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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
ゾクブツのヨクボウ
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10

 荷袋(の中の倉庫)に一欠けらも残すことなく殻を回収した一行は、ようやく復路(涼太郎にとっては往路だが)に着くことになった

 今のところ周囲には繭珠が突如樹木に覆われたり覆っていた樹木の崩壊など派手なことがあって間もない所為もあり、警戒して様子を伺っているのか害獣が近寄ってくる気配は無い



「恐らくもう二度と見れない光景だったろうに、あっという間でしたねえ、手前が気になって孵化の方を殆ど見れず仕舞いだった」


「ああ、それなら素人の腕であんまり保証はできませんがデジカメ……あぁ、いやビデオテープ、……ビデオテープでああいう珍しい光景を録画……あーと、撮影、撮影してありますよ、家族に見せてあげようと思いまして」


「ああ、な、なるほど、今度わたしにも貸していただけますか」


「勿論いいですよ、でもご家族だけで内緒で見て下さいね」


「それは勿論、良かった、妻も喜びます」


「それは良かった(……どうやってビデオテープに落とそう……)」


(安請け合いするからですよ、テレビで再生しながらビデオデッキのラインに落として同時進行で録画するんです)


(お、おお、いやお前何でそんな知識持ってんの?)



 ウチは既にビデオデッキもテープも無かったよな?! と勇人は驚愕する



(地域組合の深町さんが昔買ったAVを永久保存用とこれから必要になるであろう孫息子の為にデジタルデータに起こしたいと相談してきたんです)


「はぁあああぁぁああああ?!」


「ど、どうしたんだい勇人さん?!」


「あ、いえっ、なんでも、なんでもありません、ほんとにっ」


「そ、そうかい?」


「そうです、そうですっ(よくカビさせずに保存してたなっていうか孫息子の為ってあそこン家の子供まだ幼稚園児だったよな?!)」


(祖父と趣味嗜好が同じとも限りませんしね)


「そぉいうもんだいじゃねぇぇええええぇぇえええええええええっっ!」


「ゆ、勇人さん?!」



 シリウスは神代家地元で頼れる男になっていたが、そんなことはどうでもよく

 暫し発狂していた勇人の方が余程涼太郎の心臓に悪かったことは言うまでも無い


 そして発狂する勇人を宥めるでもなく荷物(鉄で梱包された大塚家)を空いた片手でひょいと持ち上げすかさずぶん投げると同時に走り出すシリウスも同様に涼太郎の心臓にとてつもなく悪かった


 鉄塊が落ち(いや昇り?)る前に追いついてキャッチし再びぶん投げて走る、その繰り返しである

 水上を船無しに渡るには右足が沈む前に左足を出せとかいう暴論を地で行くような暴挙であることだけは確かだ、……この男なら出来そうだが


 シリウスが走り抜けた背後では足場に残してあった樹木がすぐさま枯れ果て跡形も無く風化して崩れ去っていき、獲物を求めて飛び交う魔獣も大概はその速さに反応出来ずに擦れ違っていく

 稀に両手が塞がっていることによる面倒を減らす為に維持している速度をものともしない魔獣が襲っては来るものの、足場にしている樹木によって蜂の巣のように串刺されて穴だらけになり、穴という穴から体液も臓腑も諸々を大盤振る舞いでぶち撒けつつ落下していくなどというスプラッタもそれなりにあったが、涼太郎はあまりの速度にそれどころではなく半ば気絶していたことを言い置いておく

 逆に気絶していて正解だったと断言してもいい


 因みに涼太郎の耳には「ばかっ! 何で袋被らないうちに走り出すんだよ! ばかっ ほんっ……とばか!! ばかシリウスっ! あとで覚えとけよこのばかやろぉぉおおおおぉおおおっ」とバカを連呼する勇人の声だけが残っていた

 しかし勇人は人力ジェットコースターの恐怖にシリウスの首に齧り付いた状態、つまりシリウスに背負われた涼太郎の頭のすぐ横での絶叫だったので、それしか耳に残っていなくても仕方の無いことだろう


 そのまま叫び疲れたのと いつもの体力切れが重なって寝落ちした勇人と気絶と覚醒を交互に繰り返す涼太郎を抱え走り続けたシリウスは、行きには数十時間掛けた道程を数十分で折り返し、あの広大な湖まで戻ってきていた

