「いつか相当な物好きかとんだイカレ野郎か真性の変態が貰ってくれるだろ、いや。ひょっとしたら全部兼ね備えたスーパー外道野郎に引っかかるかもな、ゲヘヘ。子供の顔が見てみたいぜ」
「で?何か言いたいことは?」
「アニメ版アズレンのお風呂回の乳首はやりすぎだと思います」
「めっちゃわかる、じゃなかった」
「あざみさん、ちょっとがっかりです。水着姿が見たいなら私が喜んでこの身を捧げたと言いますのに」
「誤解だ」
「そうだ、アザミンはただブツを貰うために動いていただけにすぎない」
「じゃあそろそろ通報しよっか」
「早い早い!どうかお慈悲を!」
「ええい足にしがみつくな」
「獄中あざみさん…?個性を奪われ、尊厳を奪われ、唯一の趣味さえ奪われたよれよれのあざみさんが見れる!?その明らかにカタギじゃない顔つきで同室の方にもヤのつく商売でワッパをかけられたと誤解され孤独に苛まれつつもあの時の戻らない青春に思いを馳せついに私という重要な存在に気づき」
「なんだこいつ」
「なあ許してくれって、足でも胸でも舐めるからさ」
「最高に舐めた発言が出る分まだ余裕があるようね、ならチャンスをあげようかなー?」
「おお、女神様。転生するチャンスをくださるのですね」
「メガテン最新作がソシャゲとはおそれいったわね、シリーズ新作をソシャゲにするの流行ってるのかしらん」
「集金率いいんでない?まさかニーアまでソシャゲになるとはな」
「うたわれるものの最新作は……」
「やめろ」
「そういえばウマ娘はいつ…」
「やめろって!」
いい感じに話が逸れてきた、いいぞ凶郎。
「じゃあチャンスの件だけど、買った望遠鏡私にも使わせて♡」
逸れなかった、にしても。
「え、なんで?男湯でも盗撮すんの?」
「せんわ。好きなライブのチケット抽選落ちたから、望遠鏡で遊んでたら偶然下に向いて偶然録画機能が付いてただけだもんね」
「お前が凶郎の腐れ縁を出来てる理由が解った気がするぞ」
「ちなみになんてバンド名?」
「壁バンプアーオブチキンマン、略してバンプ」
「略すな、あとその名前いつか絶ッ対怒られるからな」
「私は何をしようとあざみさんに付いていくだけですので心配なさらず、ところでブツってなんですか?」
「B級映画のディスク」
「そんなもので?」
「そんなもの?いいか、あれは映画界の時代劇物とアクションの方向性を導きかつ先駆者として全く恥ずかしくないシナリオを兼ね備えていてだな?観客を飽きさせないため百分に抑えられた省くべき所は省き練るべき所はこってりと練った構成にはもうそれだけで涙を流さずにはいられないと」
「なんだこいつ」
「あんたが言う?」
「楽しそうなのでいいじゃないですか」
お前ら最悪だ。
なりゆきで部室へ、元の部員は傀儡集めに奔走中で不在だ。
「それで今何してんの?」
「傀儡もとい資金集め、極秘に進めて全校男子生徒の四割は財布の紐を掌握済みだ。それでも足んないんだけど」
「男ってほんとアホ」
「さやかちゃんみたいな言い方するな、男たちの勇気の結晶だぞ」
「煩悩の結晶の間違いだろ」
「どっちもソウルジェムってルビふってもあんまり違和感ないの受けますねあざみさん」
「知らん」
「私危ない橋は渡りたくないしあんまり巻き込まず買えたら真っ先に貸してね、あと私の授業の時撮ったら全身バラバラに捌いて富士サファリパークの遊覧バスの金網に括り付けるからヨロシク」
「誰がお前なんて撮るかよ、自意識過剰もいい加減にしろ。この深夜二時くらいに放送してるクソバラエティで雛壇に座ってる三流アイドルが」
「そんなこと言っていいのかなあ?昨日の証拠はきっちりとこのケータイに」
「コブラクラッチ!!!」
「ぎゃああああ!痛い痛い!女の子にする技じゃない!」
「オラッ!ケータイよこせ!削除削除削除!」
「ゆるしてー!」
落としたピンクの携帯を取って開く(待ち受けは凶郎が書店でだらしなくToLOVEるを立ち読みしている物だった)凶郎、そのまま画像一覧を確認。
「へっへっへ、さっさと出すもんだしゃあよかったねん」
「ううう、もうお嫁に行けない」
