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再会した元兄弟、因縁のワルツを踊る  作者: 垣花 やお


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ハンターは天使を追跡する

挿絵(By みてみん)

「ウチの隊長が拐われた!」

 暴動鎮圧部隊の司令部に駆け込んだバスカルらは、ジニィ・ブレシュ救出部隊を出すよう代官に直訴した。彼らの荒々しさが代官の側近らを警戒させたが、筋肉の圧の前では 壁にもなれず弾き飛ばされる。それでも小揺るぎしないデューガルドは、バスカルらに非情な台詞を吐く。

「たった一人の為に応援を出せる余裕はない」

「っ! もういいっ、それなら勝手にやらせてもらう!!」

「軽々に動くな!」

 代官は 踵を返すバスカルらを強く制止した。

「命令違反で貴様らを拘束するぞ。それをブレシュが喜ぶか?」

 代官護衛隊は、すぐさまバスカルらを取り囲む。バスカルらの怒気は、一瞬で限界点を越えた。

「ワン!」

 暴発寸前の修羅場に、一頭の勇敢な犬が飛び込む。しなやかな体躯、精悍な顔立ちの黒い猟犬だ。

「こんにちは。私が来ましたよ!」

 虚を突かれたように固まる司令部に、これまた場違いな女性が現れた。

「あっ、ワンコ隊長!」

 犬の散歩コースにある旧宿舎。住人であり犬派のカルが笑顔を咲かせる。

「なんだよ、犬のネェちゃん」

「はい。ジニィさんの事なら私達(・・)にお任せを!」

 ジニィ隊は怪訝な顔で目を見合わせた。

「何の義理があって、あなたが?」

 グレイズが先じてレビィに歩み寄る。身長と厚みの差は、もはや男女のそれだ。しかしレビィは、威圧感に屈さず更に声を張り上げる。

「ボスの守護天使を守る。それが私のお役目です!」

「何ですか、それ?」

「ヒャッハハ。アイツが見守りの天使様だってかァ〜!? クッソお似合いじゃねえか!」

 キディが即答するとは つまり、宗教的な用語なのだ。そのハマり具合いに、ジニィ隊は一瞬で理解を示した。

「誰かと思えば、特務の者か」

 代官は改めてジニィ隊を睥睨した。

「ブレシュの件は特務に引き継ぐ。いいな!」

「ワン!」

 ジニィ隊が返事をためらっている内に、猟犬が元気な返事を響かせた。


 ✦✦✦


「失礼します。アルカン様」

 外に出していた部下が途中報告に戻った。声には若干の焦りが滲んでいる。

「とんでもない人物が掛かりました」

「誰だ?」

 その名を聞いたアルカンは、己の目で真偽を確かめる為に指令室から出た。案内は一人に留め、目立つ容貌をフードで隠す。向かうはソーン市街にほど近い、教会が運営する孤児院だ。

「これは盲点だったな」

「はい。義兄殿の部下が目を掛けている子供達がいます」

「なんだそれは」

 話を聞いてみれば、元は中区の孤児だという。アルカンが不要だと断じ処分した情報の一ツだ。

 監視スポットの空き家に足を踏み入れる。ここは激安物件の屋根裏部屋。特務隊が中区に入る前から、一般借り主のテイで押さえていた。広げた手の平大の小窓に、小型双眼鏡を差しこむ。部下の誘導で、報告に該当する人影を捉えた。“彼”は警戒心が強いようで、室内でも野暮ったいローブを頭から被っている。

「どうやって顔を見た?」

「あの長いローブが原因で子供がつまづいた時に」

 アルカンは一計を案じ、部下に指示を出す。五分もかからない内に、孤児院の近くで銃声が響いた。好奇心旺盛な子供達が窓から顔を出して、無警戒に外を眺める。一般人にとって銃声はまだ“耳馴染みのない雑音”。これに危機感を抱くのは、銃の危険性を知る立場の者だけ。

「!」

 “彼”が動いた。表から見える位置には立たず、窓際から そっと外を探っている。観察の邪魔になるフードをめぐり、自ら顔を見せた。

「ッ――メイナード司教だ」

 報告通りの人物が現れるも、アルカンは驚愕を隠せない。メイナード司教は都会出身。片田舎の教会にコソコソ出入りするような縁はないはずだ。

(それはつまり)

 メイナード司教がソーンに滞在する理由を推理し、最悪を想像して息が止まった。バラバラだった情報が、ある人物を通じて配置すれば それなりに見れる形に成る。

(筋は通る。当たって欲しくはないが)

 高潔で知られる人格者の、荒唐無稽な裏の顔。事実は小説より奇なり。

(気が早い。立証するには更なる証拠が要る)

 しかしながら、証拠を集めた所でアルカンは“彼”を糾弾できない。なぜならば彼我の信頼度が段違いだからだ。

(ここで顔を見られるのは不味いな)

 アルカンは双眼鏡から目を離し、部下に一ツだけ命令を下す。

「特務隊は彼に正体を知られてはならない。そのように全体へ通達しろ」

「ハッ」

 割に合わない仕事に、溜め息が漏れそうになる。

「私は“彼”の動向を追う。“渡り鳥”の追跡は継続――」

 ふと、アルカンの脳裏にジニィの顔が浮かぶ。

「ジニィ・ブレシュ隊長は、今どこに居る?」

「調べて参ります」

 集中している間 まれに、脈絡のない思考の乱れが生じる。“例の勘”、心の調和を乱す危険な兆候だ。

(大丈夫。人を動かせば済む話だ)

 再び双眼鏡を覗くが、動悸は なかなか収まらなかった。









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