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悪役転生〜俺は魔王様の参謀です〜  作者: 渡琉兎


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第33話:レイド逃亡戦①

「くっ! 退け! 退けええええっ!」


 レイドのそんな声が、影の中にいる俺に届いた。

 とはいえ、右の戦場は多くの魔法が飛び交っている状況で、入る影を間違えるとはじき出される可能性もあるため、慎重に移動しなければならない。

 しかし……まさか、レイドが魔法戦でここまで追い詰められるとはね。

 勇者や英雄たちも、何もしていなかったわけじゃないってことか。


「正面からやたら強い剣士が突っ込んできます!」

「ダメだ! ぐわああああっ!?」

「魔法を斬るとか、化け物だ!!」


 やたら強い剣士、魔法を斬る、か。

 どうやら正面から突っ込んできているのは、剣聖ルミナのようだ。

 魔王軍の魔導師隊も結構な実力者が多いはずなのだが、その魔法を斬りながら突っ込んでくるとか、イボエル以上の脳筋なのか?

 ……いや、今はそんなことを言っている場合じゃないか。

 被害が大きくなり過ぎないうちに、少しばかり手を加えておくとしよう。


「邪魔、斬る」


 抑揚のあまりない声でそう呟きながら、ルミナが右翼軍の中枢へ迫ってきた。


「影縫い」


 そこで俺はルミナの背後の影から飛び出し、即座に影縫いを発動させる。


「ん? また、あなた?」


 ――ぞわっ。


 ルミナの声と共に感じた悪寒に、俺は咄嗟に影の中へ身を隠す。

 直後、俺が立っていた場所へルミナの剣が横薙がれ、間一髪で空を切る。

 しかし、影縫いを受けて一瞬で狙いを正面から背後の俺に変更、さらには全身に力を込めて無理やり体を動かしてきた。

 ……剣聖、ルミナ・ジョタン。俺が思っている以上に、厄介な相手かもしれない。


「あれ? 消えた?」

「アイスランス!」


 俺の姿を見失ったことで首を傾げていたルミナ。

 そこへ聞き慣れた声が響くと、巨大な氷の槍がルミナめがけて放たれた。


「魔法、斬る」

「斬れるものなら、斬ってみなさい!」


 魔法の主は、レイドだ。

 兵士たちの魔法では止められないと判断し、自らが前に出てきていた。

 それでもルミナは構うことなく剣を振り抜き、アイスランスを斬り捨てようと試みた。


「斬れ、ない?」


 甲高い金属音が響くと共に、アイスランスがルミナを後方へ押し返していく。

 地に足をつけていたルミナは地面を削りながらも、それでも魔法を相手に鍔迫り合いを見せている。


「斬れないなら、受け流す」


 そして、剣の角度をやや斜に構えることでアイスランスの軌道をずらし、受け流すことに成功した。


「まったく。本当に化け物ね、英雄というのは」

「化け物、違う。化け物、あなたたち」


 魔族と人間。お互いに種族が違うため、化け物と見えているのかもしれない。

 この思考が魔族と人間の共生を邪魔しているのだと分かれば、少しは考え方も変わると思うんだけどな。

 現状では、まだ難しいか。


「レイド様」


 イボエルの時のようにこっそりと手助けすることも考えたが、俺の存在をすでにルミナには気づかれている。

 それに、魔力の流れから魔法で誰かがこの地に潜んでいることを、レイドも気づいているかもしれない。

 ならばと俺はレイドの影から姿を現し、堂々と声を掛けた。


「シャドウ? あなた、どうしてここに?」

「あなた、さっき邪魔した奴」


 レイドはどうやら気づいていないようだったが、やはりルミナには気づかれていたか。


「他の戦場ではほぼ勝利を収めました。魔王様にはブラック様が護衛についておられます」

「だからこっちに来たってこと?」

「はい。苦戦を強いられる可能性がありましたので」

「私が苦戦ですって? 何を根拠にそんなことを?」


 おっと。どうやら少しばかり、レイドの怒りに触れてしまったようだ。


「この場に英雄の一人がいるということは、おそらく――」

「ゆ、勇者だああああああああっ!?」


 俺がそこまで口にしたところで、レイド陣営の後方からそんな悲鳴が聞こえてきた。


「こ、後方からですって!?」

「……やはり、あなたは囮でしたか」

「囮、違う。私、死四天将、斬る」


 囮として使われたであろうルミナだが、彼女としては本気で真正面からレイドを斬り捨てるつもりだったようだ。


「ついでに、あなたも、斬る」

「一度退きましょう、レイド様」

「何を言っているのかしら、シャドウ?」

「私の指示に従ってください。……より完全な勝利をお届けいたしましょう」


 最後に俺がそう口にすると、レイドは一瞬だが動きを止めた。


「……言っておくけれど、私だけでも十分に勝てたのよ?」

「存じ上げております」


 俺はレイドにそう答えると、彼女は小さく息を吐いてから、はっきりと答える。


「……どこへ行けば?」

「火山へ。そこに策を用意しております」

「分かったわ」


 火山と聞かされて、少しは抵抗されると思っていたのだが、レイドはあっさりと頷いてくれた。

 これは、俺への信頼と取ってもいいのだろうか。


「逃がさない!」


 ここで初めて、ルミナの口調に力がこもる。

 とはいえ、それでレイドに近寄らせるほど俺も甘くはない。


「影縫い」

「くっ! この魔法、面倒!」


 再び力づくで影縫いを解いてしまったが、一瞬の硬直だけでレイドが戦線を離脱するには十分だった。


「それでは私もこの辺りで」

「逃げる? あなたが?」

「さあ? それはどうでしょうか?」


 再び抑揚のない声音に戻ったルミナの問い掛けに、俺は含みを残しながら答え、そのまま影移動で姿を消した。

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