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転生者は身バレしても平穏を求める  作者: 天原 重音
坂月菊理編 異世界帰りの転生者は平穏を望む

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姉妹校、小鳥遊学園の誘い

 休校二日目。

 学校が休校になると、無事だった生徒は暇になる。学校側の判断で、今日から部活動だけは許可された。

 部活以外に前日申請制だが、校外への外出も許可されている。自分も申請して外出した。

 


 十一時。

 自分は真鍋先輩に誘われて貸し切りバスに乗り、結界の破壊に関わった生徒二十数名と遠出をしていた。

 行先は、バイキング形式の料理やデザートが食べれるお店だ。結界の破壊に関わった教員達から『慰労会として行って来い』と言われている。

 ちなみに予算は校長のポケットマネーで、引率は大熊先生だ。

 倒れた教職員や生徒の救助活動を手伝ってくれたお礼――と言うのが名目だ。

 真実は『校長から自分への謝罪』だ。

 剣道部部長が言うには……大熊先生が校長に『坂月に詫びを入れろ』と木刀片手に笑顔で迫ったらしい。


 一介の教員が校長に向かって、そんな態度を取って良いのか? 

 そう思ったけど、大熊先生は獅子倉グループの理事会から派遣された『教師を兼任する内部調査員』でもある為、校長に対して面と向かって文句が言える人物だった。

 ついでに言うと『大熊先生の雇用主は理事会』なので、校長にどれだけ反抗しても良いらしい。

 これを聞いて思った。

 多分だけど、大熊先生は獅子倉グループ内の学校の『自浄能力の一種』なんだろう。

 仮の話だけど、校長が暴走してワンマン経営を始めたら、その影響範囲は広い。生徒は当然だが、教師にも影響が出る。

 教師が校長に逆らったら、解雇される可能性が出て来る為、校長には逆らえなくなる。

 だが、雇用主が理事会だったら、校長に逆らっても解雇の可能性は低くなる。何を言われても『理事会からの指示』で誤魔化しも可能だろう。

 こんな裏事情が存在する為、大熊先生は校長に対して色々とものが言えるそうだ。

 

 お店に到着するまでの道中、剣道部部長からの解説を聞き、『だからあの時、大熊先生は『校長が悪い』と断言出来たのか』と、自分は内心で納得した。

 しかし、一介の教員がどんな経緯で『内部調査員』の仕事を請け負う事になったのかと思えば、理事の一人が大熊先生の兄だそうだ。

 流石に理事会に名を連ねている人の名前はまでは知らなかったので、これには本気で驚いたわ。

 ちなみに、大熊先生と同じ内部調査員を兼任する先生は、各学年に最低でも三人は存在する。大熊先生以外は、流石に校長も知らないらしい。大熊先生の場合は、隠しようが無いからバレたんだろうな。

 剣道部部長の見解では、運動部の顧問の中に複数人いるらしい。他に内部調査員の名前の候補に上がっているのは、大熊先生の幼馴染の柴田先生だそうだ。

 レオーネ学校の運動部の数は近隣の公立高校に比べて多いだけでなく、近隣の私立高校よりも多い。

 その為、内部調査員が誰なのかを把握しているのは大熊先生だけらしい。

 一介の生徒が知っても良い事なのか、判別不可能な事を教えられたが、聞こえているであろう周辺の生徒は気にしていない。気にしていないと言う事は、知っていたと言う事になる。

