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50.元親友

神器も発動した上に暴走する青龍に為す術が無いと判断した艮は『殿』を残して撤退を決意する。

  「艮特官……それって…」

  「この中で一人、『殿』として犠牲にします」


  淡々と冷静に、渋るような素振りも見せずに艮が言う。青龍は動かなくなった柊を夢中で貪っていた。


  「私でも構いませんが、効果が薄いと分かったラミエルでは大した時間稼ぎになりません。対等に戦える実力者が良い」


  この時、艮はちらりと後ろへ視線を向けた。その視線の先の人物を見て気づいた結衣は胸がきゅうと締まった様な感覚になる。


  「待って下さい、ここはアタシが―――」

  「―――いや、私が行きましょう」


  結衣を遮るように名乗り上げたのは宝槍の異名を持ち『日本号』と言う槍のエペタムを操る宗一郎、結衣の父親だった。


  「私が少しでも長く吉隠……『青龍』を釘付けにします。艮特官は残りの人員を守りつつ撤退して下さい。ラミエルの鉄壁は皆を守るにはうってつけです。雲母坂特官のイージスとも相性が良いでしょう」

  「待って!! いくら何でも一人じゃ無理よ、アタシも行く!!」

  「結衣は艮特官達と一緒に撤退しなさい。()()()は少ない方がいい」

  「捨て駒って…」

  「―――おれも残るッス」


  続けて名乗り出たのは高月だった。


  「君も撤退だ、高月二官。いくら君が射撃の名手で高威力のボウガンでもあの速度では当てられないではないか」


  事実、あの艮のエペタム、ラミエルの落雷が直撃しても平然としていた。そうなった時点でもう青龍に勝つ手段は皆無に等しい。だがそんな中、高月は僅かに口元を上げた。


  「でも、()()()()()()んスよね? なら簡単ッス。それに、一発でも当たれば()()()()ッス」


  結衣は何か意味があり気に言う高月の意図を捉えきれず眉をひそめた。


  「……何か、策があるみたいだね?」

  「はい。それに、そろそろ元親友をボコッて目醒めさせないといけないッスからね」

  「はは、なるほどね……艮特官、清滝特官と高月二官が時間を稼ぎます。撤退して下さい」

  「わかりました、後は頼みます」

  「ま、待って! 待ちなさい!! なんで……何で父さんが!! 高月まで…!!」

  「結衣、大丈夫だ。ある程度時間を稼いだら我々も撤退する」


  その後宗一郎が見せたのは憂いを帯びた柔らかな笑みだった。


  「……あの時は一人にしてすまなかった。でも次は必ず帰る。約束だ」


  人の身長を超える長槍をスラリと構えると腰を低く落とす。


  「―――行け!! 結衣!!」


  宗一郎が駆け出すと青龍は所々骨が剥き出しになった柊を乱雑に投げ捨て、四脚の姿勢で尾を突き出した。日本号の穂先と偃月刀の刃が激しくぶつかり合い火花を散らす。


  「総員撤退、先頭は雲母坂、最後尾は私が引き受けます」

  「わかった!! ……清滝、親父さんの想いを無駄にするな、たった一人の家族だろう」

  「…………はい」


  結衣は目の奥が熱くなるのをグッと歯を食いしばって堪えた。


  (死なないでよ……父さん…)


  結衣は長い後ろ髪をなびかせながら、残った隊員や支局官と共に走り出した。





  二つの刃が嵐のように荒れ狂い、壮絶な近距離戦を繰り広げた。宗一郎と青龍、両者の間で『死』が乱舞する。


  (重い上に鋭い、だがまだ目で追える…!!)


  青龍の尾は速度も威力も凄まじく、茨のような禍々しい棘を纏った事で、ギリギリで身を捻って回避しても棘が薄皮や肉を抉る。だがその程度の痛みでは宗一郎は止まらない。磨かれた槍捌きで確実に尾を受け流し、少しずつ距離を詰めていく。

  真っ直ぐ伸びてきた尾を避けると横から槍を振り下ろして尾を地面に叩き付け押さえつけた。


  「高月二官!!」


  宗一郎が叫ぶと同時に高月のボウガンの矢が射出する。穿つは頭蓋、青龍の兜に真っ直ぐ矢が吸い込まれて行く。

  乾いた音が鳴ると、青龍が矢を腕を振り上げ弾き返していた。


  (……!?)


