすぐの頃は「こんな田舎で働こうなんて変なやつらだ!」とからかったりしていた。
ところが仕事に慣れて村の人たちから褒められるようになると、居場所を奪われてしまうと危機感を感じたのか、「やいやい!俺とその仕事で勝負しろ!」と突っかかってきては敗北する、ということを繰り返すのだった。
そして、お手伝いを開始して十日ほど経った頃にはほとんどの連中が二人の傘下となり、私とジュンちゃんの「真面目に働くって素晴らしい!」というありがたいお話しを経て、村の一員として再出発を果たしていったのだった。
「良いことをすると気持ちがいいわね」
「あの……、姐さんたちがお話しした連中、目が虚ろなんすけど……」
「それはきっと今までの自分を悔いているからよね」
うん。ジュンちゃん、その通り!二、三日もすれば振り切れて新しい自分に自信が持てるようになってくるわよ。
たぶん。
「おバカちゃんたちの残りの人数は?」
「三人だね。挑発に乗らないだけの冷静さはあったようだけど、お頭のでき自体はそれほど良くなかったみたい」
「ついさっき、向こうから戦いで勝負をつけてやるって言ってきたっす」
喧嘩を売る手間が省けたわね。それじゃあ、最後の仕上げのためにしっかりと準備をしておきましょうか。