 既にシリウスの眼には索敵でなく肉眼による目視で鎖が見えている


 シリウスの視線の先で鎖に絡み付いていた最初の足場がそのまま根元へ、遥か上方の湖面にまで侵食していく

 手を使わずに昇る為の階段代わりの足場を作る為だ



「あぁ……流石にこの大きさは気になるんですね」



 こちらを見ている

 湖面の内に潜む、巨大なアレが

 初めて見るであろう、大きな鉄の塊を


 臭いからして植物でも動物でもない、あれは喰えるのか、それとも喰えないのか、そんなことは喰ってみれば分かること、ただ単純に、それだけのことだ



「では、もっと喰いでがあるものを差し上げましょうか」



 流石に湖面ギリギリでもない限り、飛び上がったアレに喰い付かれれば、避けることはできても鎖を失うことになる


 シリウスとしてはもう鎖は必要無いと判断するが、勇人は弁償を気にするだろうから仕方が無い


 鎖を目指す足は止めないまま投げた後で空いていた手を口元へ持って行き、ごきり、と指を一本喰い千切る、そのままアレ目掛けて投げてやった指はぼごぼごと醜くおぞましい姿を披露しながら増殖し、巨大な肉の塊となってアレの眼の前に曝された


 露骨な肉の臭いに辛抱たまらなくなったのかすぐさま湖面からアレが飛び上がり、充分に腹を満たすであろう肉塊にばぐんと喰らい付く

 一口で納まりきらないそれを満足そうな動作で蛇のように腹の奥へと送り込みながら湖へと戻っていくアレが、動きを止める



――オ゛オ゛おぉお゛ぉォおオオァア゛ぁおぉアア゛あ゛アォあぉおオおオオオ゛オ゛オ゛!!



 のた打ち回り、湖の水を空はおろか遠く湖の外までぶち撒け、もんどりうつ、その表皮は、皮下に何かが這っているのか、べこぼこと蠢き、時折爆ぜ、体液をぶち撒け、圧倒的な速さで侵食していく



(少々過剰でしたか)



 対人間ならば仕込み(指)の必要も無かったが、この大きさの獲物には初めての対処だからと念の為に餌を与えてやったものの、くれてやり過ぎたようだ


 今正に命を失おうとしている気配を察知したのか、アレ目掛けて捕食者が空からも地上からも水中からも続々と集まりだす


 皆、平等に腹を空かせている、血の晩餐は誰もが歓迎するところだ


 最早、弱っていようがいまいが獲物の大小すらも関係無い、喰らい、喰らわれ、湖は瞬く間に染まっていく、夕日を映し込んだように、深い紅のそれへと


 眼下の地獄を高みの見物もせずに駆け抜けるシリウスは再び鉄塊を掴み、投げる

 その指は既に再生し、微かな残痕すらも無く、以前と換わったとは到底見えないだろう

 捨て餌にしたことがバレれば勇人は烈火の如く怒るだろうが、バレなければどうということはない……が、その晩の入浴時に即座にバレた、手触りが微妙に卵肌だったらしい


 それは兎も角、そのまま鎖に辿り着いたシリウスは丁度失速した鉄塊を掴んで今度は真上へ投げると自身も鎖を昇り、湖面を抜けた

 その後には鎖に絡み付いていた樹木すらも既に無く、シリウスが拓いた道はもうどこにも残ってはいない

ビデオテープなんかのデジタル化は「昔のホームビデオをデジタル化したい」なんて相談をネット上でちらほら見かけますよね


個人の環境によっても細かい部分のやり方が違ったり必要な機器が発生したりしなかったりしますが、検索を駆使して探せば大概やり方は載っているし、自分の環境(ビデオテープの種類だとかビデオテープ用のデッキが稼動可能状態で現存するかとか、そのデッキやテレビの型番とか諸々)がしっかり把握できていれば質問掲示板なんかでも教えてもらいやすいと思います

※ビデオテープ自体がわかめになってたりとかカビてたりとか磁力性のものが傍に置いてあったとかの場合はほぼアウトです


やっぱ運動会のビデオとか誕生会のビデオとか結婚式のビデオとか残したいものっていっぱいありますもんね(このおっさんはAVですがwww)

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