 ただ一人、宇賀神さんだけは知らなかったらしく驚いていた。

 移動の道中、出来る事ならば知りたくなかった事を教えられながら、お店に着くまでの時間を潰した。



 本日定休日なのに開けてくれたお店の店長に、引率の大熊先生と一緒に頭を下げてお礼を言い、皆と一緒に店内に足を踏み入れた。 

 店内は木目を強調した、壁とテーブルと椅子のセットが目に入った。街中の店内なのに海辺のカフェを連想させる内装だ。

 店内の席は事前に指定されており、自分は真鍋先輩に手を引かれて店内を移動する。宇賀神さんは部活動繋がりで、剣道部部長に手を引かれて移動していた。

 真鍋先輩に言われて、先にドリンクを手にした自分が連れて行かれた先には、知らない男性が一名いた。

「あの……」

「坂月さんに聞きたい事があるからあそこにいるだけよ。話が終わったら別の席に移動するわ」

「そうだと良いんですけどね」

 自分は不吉な予感を抱いたが、真鍋先輩は足を止めない。

 こうなったら、話を早々に終わらせるしかない。自分は真鍋先輩に気づかれないようにこっそりと嘆息した。


 そして、自分の予想は当たった。


 簡単に言うと、真鍋先輩と一緒に席に着くなり、前置き無しで小鳥遊学園への転校までを含めた『勧誘』を受けた。この男性はエクソシストで、小鳥遊学園の教員だった。

 しつこい勧誘を受けたが、答えは勿論『否』一択である。

 勧誘理由は教えてくれなかったが、男性教員は『世界の危機が迫っている中で、即戦力を遊ばせておけない』と何度も言っていた。

 その『世界の危機』の内容を教えて貰えなかったので、自分は胡散臭さを感じて勧誘を断った。そもそも、この男性教員は名乗らなかったので、胡散臭さが凄かった。

 この男性教員は真鍋先輩に『お前も何か言えよ』みたいな視線を何度も送っていた。真鍋先輩はオレンジジュースを飲んでスルーしていた。

「何故拒絶する? 世界の危機が迫っていると言うのにっ」

 憤慨する男性教師を視界に収めて、自分はコーラを飲みながら『先ずは名乗れよ』と思った。

「先生、落ち着いて下さい」

「だが! 真鍋君は何も思わないのか!?」

 男性教員の怒りの矛先が真鍋先輩に向かった。けれども、真鍋先輩は余裕の笑顔を浮かべている。

「坂月さんは警戒心が強いのです。名前すら名乗らない教員に『世界の危機云々』と言われても、詐欺師かペテン師扱いされるだけです。先ずは名乗って下さい。全てはそこからです」

 真鍋先輩も自分と同じ事を思っていたらしい。男性教員に『名乗れ』と言い返した。

 言い返された男性教員は判りやすく狼狽えた。

「まぁ、名乗る云々以前に、『転校の話を出さない』事を条件に本日相席の許可が下りたのです。これ以上は協定違反になります」

「そ、それは……」

「今日はお引き取り下さい。これ以上の違反行為を取るようなら、理事会に報告します」

「……失礼した」

 心底悔しそうな顔をした男性教員は絞り出すようにそう言った。

 結局、男性教員は最後まで名乗らないまま退店した。

「何しに来たんですかあの人?」

「その辺の詳細は学校に帰ってから大熊先生から聞くのが無難ね。さて、私達もご飯を食べましょう。ここの鉄板料理はとっても美味しいのよ」

 オレンジジュースを飲み干した真鍋先輩は空のグラスを手に立ち上がった。

 それにしても、真鍋先輩は鉄板料理を気にするのか。

「真鍋先輩は前衛として動き回るから肉料理が好きなんですか?」

「前衛? 私は聖句を唱えて術を発動させる『後方支援担当』よ」

 自分は己の耳を疑った。この先輩は今なんて言った? 後方支援担当? この先輩は十字鎌槍みたいな長柄の武器を持っていなかったか?

「先輩は槍を持っていませんでしたか?」

「あれは杖よ! 十字架を模した立派な杖です。もうっ、何でどいつもこいつも槍と間違えるのよっ」

 真鍋先輩の台詞の後半部分を聞いて、『槍と間違えるのは自分だけじゃないんだな』と知った。どう見ても十字鎌槍にしか見えないんだが、本当に杖なのか? 緊急時に『鈍器』として使われそうな外見だったんだが。

「私の杖よりも、坂月さんはハンマー使いなんでしょう?」

「状況に合わせて武器を使い分けているだけなので違います」

「……そうなの?」

 真鍋先輩、目を丸くする必要は無いと思うんだけど。てか、そんなに驚く事なのか?

 訳が分からなくて自分は困惑した。

 真鍋先輩と互いに顔を見合わせたが、揃って胃が空腹を訴える音を鳴らした。疑問を一旦保留にして、真鍋先輩と一緒に料理を取りに移動した。



 真鍋先輩と料理を取り、他の生徒達(先輩)と一緒にテーブルについて料理を食べながら、小鳥遊学園について質問をする。真実を知った今となっては、只の姉妹校とは思えない。

「小鳥遊学園はレオーネ学校とよく似た学校で、地下施設も同じよ。最大の違いはエクソシストとしての素養の有る一般家庭の子供達を探し出して、未来の戦力候補として入学するように誘導しているの」

