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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
13 ロピア大洞掘探訪 1(北部地域へ)
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198 教えを乞うことは恥ではない

 カリオンとフェスタはこれからも『アイなき世界』では男性っぽく振舞うということなので、私たちもそれに合わせることにした。

 ちなみに低レベルのままこんな所にやって来てしまったのは、ただ単に「適正レベルを知りませんでした」ためだった。どうもラジア大洞掘と同じように考えていたらしい。


 実はこのことに気が付いていない人は結構多くて、ロピア大洞掘東部にある町や村では現在それなりの人数がNPCによる鍛練を受けているということだ。

 また、いわゆるプレイヤースキルが高ければ、多少レベルが低くても渡り合うことは可能であるため、他のプレイヤーが注意することはまずない。


 二人がこれまで無事にやってこられたのは、私たちに助けられた時のようにピンチになっても誰かしらの助けがあったから、らしい。

 ……何そのヒロインみたいな展開?言っておくけど彼らの外見は男装とか生易しいものじゃなくて、男性そのものなんだからね。顔つきだって完全に男――ハイティーンの男の子(・・・)っぽさは残されてはいたけれど――のものですから!

 中の人がどうあれ、ロマンスも生まれなければ、フラグの立ちようもないわ……。


「普通に女性の姿の方が役作りに役立ちそうな経験が出来たんじゃないの?」


 そう思わず言ってしまっても仕方がなかった事だと思う。本人たちも薄々はそう感じていたのだろう、「否定できないっす……」と答えていた。

 まあ、この後にはオニス村の教官の元に向かい鍛えてもらうことになっているから、ヒロイン属性も消えてなくなる、……のではないかと思う。


「そういうことだから、頑張ってね!」

「ふぁいとー」

「ちょっ!?ここまで聞いておいてそれ!?」

「他人事のように放置とか酷くないっすか!?」

「いや、他人事だし」


 と言うと、半泣きどころか全泣きに近い状態で、だばーっと滂沱(ぼうだ)のごとく涙を流していた。

 う……、中の人のことを知ってしまったからそこはかとなく罪悪感が浮かんでくるわね。


「あー、はいはい。教官のいる所まではついて行ってあげるから泣かないの」


 結局、二人を宥めるためにそういうことになってしまった。


 しかし、そんなに嫌なのか。……うん、嫌だわ。少なくとも私なら関わり合いにすらなりたくない。以前、一度だけ訓練風景の動画を見たことがあるが、即後悔した。

 某元テニスプレイヤーと某ブートキャンプの隊長を足して二で割らないと言えば伝わるだろうか。それほどまでに暑苦しいのだ、教官と呼ばれる彼らは。


 ただ、誤解しないでほしいのだけれど、彼らは決して無能な訳ではない。むしろ超がつくほど優秀なのだ。対象者のレベルを上げるだけではなく魔物との立ち回り方をこと細かく丁寧に教えてくれる。

 最前線近くのダンジョン攻略に行き詰った高レベルパーティーが近くの村の教官に師事したなんている話もあるくらいだ。

 だけど彼らの仕事は、移動するのにも困難が付きまとうほど低レベルな者たちの救済なので、この話はでまかせである可能性が高いとされている。

 何が言いたいのかというと、そんな噂が出回るほど彼らは成果を出している、ということなのだった。


「なんだかんだ言って、メイプルさんって優しいというか、面倒見がいいよね」


 村の中へと戻る道すがら、ジュンちゃんが苦笑しながらも小声で話しかけてきた。


「悪いわね、変なことにつき合わせちゃって」

「なんのなんの。どうせ今日は村を見て回るだけのつもりだったから。ただ、あの子たちに付き合わされて足止めを食っちゃうかもしれないよ?」

「その時はその時、かしらね。元々北部で何か起きているかもしれないというのは私たちの勝手な予想に過ぎないことでもあるし。それに――」

「何か起きているからと言って、絶対参加したいってほどでもない?」


 あー、やっぱり見抜かれていたか。私としては何が起きているのかが知りたいというのが一番であって、参加するかどうかはその内容次第といったところだ。

 極端な言い方をすれば、選択できる立場にいたい、というその一言に尽きる。


「そういうこと。強いて言えば馬車の件が気にかかるけど、あれだって正式な調査依頼を受けている訳でもない。これまで通りこの世界を楽しめればそれでいいわ」


 それに私だってジュンちゃんがいなければ、どこかの町か村の教官の世話になっていたかもしれないのだ。そう思うとここで彼らのことを見捨てるということは、巡り巡って自分すらも見捨てることになるのではないか、そんな風にも思えてしまうのだった。


 そんな哲学チックな命題に思いを馳せている間にも足は動き続けていて、気が付けば教官の家のすぐ近くにまでやって来ていた。

 コッコッ、パコーン。コッコッ、パコーン。

 聞こえてくるリズミカルな音に釣られて物陰から覗いて見ると、薪を割っている男性の姿があった。


 中年を超えて初老にさしかかろうとする年代のその人は、穏やかで優しい空気を醸し出していた。おかしい、聞いていた一般的な教官のイメージとは大きく異なっている。

 掲示板には、いわく対象者を探していつもギラギラしているだとか、いわく常に筋トレをして鍛えているだとか書かれていて、私が見た動画に出てきた教官もまさにその通りの人物だった。


「あれが教官?普通っぽくない?」


 聞きようによってはとんでもなく失礼なことをジュンちゃんが口走っていたが、誰もそのことに突っ込めなかった。なぜなら、


「そこに隠れている四人、私に何か御用かな?」


 と、呼びかけられてしまったからだ。

 数メートル離れた人の気配を察して、なおかつ正確にその人数を当てるなんてことがただの村人にできるはずもない。彼がこの村の教官で間違いないだろう。

 確信した私は二人を前に押し出して用件を告げさせた。


「村長さんに聞いて来ました。あなたが教官さんっすね」

「俺たちを鍛えてください。お願いします」

「ふうむ。確かにこの辺りを旅するには少々力不足のようだな」


 頭を下げる二人を値踏みするようにじっくりと見回した後、教官はそう指摘した。カリオンたちは上位職となれるレベル二十には到達しているが、適正とされているレベル二十五には達していない。彼の見立ては適切だと言えるだろう。

 NPCなのだから分かって当然だろう、なんていう身も蓋もない意見は却下いたします。


「お前さんたちを鍛える、か……。あまり気乗りがしないな」


 ところが、教官から返ってきたのは遠回しな拒否の言葉だった。

 


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