「いつか相当な物好きかとんだイカレ野郎か真性の変態が貰ってくれるだろ、いや。ひょっとしたら全部兼ね備えたスーパー外道野郎に引っかかるかもな、ゲヘヘ。子供の顔が見てみたいぜ」
「楽しそうだな」
「あざみさんあざみさん、私もしたいですあれ。今度小袖で家まで行くので和室に案内した後襟を強引に剥きつつ『恨むんなら払うもん払えんかった親父を恨みや?金子の変わりはお前の体じゃけんのお』と言ってください。そこで私が実は生き別れの兄を探すため忍びの里に一人降り立ち修行を重ねるも不安は残り房中術まで会得してしまった設定で行くので、見事隙を見て返り討ちにし帯で手を縛り上げ形勢逆転。そのまま馬乗りになり忍法暴れ亀応仁の乱交、天明の大性欲飢饉の術を」
「お前もちょっと黙っててくれ」
自分は顔以外比較的普通の高校生だと思っていたが、これだけのサイコと巡り会うという事はその考えは改めた方がいいらしい。せめて自分の意思だけは強く持って行こう。
「話がそれてるぞ、とにかく次の行動はなんなんだ」
「そうだな、ポジションはもう固めたしただ単純に金が足りない。金策を皆で考えるってのはどうだ」
「だから私を巻き込まないでって」
「じゃあ帰れ。あっ、暇なら俺の家行ってアプデした奴隷ちゃんの頭撫でといてくれ」
「サンドイッチ食べさせとくね」
「やめれ」
ここは本当に現代日本か?
「あっそうです!お金が必要なら学生らしく真っ当に稼げばいいんですよ。みなさんでアルバイトしましょうアルバイト!」
「えー?クッソめんどくない?」
「してみたかったんです、アルバイト!一人じゃちょっと怖かったんですけどみなさんも一緒なら平気です。それにいざとなったらあざみさんが壁になってくれますもの」
「ならない」
多分。
「アザミンがアルバイトしたらお客さん泣いて逃げるか通報されるか同業者から鉄砲玉送らされるかじゃね?」
「されない」
多分。
「一年の頃のツテでメイド喫茶なら知ってるけど、着る?メイド服。私は二度と着ないけど」
「きない」
絶対。
「懐かしいなあん時は、見栄えに釣られたオタク共が押し寄せて。店の手前いつもの調子で蹴り飛ばす訳にもいかず珍しく半泣きになって」
「お願いだから忘れて。……あれはとても同じ生き物とは思えなかったわ、なんなのあの物体X共。謎柄バンダナに黒縁極厚メガネ、示し合わせたかのように変なチェックの服着ちゃってさ」
「やめてやれ、あいつらだって必死に毎日生きてんだ」
「なーにが『オシヲキキボンヌ』よ、私は美貴様じゃないっての」
「ロマンティックに浮かれてたんやろなあ」
「さっきからなんですぐ脱線するんだ、アルバイトの話だろ」
「無難にファミリーレストランなんてどうでしょう?」
「ちなみにどこに入るんだ?」
「もちろん厨房に、美味しい料理を振舞っちゃいますよ」
「死人が出るぞ」
「アザミンがフロアに出ても死人が出るけどな、圧で」
「もういいだろその流れの話は」
「うーん、じゃあどうしましょうか」
「はっ、妙案」
「あんたの妙案なんてろくなのじゃないでしょ」
「やかましい、まあ厳密にはバイトじゃないんだけど」
「何だ」
「馬」
「馬?お馬さんですか?」
「まさかあんた」
「一山当てようぜ!」
「お前そこまで外道に堕ちたのか、軍資金は集まった金を使うなんて言わ」
「軍資金は今まで集めた金だ」
「わあわあ、私競馬場なんて初めてです!一体どんな雰囲気なんでしょう」
「興奮するな、許される訳ないだろうがそんなの。目的も最悪ならその手段も最低にするつもりか」
「上手く行けば一週間で例のブツが手に入るぞ?」
「今から書店で指南本を買うべきだと俺は思う」
「そうこなくっちゃ」
「ねえ、本当にこの男でいいの?」
「人は誰しも俗な部分を持っている物ですよ」
「思い当たりが多すぎるわ」
こうして俺たちは競馬場へと足を運ぶ事になった、あれもこれも全部凶郎のせいに違いない。まったくやれやれだ。
貴重な休日を使い競馬場へ向かおうとするのはなんとも情けない気分になってくる、高校生にしてここまで身を堕としてしまうとは。
当然のように待ち合わせ場所の駅前には一番乗り、時間にルーズな奴が身の回りに多すぎると思っていたところに東眠がとことこ歩いてきた。
