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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
13 ロピア大洞掘探訪 1(北部地域へ)
207/574

200 他のプレイヤーの影響を受けることもあります

本編200話到達!

 翌日、時間を合わせてログインした私たちは昨日と同じようにオニス村の外に広がる畑の一画へとやって来ていた。

 ちなみになぜこんな場所なのかというと、周囲に遮るものがないのでこちらの様子を探る(やから)がいてもすぐに発見できるからだ。建物の中だと、壁に耳あり障子にメアリーになりかねない。

 案外こうした開けた場所の方が内緒話には向いているんだって。漫画とかゲームでそう言ってた。


 それとカリオンとフェスタは中の人はともかく、外見的には若い男だからね。見目麗しい私たちが彼らと一緒に密室にいるというだけで色々と勘繰られてしまうのだ。

 残念ながら下種な考えをする連中はどこにでもいるということなのだよ。


「それじゃあ、さっそくで悪いけれど教官さんとどんなお話をしたか聞かせてもらえるかしら」

「姐さん、どんな話も何もメールで送った通りなんすけど……」

「ダメよ。あれはただの報告に過ぎないもの。状況によってはこれから対策を考えないといけないのだから、私たちの立ち位置というものを明確にするためにも再度情報を共有する場というものが必要になってくるのよ」


 決してメールを見ていなかった、なんていう理由ではありませんから。

 直接皆に聞いた方が良く分かるよね、と放置していた訳じゃありませんから!


「それにね、こうやって直接会って話をすることで、報告をした時には気付かなかったこと、例えばちょっとした表情や視線の動きなんかも思い出せたりすることがあるのよ」


 そういう捉え方ができるところを見ると、ジュンちゃんもやはり『諜報局UG』のギルドメンバーなのだなと改めて思ってしまう。

 ……カリオンたちの中の人が女性だとはなぜか(・・・)気が付かなかったみたいだけどね。


「もちろん顔を突き合わせることがマイナスに働く場合もあるわ。でも、それを言い出したら切りがないから、今は話を進めましょうか」

「はいはい。まずはあの教官さん、というかオニス村の現状からね」


 と、ジュンちゃんが説明を始めてくれた。それによると、現在オニス村ではやんちゃな若者たちを中心とした若い世代が、その存在を誇示しまくっているのだという。


「きっかけとしては、二か月ほど前に突然現れた見たこともない大きな虎型の魔物を、偶然居合わせた冒険者(プレイヤー)たちと一緒になって退治したことらしいっす」


 二か月前といえばレイドボスが実装された頃だ。そのことで生態系が崩れてしまった場所もあるらしく、件の魔物もレイドボス実装のあおりを受けて本来の住処(すみか)から離れてしまった個体だったのかもしれない。


「それだけ聞くと美談っぽく思えるけど、それだけじゃないのよね?」

「当たり。実はこの冒険者たち、若者たちを囮にする目的で連れだしたのよ「自分たちの村は自分たちで守れ」とか言って煽っていたみたい。結果的に誰も怪我をしなかったから良かったものの、もしも死傷者が出ていればその連中は今頃お尋ね者扱いされていたはずだわ」


 それでも行為が悪質だったことから無罪放免ということにはならず、その冒険者たちは様々なペナルティを受けることになったのだとか。


「教官さんの私たちへの心証が悪かったのはそれが原因?」

「それも一つかな」


 他にもまだあるの?

 ちょっと、先輩方。一体何をやらかしてくれちゃったのよ?


「そちらは後回しにするとして、先に村のことについて話すよ。といっても簡単なことで、魔物退治に参加したことで若者連中が図に乗ってしまったらしいわ」

「ありがちな話ね……。って、ちょっと待って。魔物退治に参加したと言っても、倒したのは冒険者たちでしょう?それだけで偉ぶれるものかしら?」

「何でも、冒険者たちがやってくる前に一度、村が襲われたことがあったらしいっす。その時には教官さんたちや上の世代の人たちが協力して追い払ったそうっす」


 つまり上の人たちが倒しきれなかった魔物を倒したのだから俺たちの方が偉いぞ、と。俺たちの方が強いんだ、となってしまったのね。


「その流れだと、追い払われた時の傷で、魔物は瀕死に近い状態だったんじゃないの?」

「正解。囮とされていたはずの若者たちが怪我一つなかったのはそのためみたいよ」


 うわー、実際は守られていたに等しいことにも気が付かずに、偉そうにしているってこと?

 かなりの道化よね、それ。


「だから今は何を言っても聞く耳を持たなくなっているって話っす」


 自分の力に溺れて、というのは物語にありがちなパターンだけど、彼らの場合はそれすらも幻想だったということか。

 いずれは痛い目にあって現実を知ることになるだろう。


「だけど大怪我をさせるのは忍びないから、特にやんちゃな一団を中心に何人かが交代でこっそり見張っているらしいっす」


 現在進行形で守られているとか!本人たちが知ったらどんな反応を示すのかしらね……?

 それはともかく、教官さんが二人の鍛錬を引き受けてくれなかったのは、彼らへの監視業務で忙しいからということになりそうだ。

 細かいことは分からないけど、他所の村や町の教官たちと違って、自分の体を鍛えている姿を見せないのもそれに関係しているのだろう。


「やんちゃな子どもたちのお守りで忙しいのは分かったわ。それで肝心の教官さんが私たちに対して良い印象を抱いていない理由は何?」


 昨日の彼の態度には、仕事だから仕方なく相手をしたという雰囲気がにじみ出ていた。


「それがねえ……。ここ数か月の間に何人ものレベルの足りない冒険者がやって来ては鍛錬を申し込んできたのだけど、少し厳しくしたところで全員逃げ出してしまったんだって」


 ジュンちゃんは続けて「その数なんと四十六人!」と笑いながら口にしていたが、そのお顔はどこか引きつっていた。

 そりゃあ、冒険者に不信感も持つはずよ……。


「一応調べてみたんすけど、あの教官さんだけが厳し過ぎるということではないみたいっす」

「運営の公式発表によると、個性により多少の違いはあっても基本的な訓練方法に違いはないと書かれてあったっす」


 一時、掲示板で繰り返し文句を言っていたそうだけど、この公式発表や他のプレイヤーが訓練風景の動画をアップしていたことで、軟弱物の戯言とほとんど相手にはされなかったようだ。


「教官さんからすると私たち冒険者も村の若者も同じで、口ばかりが達者な根性なしにみえるってことね」


 あれと同類扱いは本気で勘弁して欲しいのだけど……。


「せめてもの救いだったのは、教官さんに認めてもらうためのイベントが発生したことかな」


 救済装置を再起動させる機能はまだ残っていたのね。それは朗報だわ!

 ……ただ碌でもない条件である可能性をひしひしと感じるけど。


「そのイベントというのは何?私たちにどうしろと?」

「……村の人たちの信頼を得てこいだって。方法は自由だってさ」


 ……ほら、やっぱり碌でもなかった。


お読みいただきありがとうございます。

……感想とかくれてもいいのよ?

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