「『エクソシストとしての覚醒は早ければ早い程良い』ってのが、小鳥遊学園側の考えだ。こんな考えを持っているからか、小鳥遊学園には初等部が存在する」

「レオーネ学校は『エクソシストの家系に誕生した子供が入学する事を前提にしている』から、学校の考え方にも違いがある」

「早い方が良いとか言っているけど、小鳥遊学園に『幼稚園』は存在しない。だが、獅子倉グループ内には、『エクソシストとして、早期覚醒した子供の保護』を目的とした『全寮制の幼稚園』が存在する」

「エクソシストとして早期覚醒してしまった子供の中には、両親から虐待を受けるケースがあるから、児童相談所を経由して保護するんだ」

 真鍋先輩と男子の先輩二名から、小鳥遊学園に関する簡単な説明を貰った。

 レオーネ学校よりも小鳥遊学園の方が、とあるTRPGに登場する学校に近かった。

 料理を食べつつ、興味を持ったかのような風体を装って空返事を返していたが、ここで一つの疑問を抱いた。

「エクソシストとしての覚醒や素養の有無って、どうやって調べるんですか?」

 これが気になった点だ。間接的に調べるのか、理由をこじ付けて直接調べるのか。それすらも想像出来ない。

「素養の有無の調査方法は機密情報だから、私達も知らないの。でも、覚醒方法を調べる手段は公表されているから教えられるわ」

「公表されているって言うか、意図的に作り広めた『学校の七不思議』を利用しているんだ。学校の七不思議って、噂話に近いだろ? だから、『七不思議の一つを見た』と言った生徒を見たら、俺らは『随時報告しろ』って言われているんだ」

「公表していると言うより、覚醒しているか調べる方法を知らないと、候補者を見つける事すら出来ないって事だな」

「……噂話を気にした生徒を片っ端から調べていたんですか」

 想像を超える人海戦術に吃驚した。思っていた以上に力技だった。

 そんな方法で確認を取るのならば、公表されていないと報告のしようが無い。仮に、報告を受けても確認する担当が、教師でも生徒でもないと良いんだが、どうなっているんだろう。

 しかし、こんな方法で覚醒しているか否かを確認するのならばと、一昨日の事を思い出す。

 宇賀神さんはどうだが知らないけど、校長は結界内で活動する自分を見て驚きもしなかった。これが意味する事は、『元々目を付けられていた』って可能性が高い。

 不躾だが、思い切って自分の予想を真鍋先輩に尋ねてみたら、答えは『イエス』だった。

「私達が坂月さん――いえ、五十嵐さんの事について教えられたのは今年の三月の頃よ。何が起きて、五十嵐さんのクラスが全員纏めて行方不明になったのかは、誰も知らない。獅子倉グループが総力を挙げて調査しても解らなかった。ただ、貴女が一人だけが去年の十一月頃に帰って来ていた事だけは今年の一月頃に判明した。小鳥遊学園の先生達は接触したがっていたけど、戸籍は変わっていたし、レオーネ学校に入学を決めていたから、そのまま接触しないままだったの」

 真鍋先輩が言った事を考えると、異世界からこちらの世界に戻って来て早々にバレていたんだろう。

 戸籍を変える際に魔法を使って誤魔化したから、その辺からバレたのかもしれない。

「そうでしたか。私は通っていた中学校から離れていて、学校に通うついでに住む場所を得る為に全寮制の学校を選んだだけです。レオーネ学校を選んだ理由は、部活と系列の専門学校に興味があっただけです」

 素っ気無く回答した自分は持って来た料理に集中した。

 暫くの間、無言だったけど先輩の一人から質問が来た。

「なぁ、坂月。何で戸籍を変えたんだ?」

「私は普通の生活が送りたいんです。叔父一家が私の両親の遺産を食い潰し、私の名前で借金して遊んでいたんです。まぁ、浪費された分を取り戻して、二度と使われないようにするには、戸籍を弄って、名義を変えた方が手っ取り早かっただけです。それと、こちらで生活をするのなら、五十嵐実咲の名前でいるとマスメディアからの注目を浴びますし、他の生徒の親が『一人で帰って来て恥ずかしくないのか』とか、騒ぎそうだったので」

 立て板に水を流すように淀みなく回答したが、先輩達の顔は曇った。

「おい、その物言いだと、他の行方不明者はどうなったんだ?」

「生きていない事は確かです。運良く伝手が得られたので、全員弔って貰いました。生存者一名と、全員が行方不明のまま、他の人の家族にとってどちらが精神的に良いですか?」

