51 例の変わった人
◇
「そういえばリジー、あの人からの返事は来た?」
とても長く感じられた一日の終わり、わたしが書類整理をしている間に就寝準備をしてくれているリジーに聞いてみた。
あの人というのは、旦那様との使用人入れ替えの話で言っていた雇われ暗殺者みたいな人のこと。さらっと話した程度だったが、お互いに連絡できる手段は得られていたのであの後すぐに連絡を入れたのだ。
性格に難アリというか、色んな意味で変わった人だけど腕が立つのは気配や雰囲気だけで分かっている。
「はい、ちょうど先ほどお返事が返ってきましたよ」
「あら、そうなの? ありがとう」
寝台の準備をする手を止めて、返事の手紙とペーパーナイフを持ってきてくれたので早速読んでみると……うん、やっぱりねって感じの返事だった。
「……読んでみて」
「はい」
「ある意味好きなタイプだけど……それでも癖が強すぎるわ」
「これはまた……何と言うか、あの方らしいと言いますか……」
結論から言うと了承しました、って内容。わたしに雇われてくれるらしい。ただ、特別おかしなことを書いているわけでもないのに文章から伝わってくる変人具合……? なんて言えば良いんでしょうね。旦那様にはああ言いましたけど、性格に難があるというのも少し違う気がしますし……本当に何て言ったら良いのか分からない。ただ一つ言えることは、本当にあらゆる意味で変わった人だってこと。
「夜会が終わった頃には来れるかな? その辺りはリジーが話し合っておいて。わたしはいつでも構わないから」
「かしこまりました。素性は調べ上げなくてよろしいのですか? 色々と隠し事がありそうですが……」
「それは教えてくれそうなら本人に聞くわ。無理に聞き出すつもりはないし、向こうの隠していることを教えてくれたらわたしもロードであることを伝えるよ」
調べようと思えばすぐにでも調べられるけど、任務に支障が出るわけでもないならそんなことをする必要はない。もしわたしの任務に影響するような人物なら最初から雇おうだなんて思わないし、それが判断できる程度には調べているから問題なしです。恐らく害はないでしょう。
◇
「……ということで、何の情報も得られませんでした」
「そうか。まあ分かりきっていたことだ。結果が分かっていて試しに調べてみただけなのだから、そこまで重く受け止めなくても大丈夫だろう」
フェルリア公爵家の女主人こと、リーシャ様とその姉君のお茶会があった日の夜。私室兼執務室で書類決裁しながら報告に耳を傾けていたアルヴィン様は、私の報告にあっさり返答した。てっきり嫌味と皮肉の嵐が来るかと身構えていたのに拍子抜けだ。
「アルヴィン様ご自身でも調べられたのですよね? いくらロードとはいえ、フェルリアの情報力に勝るとは思えませんでしたが……」
「ん? 言ってなかったか? リーシャの血筋はロードの中でも序列一位だぞ。フェルリアは二位だが、この二家の間には天地ほどの差があると私は認識している。ロードは平等であると公表され、実際に序列の差で大きな何かがあるわけでもないが私と彼女の実力差は明白だ」
……あのアルヴィン様がここまでおっしゃるのなら本当なのでしょう。特に能力を使う姿を見たことがあるわけではないと聞きましたが、それでも明白なのですね。
あの様子ですとリーシャ様は……というより、序列一位らしい彼女の血筋は順位へのこだわりはなさそうです。
「確かに、大変優秀でいらっしゃるのは分かりました。リーシャ様が血筋で最後のロードということはつまり、情報管理も全てお一人でされているはずですよね。誰でも知っているくらいの情報しか出て来なかったのですから、悔しいですが私程度の力では至らなかったのでしょう」
「そうだな。私が本気で調べても、他のロードが調べても結果は同じだっただろう。何か伝手や共通点でもあれば話は別かもしれないが」
「そうですか。とはいえ、相手のことは調べない契約だったのでは?」
「ああ。だが実際に何か情報が出て来たわけではない。彼女の性格的に、これくらいならば戯れ程度に見てくれるだろう。精々嫌味たっぷりのお言葉をいただくくらいだ」
戯れ、ですか……私も情報戦には自信があるのですが、それでもリーシャ様にとっては戯れ程度の認識になると。末恐ろしい方ですね。
「とりあえず、これ以上は調べなくて良い。いや、調べるな。殺されるぞ」
「殺され……ほ、本気ですか?」
「ああ。恐らくだが……リーシャは、必要なら容赦なく人間を殺すことができる。私とリーシャが知り合う前も社交行事などで見かけることはあったが、一度だけ彼女の殺気を感じたことがある。感じ取れたのは余程の手練れくらいだろうが、あれは人を殺したことのある人間のものだった。死にたくなければ絶対に一線を越えるな」
「……承知致しました」
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