「おはようございますー」
「おはよう、流石に和服で来なかったな」
「あざみさんに『おうネエちゃん、当日もし和服で来たらロシアでカニ取って貰いに行くけん覚悟しいや?』って止められましたからね」
周りの人の目線が痛い。
「俺が言ったのは危ないからってだけだろうが」
「はっ、そうでした。あざみさんが私の身を第一に考え、でも他意はないオーラを出しつつ照れながらそう言ってきたんでしたね」
「もうそれでいい」
疲れた。
「ヘーイ、おはヨーグルト」
「遅いちごヨーグルト」
「クッソつまらないうえに顔に似合わないギャグせんでもええんやで?」
いつか殺す。
「葛さんは?」
「知らね、そのうち来るだろ」
「もしかしてあれでは?」
遠くに見える噴水の辺りでチャラそうな男二人に絡まれている見た目だけは綺麗な女がいた。
「ナンパされてないか?」
「まあまあまあ、流石ですねぇ」
「何がだ、とにかく助けに……」
言い終わる前に凶郎が向かって行った、見たことの無い瞬足だ、あんなに走れたのかあいつ。
「ウェイウェイウェイ!だからちょっとお茶するだけだって!」
「ね?いいでしょ?奢るからさー!」
「あの、人を待たせてるんで」
「ウェイウェイ!人なんて待たせてナンボでしょ!宮本武蔵だって巌流島の決闘には佐々木小次郎を待たせたんだしさウェイ!」
「え?でも宮本伊織氏の顕彰碑こと小倉碑文には『長門と農前との際、海中に嶋有り。船嶋と謂ふ。両雄、同時に相会す。』と記されているが」
「あの、何のはn」
「待て、信憑性の高い沼田家記にはそんなこと記されていないはずだが」
「それは沼田の子孫が現地に伝わった話を元に書いた物だとも聞く、巌流島付近では佐々木小次郎贔屓文化が強く小次郎を上げる噂が蔓延りそれに引っ張られた可能性が大いにある。信憑性などとはとてもとても」
「そんなことを言い出したら古典にはきりがないではないか、そもそもお前は昔から……!」
「なんだと、お前こそ……!」
「あのお、もう行っていいですか?」
「イエスタデーイ!イエスタデーイ!俺が日本のザ・ずうとるびだぜえええええ!!!」
「うわっ!なんだこいつ!!」
「ウェイウェイ!いきなりエアギターしながら突っ込んで来たぜウェイ!」
「あ。く、凶郎」
「ヘルプ!出張!なんでも姦体団!俺が彼女の運命の相手でッス!カム・トゥゲザーってな!遅れちゃってスマンスマンオスマン帝国ぅ!…ほら行くぞ」
「え、うん……って何勝手に手握って」
「ウェイウェイ、ちょっと待てよ!」
「そうだぞ、今彼女は俺たちと」
「サヨナラー!貴方たち二人の鑑定額は百円です!微妙なサムシングのままスタジオから帰ってね〜!レットイットビー!」
「きゃあ!ちょっと!下ろして!」
「くっそあいつお姫様抱っこなんて!しかもめっちゃ足はええ!」
「ウェイウェイ!俺前身体測定の時100m11秒代のはずなのにウェイ!」
「はーっはっはっはー!!!トーッポーッザワアーール!!!!」
「それはカーペンターズじゃない?」
「うるさいよ」
「おかえり」
「ぜえっ!はっ、はっ。ただいま…ウェゴフゥッ!!」
「アホねえ」
「よくあんな無茶な走りできたな」
「あ、あたぼうよ」
「女の子の為に颯爽と現れて救うなんてかっこよかったですよ?ねえ宿木さん?」
「セリフがマリアナ海溝だったけどね。でも、……ありがと」
「ふう、落ち着いてきた。ったく少しは痩せろよ」
「ご、ごめん。ってうるさいわ」
「行動だけはかっこよかったぞ」
「うん、まあ行動だけはかっこよかったわよ」
ぐぬ、と唸り立ち上がる凶郎。
「うるせえうるせえ、もう行くぞほら!」
「ほらほらあの顔は照れてる顔ですよきっと、珍しいですねえ面白いですねえ」
「お前ほんといい性格してるな」
「と、とにかく行こっか」
「おやおやおや?宿木さんもちょっと赤いです、一体これはどういうことでしょう不思議ですねぇ?ねえねえ宿木さーん?一体どうしたんですか?」
「もういいから!」
執拗に詰め寄る東眠を剥がして駅へ向かう、こんなんで今日は無事に帰れるのか。不安だ。