「そんなのっ」

「私達が決める事では無いのは確かね。坂月さんなりの気遣いだし……」

「知らない方が幸せな時もある。まさにこの言葉通りだな」

 生きているかもしれないと信じ続けるか、一名残して死にましたと言われて一生涯悲しみを背負うか。

 どっちが正しいのかは知らない。人それぞれだから、答えは無いだろう。

 やや重い沈黙が下りた。自分は気にせずに料理を平らげて、お代わりを求めて席を立った。



 料理を何度もお代わりして、デザートもお代わりして堪能していると、サンドイッチが大量に盛り付けられた大皿を持った大熊先生がやって来た。

「坂月、ここの料理はどうだ?」

「美味しいです。お肉のソースの幾つかは味を盗みたいですね」

「ソースの味が盗めないかを考える当たり、やっぱり料理部だな」

「そうですか?」

 鑑定スキルを使えば使用されている材料は判るが、直感を鍛える為に料理に使用されている食材当てには使用しないようにしていた。


 そんな事よりも。


 大皿を持った大熊先生は自分に料理の感想を聞いて去るのかと思ったが、テーブルの開いている席に腰を下ろした。どうやら、大熊先生は席を移動して来た模様。大熊先生に聞きたい事があったから別に良いんだけどね。

「真鍋。小鳥遊学園の教員はどうだった?」

「はい。名乗りもせずに坂月さんを勧誘した挙句、転校まで勧めて来ました」

「世界の危機の詳細について、何か言っていたか?」

「いいえ。何も言いませんでした。あ、坂月さんは悩みもせずに転校の誘いを断りました」

 真鍋先輩の報告を聞いた大熊先生は『そうか』と短く返答してから、大皿のサンドイッチに手を伸ばした。大熊先生がサンドイッチを一切れ食べ終わる頃のタイミングを見計らって、自分は気になった質問を投げ掛ける。

