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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
13 ロピア大洞掘探訪 1(北部地域へ)
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197 外見と中の人が一致するとは限らない

 値段交渉も無事に終わり、おばちゃんからビッグレープを買うことができた私たち――ジュンちゃんだけでなく男ども二人も買い込んでいた――は、他にも村の特産品的な食材を買ったり、譲ってもらったりと有意義な時間を過ごすことができた。


 村の人たちともすっかり仲良くなっていたお陰か、「友達にオニス村のことを紹介してもいいか?」と尋ねると快く承諾してくれたりもした。

 紹介する先はもちろん多恵ちゃんたち『料理研究会』だ。自分たちだけ美味しいものを食べたと聞けば、間違いなく彼女は拗ねてしまうだろうから。


 まあ、『料理研究会』であれば無茶な買取りの仕方もしないはずだし、村の発展に一役買ってくれるのは間違いないだろう。

 なにより、ビッグレープを使ったスイーツなど、たくさんの料理を開発してくれるはずだ。期待しておこう。


「ところで、あなたたちは何をしていたの?」


 食材見本市も終わり、大半の村人たちが自分たちの仕事に戻ったのを機に、私たちに付いて回っていた二人組へと問いかけた。

 ちなみにジュンちゃんは私と同じでのんびりと村の中を見て回るつもりだったのだろう。


「俺たちは村長さんの家で教官のいる場所を教わっていたんすよ」


 オニス村のような小さな村では、村長さんの家に冒険者協会の出張所などが組み込まれていることが多い。またヘルプセンターやインフォメーションセンターも兼ねているので、運営さんに直接GMコールするほどでもない困りごとがあった時には、とりあえず村長さん宅へと行くことをお勧めします。


「で、教官の所へ行こうと広場を通ったら姐さんの姿が見えたから、挨拶しようと思って寄ったっす」


 まさかこんな美味しい思いができるとは考えてもいなかったと楽しそうにしている。

 そのうち顔を突き合わせて「ねー」とか声を合わせて言いそうだ。女子か。


 ??

 ……女子?


 ……いやいやいやいや、そんなまさかね。疑念を打ち消そうとプルプルと頭を振るが、一度浮かんできたそれはたやすく消えてはくれず、結局勢いよく頭を振ったことで起きた頭痛と気持ち悪さだけが残されたのだった。


「メイプルさん?突然どうしたの!?」


 そんな私の姿を見てジュンちゃんが驚きの声を上げる。まあ、傍から見たら奇行以外のなにものでもなかっただろうし、心配になるのも当然か。


「いえ、気にしないで。何でもないのよ……」


 それでも本人たちを前にして「彼らは彼女たちなのかもしれない」などとは言えない訳で、無難であやふやな返答に終始することになるのだった。


「あんな挙動不審な様子を見せられて、何でもないとは思えないかな」


 ……言いたいことは分かるのだけど、ズバッと言われると絶妙に微妙な気分になるわね。

 そして二人組もまた怪しげな視線を向けていた。ええい!元凶はあんたたちなのよ!


「姐さん、大丈夫っすか?」

「ゲームだからって変なもの拾い食いしちゃダメっすよ」


 ほほう、それは心配しているつもりなのかしら?特にB君、君がどういう目で私を見ていたのかしっかりとお話ししなくちゃいけないようね。

 いいでしょう、その気なら白黒をつけに行きましょうか。


「ふふふふふ。三人とも、大事なお話があるからついて来てくれるかしら?」


 疑問形でありながら命令文というちょっぴり器用な真似をすると、揃ってコクコクと首を縦に振ってくれた。うん。素直な子はお姉さん大好きよ。


 NPCとはいえど人には聞かれたくない内容なので、村から出て畑の広がる一画へと向かう。ここなら周囲が良く見渡せるので、何かが近寄ってきてもすぐに対処できるだろう。

 そして二人組にパーティー申請をして受諾させ、パーティー内会話モード、通称ナイショ話を起動させた。


「姐さん?こんな所で一体なに――」

「単刀直入に聞くわ。あなたたち、中の人は女性ね?」


 A君の言葉を遮り先ほど湧いた疑惑を口にすると、二人は驚愕を顔にへばりつかせて固まった。

 ……正解だったようね。

 後、ジュンちゃん「ええええ!?」ってびっくりし過ぎ。うるさい。ナイショ話にしておいて良かった。通常時なら確実に騒音で近所迷惑になっていただろう。


「いつ、気が付いたんですか?」

「違和感を覚えたのが、ついさっき。確信したのが今、よ」


 ニッコリと笑顔で告げると二人は苦い顔になった。それはそうよね。問いかけ自体はブラフで今の対応が決め手になっていたのだから。


「安心して。別にあなたたちのことをどうこうするつもりはないから。ただ、一応目的と所属しているギルドがあるなら、できる範囲で教えてもらいたいわね」

「特に所属しているギルドはないです。それと目的は演技の練習です」


 A君ことカリオンの説明によると、彼ら――彼女ら?――はリアルでは新米の劇団員であり、その練習も兼ねてこうして男性の格好(・・・・・)をしているということだった。


「へえ……。性別の偽証はできないようになっているのは知っていたけど、その分、作り込めるようになっていたんだね」


 リアルでの生活に齟齬(そご)が出てはいけないという建前の下、『アイなき世界』ではプレイヤーの性別はリアルと同じもので固定されている。ジェンダー論がどうのといろいろ議論されていたらしいけれど難しい話は省くわね。


 それに対して、キャラクターの外見は結構自由にいじり倒すことができるようになっている。美形のエルフに似た容姿の人は男女問わず多いし、中にはドワーフそっくりなツワモノまでいる――そちらの方がよほどリアルでの生活との齟齬が出そうな気がするのだけれど……――そうだ。

 カリオンたちほど完全な異性に変貌しているプレイヤーは少ないものの、中性的な姿を選択する物は意外にも多く、性別自体は変更できない事への対案としての意味合いがあるのは明らかだった。


「名前も自由に付けられるし、性別詐称の罰則もないから役作りの練習にもなると思って始めたんです」


 と、説明してくれるB君ことフェスタの顔には不安が浮かんでいた。

 事情を説明させられたことで注意か処罰をされるかもしれないと思ってしまったのだろう。


「さっきも言ったけど、規約に違反している訳でもないあなたたちをどうこうする気はないから。いくつか尋ねたのはこっちの事情よ」


 安心させるためということも含めて私たち、とくに私の事情について話すと、二人は再び驚いていた。


「メイプルさんがあの女王様だったなんて……」


 黒歴史化しているからできればその呼び方は止めて欲しいわね。


「後は聖女様とかお姉さまとかも呼ばれていたよね」


 ジュンちゃん、楽しそうに人の古傷を抉るのは止めてちょうだい。


「まあ、そういう理由で性質の悪いプレイヤーに敵視されているから、あなたたちの素性を聞かせてもらったのよ」


 納得したのか、二人はホッと安堵の息を吐いたのだった。


かおり⇒カリオン、まつり⇒フェスタです。まあ、作中で本名が登場する機会はないのですけどね。

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