201 ミッションを確定せよ
軟弱者な先輩プレイヤーたちのせいで教官さんは冒険者に不信感を抱いていた。
そして彼に認めてもらうために条件として提示されたのは、なんと村の人たちから信頼を得ることだった!?
「ところで村の人って具体的に誰?」
「うーん、話の流れ的に村長さんとかお偉いさんじゃないかな」
ヒント寄越せと尋ねたけれど、答えてくれなかったそうだ。
「対象者に条件にその方法まで不明とか、嫌がらせ!?」
本当は教える気などないんじゃないかとすら思えてくる。しかし、ゲームなのだから全く無駄なことはさせないだろうとも思う。いや、思いたい。
「その信頼を得るために行動できるメンバーの中には私たちも含まれているの?」
「もちろんっす!というか俺たち二人じゃ絶対に無理っす!」
「姐さんとお嬢だけが頼りっす!」
いや、そこは自分たちも頑張りなさいよ。何をどうしたらいいのか分からない状態で頼られても困る。
「とりあえず……、話を聞いてくれそうな人の所から回ってみましょうか」
「おお!さすがは姐さん!誰かどこかに、あてがあるっすか!?」
待っていましたとばかりに声を上げる二人。ちょっと、あなたたち段々とダメな子が板についてきていないかしら?
……本当に演技?
「あてと言えるのかどうかは分からないけどね」
はしゃぐ二人を引き連れて訪ねた先は、先日ビッグレープを買った屋台だった。
ちなみにジュンちゃんは独自に捜査?するということで別行動中。
「おばちゃん、こんにちは」
「おや?ああ、この前の冒険者のお嬢ちゃんたちじゃないか。またビッグレープを買いに来てくれたのかい?」
そこですぐさま商売の方に話を繋げるおばちゃんはやり手だと思うわ。
「ええ、もちろん!」
「姐さん!?」
後ろで驚いている子たちのことは無視。話を聞くにしても手順というものがあるのよ。まあ、一番は美味しいものを手に入れる機会を逃したくないからだけど。
「端に置いてあるのと、これ。後は……、そっちのをもらうわ」
「……お嬢ちゃん、随分と目利きができるようになったね」
リアルに戻ってから美味しい葡萄の見分け方を調べまくりましたから!味覚という個人の主観に左右される項目だったこともあり胡散臭い情報も多かった。
よって今回は複数の場所に掲載されていたポイントに絞って選んでみたのだけど、当たりだったらしい。
「値段はこの間と同じでいいわよね?」
「嫌だと言ってもどうせ聞きはしないんだろう。いいよ。その代わりおまけをしとくからね」
「ありがと。……あなたたちも買ったら?」
おばちゃんと私の会話についていけずに、まごまごしていた二人に声をかける。
「いや、俺たちは――」
「いいから買っておきなさい。オニス村から離れたら、今度はいつ手に入れる機会があるのか分からないわよ」
と、半強制的に購入させる。必要経費だと思って諦めなさい。それに後半の言葉に偽りはないし。
「ところでおばちゃん、ちょっと相談したいことがあるのだけど」
「相談したいこと?面倒事は御免だよ!……と言いたいところだけれど、お嬢ちゃんたちはお得意様だからね。力になれるかは分からないけど、話くらいは聞いてあげようじゃないか」
目論見が的中!ってね。
カリオンとフェスタもこれを狙っていたとようやく気づいたらしく、「あっ!」とか「このためか」と小声で呟いていた。
「この二人が村の教官さんに鍛えて欲しいと頼みに行ったのだけど、断られてしまったの」
「教官?アルレさんのことかね。ああ、そりゃあ断られるさね。ここ何か月かの間に、同じような連中が何十人も逃げ出したって呆れていたからねえ」
あ、やっぱりこの事は知られているのね。まあ、数十人単位だし、隠しようがなかったとも言えるか。
それでも村の人たちが冒険者に対して警戒とか蔑みといったマイナスの感情を特に持っていないのは、教官、アルレさんが愚痴や悪態をまき散らすような人ではなかったからなのだろう。
思うところはあってもきっちりと筋は通す人のようだ。それが分かっただけでもおばちゃんに話を持ちかけた甲斐があったというものだろう。
「ええ。その話を聞いて私も呆れたわ。まあ、魔物にやられて後悔することになったでしょうけどね」
そもそも魔物に負けそうだったから訓練を受けていたのに、それを放り出してどうやって勝とうというのか。ある意味、ゲームだからこそそういった面ではシビアだというのに。
「それと同時に、余所者を鍛えている余裕がない、なんていう話も耳にしたのよね」
「……あのおバカどもの話まで聞いてしまったのかい。ああ、でもこの間も下手をすれば迷惑をかけていたかもしれないね。そう考えると、隠すなんてしちゃあいけないねえ」
おばちゃんが説明してくれた内容は、先ほどジュンちゃんや二人を通して聞いた、アルレさんが語ってくれたものとほぼ同じだった。
「やっぱり村を襲ってきた虎型の魔物は、追い払われた時点で大怪我を負っていたのね」
「その分、こっちの被害も大きかったけどねえ。死人が出なかったのは運が良かったとしか言いようがなかったよ」
アルレさんたち戦える者が混じってはいたとしても、村人たちだけで撃退したというのは快挙に近いことだ。しかも死者ゼロというのは誇っていい戦果だと思う。
「だけどおバカたちはそのことに気付こうともしないで、自分たちが倒したと勘違いをしている、と……」
「全く、そんなことだから冒険者たちにいいように言い含められちまうんだよ。その上調子に乗って仕事もしないで毎日村の中をうろついているのさ。鬱陶しいったらないよ」
うわあ……。おばちゃんは相当ストレスが溜まっていたのか、吐き捨てるような口調には容赦の欠片も見受けられなかった。
とりあえず聞いておかなくちゃいけないのはこのくらいか。それじゃあ、本題に入ろう。
「実はアレルさんから二人の訓練を受ける条件として、村の人の信頼を得てこいと言われたんだけど」
「ありゃりゃ……。あの人も面倒な条件を出したもんだねえ。信頼ね。私個人としてはお嬢ちゃんのことは信頼しているけれど、それだけじゃダメなんだろうねえ……」
そうは言ってくれたが、今の段階ではお世辞半分というところだと思う。
「そうさねえ……。あのおバカどもをなんとかしてくれたら、信頼してもいいと思えるかもしれないね。それに、そうすればアルレさんの手も空くだろうよ」
どこか挑発的な言葉とは裏腹に、おばちゃんの瞳には面倒事を押し付けることに対しての申し訳なさのようなものが浮かんでいるように見えた。
「だって。どうする?」
情報は得た。そして選択するのはカリオンとフェスタの二人だ。
「もちろんやるっす!」
「任せてくださいっす!」
あ、やり方は当然こちらに任せてもらえるのよね?