「大熊先生、『世界の危機』って何ですか?」

「それをここで教える訳には内容が重いし、とにかく長い」

「簡単に言うと、どんな感じになりますか?」

「そうだな……。『審判者と呼ばれる特殊な存在が関わっている』としか言いようがない」

「……は?」

 予想外の単語が出て来た。思考が一瞬停止する。

「審判者? 一体、どこの派閥の奴が関わっているのですか?」

「坂月? もしや、審判者について知っているのか?」

「……確認ですが、私が知っている審判者と、大熊先生が知っている審判者は同じ存在なのでしょうか?」

 嫌な予感がする。でも、聞かない訳にはいかない。大熊先生の回答を待つ。

「何とも言えないが、『どこの派閥』と言ったな? 現在、とある場所で『赤と青の二つの派閥』が争っており、白の派閥の手を借りてどうにか持ち堪えているところだ」

「その、赤と青と白って、赤のルータ、青のブルゥア、白のブラーンカって言いませんか?」

「確かにそう言うが、……坂月?」

 大熊先生に確認を取ったら、嫌な予感は的中した。思わず額に手を当ててしまう。

「坂月さん、どうしたの?」

「とんでもない事が判明しました。ついでに言いますと、私はその世界の危機とやらに関われません」

「手伝えないのではなく、関われない?」

 大熊先生の確認の言葉に頷く。

 赤と白の派閥に所属する審判者とは関わった事がない。

 だが、青は違う。あそことは一度関わった。それに一度殺し合った(戦った)奴を逃している。顔を見られている。

 何より、その時に一緒にいた(臨時共闘した)奴が『緑のヴェーダに所属する審判者だった』ので、自分は緑のヴェーダの協力者と誤認されている。

 改めて嫌な事実を思い出してしまい、ため息が出掛かった。

「学校に戻ってから説明します。あ、各派閥から誰が来ているのかって判りますか?」

「白の派閥からの協力者カルツェーロと、他にはレギオと言う名は聞いたな」

「レギオがいるんじゃ、ますます関われませんね」

 ……どうしてピンポイントであの野郎がこの世界にいるんだよ! マジでため息を吐きたい。

 同席者達の前でため息は吐けない。代わりにデザートを食べる事にした。同席者一同から心底不思議そうな顔をされたけど、無視してデザートに集中する。

 そして、自棄食いを始めた。


 入店して一時間半ぐらいの時間が経過した。

 少し前に席を移動した大熊先生が『あと三十分が経過したら退店する』と、店内にいた生徒全員に向けて言葉を発した。自分を含めた全員が食事の手を止めて返事を返した。

 大熊先生は生徒一同を見て、満足そうに頷いて食事に戻った。自分も自棄食いに戻った時、カランカランと、音が聞こえた。

 本日はは休店日で、来客は無い。気になったが自棄食いに集中する。

「今日は来ないんじゃなかったのか?」

「勧誘に失敗したから言って来いって言われたんです。……あ、いた!」

 大熊先生が対応している声が聞こえたけど無視する。アフォガードが美味しい。ホットドリンクと一緒にお代わりしよう。そしてアイスは大盛りにしよう。

 席を立った時、知らない他校の男子生徒と目が合った。見覚えがあるけど……ま、いっか。男子生徒から顔を背けて料理を取りに行く。

 取り皿にバニラアイスとチョコレートアイスとキャラメルリボンアイスの三種類を盛り付けて、濃い目のエスプレッソを掛ける。席に戻ってから掛けるのではなく、アイスを盛り付けたところで掛けるスタイルだった。洗い物を減らす為かな? 知らんけど。

 席に戻り腰を下ろした直後、背後からドタドタと荒々しい足音が聞こえて来た。何事かと思えば、自分の隣の席の椅子が動き、そこに知らない他校の男子生徒がドカッと座った。

「お前は、小鳥遊学園の西園寺じゃないか」「ボンボンが何しに来たんだ?」

 先輩二名がほぼ同時に口を開いた。西園寺と呼ばれた男子生徒は端正と言っても良い顔をブスッとしたものに変える。。

「勧誘に失敗したからお前が代わりに言って来いって送り出されたんだよ」

「そうだったの。とっても悪いニュースだけど、理事会は坂月さんに『転校の話をしない事を条件に合う許可を出した』のよ」

「げっ!? あのクソ教師。何で大事な事を言わねぇんだよ!!」

 西園寺は椅子から立ち上がって吠えた。西園寺の席は自分の隣なので大変煩い。

「煩いから他所に行ってくれない?」

「何でお前は暢気にアイスを食ってんだよ!」

「何を言い出すの? ここは料理を食べる場所だよ?」

「くっ、確かにそうだけど、そうだけどな!」

 ここは料理店だ。料理を食べもせずに騒ぐのはマナー的に良くない。

 地団太を踏む西園寺を無視して、持って来たアフォガードを食べる。早く食べないと溶けてしまう。ここで真鍋先輩が見かねたかのような顔をして口を開いた。

「坂月さん、西園寺君を見て、何か思い出さない?」

「真鍋先輩、私に小鳥遊学園に知り合いはいませんよ」

「そうじゃなくてね。結界を破壊した時に、坂月さんが振り回したハンマーが当たりそうになった生徒の顔を置覚えていない?」

「覚えていません」

 真鍋先輩の質問に即答する。思い出せないと言う事は、きっと些末な事だったんだろう。

「そのハンマーが当たりそうになった生徒が、この西園寺君よ」

「……」

 真鍋先輩から何とも言えなくなる事実を教えられた。

 ……こいつがそうだったのか。道理で見覚えがあったのか。

 一人で納得していると、地団太を踏むのを止めた西園寺が自分を見つめる。西園寺から目を逸らす。

「あー、悪かった」

「それだけかっ!!」

「他にどう言えと?」

 言い返したら、西園寺は頭を掻きむしった。食事の場なので止めて欲しい。

「お前ら、食ってないでこいつに何か言う事は無いのかよ!?」

 西園寺の矛先が食事中の先輩達に移動した。だが、先輩達は視線を手元から移動せずに回答する。

「基本的に無いわね。昨日も危ないところを助けて貰ったし」「同じく」「右に同じ」

 無情な回答を受けて西園寺が金切り声を上げたところで、大熊先生がやって来た。大熊先生は西園寺の襟首を掴んで引き摺り、そのまま店の外に移動する。

「文句は理事会を経由しろ」

 大熊先生は最後に一言言ってから、西園寺を店外にポイ捨てした。店外に放り出された西園寺は、尻餅を着いたまま暫し呆然としていたが、項垂れてからと立ち上がるなりトボトボと去った。

「負け犬みたいな姿ですね」

「流石大熊先生だ」

 先輩の一人は食事の手を止めて拍手をしていた。そう言えば、この先輩は西園寺の事を『ボンボン』と言っていたな。何か思うところが有るのかもしれないな。

 アフォガードを平らげながら、自分はそんな事を思った。


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