  宗一郎は目を疑った。あのラミエルの落雷すら通じない青龍の甲冑。矢を弾いたその籠手が砕けて、素肌が露出していた。ボウガンの矢の威力は高いがラミエルの火力と比べれば遠く及ばないはずなのに、確かに青龍の鎧を破壊した。


  「……」


  青龍は破壊された籠手の部分をジッと見つめると、逆再生の映像の様に鎧を修復させた。

  高月は素早く次の矢を番え、引き金を絞る。矢は先程と同じく頭蓋目掛けて空を裂く。青龍は首を傾けて矢を避ける。宗一郎はその隙を見逃さず、くるりと槍を翻し石突の部分で青龍の顎を下からかち上げ、ガラ空きになった鎧の薄い手足の関節に銀の光を二、三閃走らせた。僅かな血飛沫が青龍の鎧を穢したのは見えたものの大したダメージは入っていないのは明確だった。


  (浅いか…)


  全く怯まない青龍はすぐに反撃に出た。足先から兜の頂まで凶器と化した甲冑(フルプレート)で大振りな蹴りや突きと言った体術を放つ。猛獣以上の荒々しさの中にも戦士以上の技の冴えと正確さがあり、繰り出す技一つ一つが宗一郎の神経をすり減らす。


  (関節や腱を破壊したのに、ここまで動けるのか……!!)


  青龍は身体を回転させ威力と速度を上乗せした上で荊棘を纏った尾を薙ぐ。宗一郎は衝撃全てをいなす事が出来ず、近くの壁まで吹き飛び背中を打ち付けた。息が一瞬詰まり動けなくなった宗一郎に向かって青龍が飛びかかり手で肩を壁に押し付けた。鋭い爪が肩の肉に深く喰い込み、宗一郎の顔が苦痛に歪む。


  (間に合え!!)


  高月はボウガンの引き金を引きしぼり矢を放つ。矢は青龍の胴に向かって真っ直ぐ吸い込まれて行くが、青龍は尾の刃で矢を弾き返した。その隙を宗一郎は見逃さず、すかさず青龍の兜、目の部分の隙間に向けて懐にしまっていた大型のナイフを突き立てた。ゴリっと刃が骨を擦る感触が伝わり、左目を潰した確信を得た。BEASTとは言え、粘膜は人と同じく脆弱だ。

  高月は片目を失った青龍の至近距離で、死んだ隊員から持ち出したAA12(ショットガン)を撃ち込んだ。空気を揺らす刹那の灼熱が青龍の体勢を崩した。


 「うおおおおお!!」


 高月はショットガンを脇に抱えて反動を無理矢理押し殺し、引き金を容赦無く何度も引く。

 ドラムマガジンのセミオートショットガン。素早く連発出来る散弾銃を至近距離で撃たれ続ければあの鎧を纏っていてもバランスを崩す。ましてや今の青龍は左目を失い、左側から駆けつけた高月の姿を捉えていない為、回避も防御姿勢もままならない。


 「高月二官、下がれ!!」


 後ろから聞こえた宗一郎の声に反応すると腰に携帯していた手榴弾を投げ捨てた。数秒後手榴弾が爆発すると真っ白な煙が青龍の周りを包んだ。遅れて三個の手榴弾が高月の後方から投げ込まれ煙幕をさらに拡大する。宗一郎が投げ込んだものだろう。高月は残り少ないショットガンを数発撃ち込むと踵を返して走り出した。


 「こっちだ!!」


 宗一郎が建物の陰から顔を覗かせ手招きしているのが見え、その奥へ駆け込んだ。荒くなりつつある呼吸を整えつつ身を隠す。


 「無事かね?」

 「ビンビンっス」

 「それは結構。さて、軽く状況を整理しよう。今ある装備は?」

 「ボウガンとその矢があと十二本。ショットガンが数発、E仕様の拳銃が二弾倉、煙幕が一つ。そちらはどうスか?」

 「槍一本と拳銃が三弾倉……ギリギリかもしれないね」

 「―――いえ、大分余裕があるっス」


 宗一郎は思わず高月の方を向いた。艮のアポカリプスと同ランクの日本号でさえ、今の青龍には軽傷しか与えられていない。


 「……そう言えば君が言っていた策と言うのは、さっきの矢の事か?」

 「そうっス。この矢……『白虎』の素体で作られた特別性の矢なんスよ。考案は艮特官なんスけどね、試作品(プロトタイプ)でも効果はあったみたいっス」

 「毒は同じ毒をもって制す、か」

 「さっきの戦闘で籠手を破壊出来てから、次の矢は弾き返さず回避、その次の矢は側面から弾いた、明かに嫌っている証拠っス。当たりさえすれば勝てるっス」

 「その矢の有効性はわかった。問題はどう当てるか……」

 「多分、思ってるより簡単っスよ」


 高月はさらに続けた。


 「―――俺が死ねば」

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