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最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


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最終話 平成元年、夏

「うわああっ、いきなり脱がないでよ!この変態!」


 亀井琴子の悲鳴が、五年三組の教室に響き渡った。


 彼女のすぐ隣では、上半身を露わにした慎太が眉をひそめている。

「失礼なやつだな。次はプールだろうが。女子はもう、四組の教室に移動してるぞ」


「え、こんな急いでやるもんなの……? 私、初めてプールの日に来たから……」


 琴子はノートの上でシャープペンシルを握ったまま、目を瞬かせた。ページには美麗な少女のイラストが描きかけになっていた。


 二クラス合同のプール授業。男子は三組、女子は四組で着替えることになっている。


「さっき真佐奈が声かけてたろ。お前、絵に集中しすぎて耳に入ってなかったけどな」


 慎太が呆れたように入り口を指す。


 見れば、教室の引き戸の隙間から、学級委員の佐々木真佐奈が顔を覗かせていた。視線を背け、壁に身体を半分隠している。


「琴子ちゃん、もう男子が着替え始めちゃってるから、早く行こう!遅れると先生に怒られちゃう!」

「真佐奈!……ごめん、いま行く!」


 慌てて席を立つ琴子。真佐奈の元へ駆け寄った。

 

 琴子の机のフックに置き去りにされた、ビニール製のプールバッグ。


「おい、忘れものだ」


 慎太は上半身裸のまま、入り口まで届けた。

「ほら」


「え、ありがとう……あれ? 真佐奈、顔赤いよ?」

 バッグを受け取った琴子が首を傾げる。


 真佐奈は口をパクパクさせて、すっかり固まっていた。

「し、慎太くん……!」

 至近距離にある、引き締まった筋肉。小学生離れした野生的な肉体がそこにあった。


 琴子がようやく真佐奈の視線の先に気づき、声を荒げる。

「ちょっと、慎太! 上、裸のまま廊下に出てこないでよ!」

「何を言っている。水着と同じようなものだろうが」

「……まあ、そうだけどさ。……ん?」

 琴子はふと、慎太の胸元に目を留めた。


「どうした?」

「あんた、いい筋肉してるわね。へへっ、ちょっと触らせてよ」


「まあ、減るもんでもないし。さっさと触って行け」

 慎太が軽く胸を張る。

 琴子が面白がって人差し指で突こうとした、その時。


「もう! 教室の前でそんなエッチなことしたらだめ! 琴子ちゃん、行くよ!」

「ああっ! 真佐奈、引っ張らないでってば!」


 限界を迎えた真佐奈に腕を掴まれ、琴子はズルズルと引きずられていく。慎太の胸筋が珍しかったのか、未練がましそうに振り返りながら、四組の教室へと消えて行った。



 男子の熱気でむせ返る三組の教室。


 すでに着替えを終えた男子たちが雑談に花を咲かせていた。


「なあ、亀井さんがプールの授業に来るのって、もしかして初めてじゃね?」

「そういえばそうだな」

「……もしかして亀井さんのこと、気になるのか?」

「いや、俺は佐々木さん派だから」

「三組って、可愛い女子ばっかりじゃん。下館さんもいるし」

「それは言い過ぎ。普通にジャイ子もいるから……あ、今のナシな」


「でもさ、三組は担任が大山だから最悪だよ。四組の関先生の方が、面白くて優しいし絶対いいだろ」

「あー、それは言えてる。大山はきつい」


 重い溜息が、男子たちの間でシンクロした。



 一方、壁一枚を隔てた四組の教室。


「あー! 亀井さん、こっちだよ! 一緒に着替えようよー!」

 部屋の真ん中で、下館亜里が満面の笑顔でぶんぶんと手を振っていた。


「こら! 亜里! 隠すとこ隠しなさい!」

 すかさず真佐奈の委員長らしい雷が落ちる。真佐奈は自分のバスタオルを広げ、亜里の身体を遮るように立ちはだかった。


「えー、大丈夫だよー。だってここ、女子しかいないしー」

 亜里はケラケラと笑いながら、ちっとも堪えた様子がない。


「もう……本当に亜里は……」

「……下館さん、元気になったら、すっかり元に戻ってるね……。っていうか、警戒心なさすぎだよ……」

 真佐奈と琴子は顔を見合わせ、同時に深い溜息をついた。



 授業の始まりを告げるチャイムが、どこか伸びやかに響く。


「よーし、バタ足ー。足首の力を抜いて、バチャバチャー」

 関先生の声と、ホイッスルの音が響き渡る。

 一斉に水が跳ね上がり、子どもたちの歓声と悲鳴が、真っ青な空へと吸い込まれていった。


 七月のプールサイドには、塩素の匂い。水中で揺れる太陽の光が輝いている。


 

 フェンスの外には、開け放たれた体育館の扉。


 中には七夕集会に向けて、大きな笹飾りが立てかけられていた。

 吹き抜ける風がサラサラと笹の葉を揺らす。


 赤、青、黄色、折り紙で作られた色とりどりの短冊が、ひらりと一枚、風にめくれた。


 力強い文字が見えた。


『悔いのない一生を 慎太』


 そして、そのすぐ隣で揺れる、きれいな文字の短冊には、こう記されていた。


『大切な人たちと、これからもずっと一緒に過ごせますように 佐々木真佐奈』


 少年と少女たちの願いが、風にはためいていた。




――――


外伝短編

『平成元年、DV父親、娘の最強同級生にボコられたら「お仕えモード」が止まらない』

も公開しています。

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