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高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果  作者: ケンノジ


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柊木家の事情3


 予定より早く戻った柊木ちゃんと三条坊ちゃん。

 そんな二人を両親たちが訝しんでいる。


 ホテルのラウンジで、本日最後のお茶会がはじまった。


 俺はレストランのとき同様に、付近のテーブルで動向をうかがうことにした。


 両家の両親が、庭園はどうだっただの、会話は弾んだかだの、あれこれと訊いている。


 柊木ちゃんは愛想笑いで適当に流しているけど、三条坊ちゃんは、ブスっとしたままでご機嫌斜めだった。


 柊木ちゃんを部屋へ連れ込みに失敗したのが、原因らしい。

 あんなの、自業自得だろう。ていうか、あれで成功するとでも思った思考回路がすごい。


「隆文? どうかしたか?」


 三条坊ちゃんの父親が尋ねた。隆文っていう名前らしい。


「さっきぃ、上の庭園でしゃべってたんだけどぉ」


 不機嫌丸出しの顔で、髪をイジる三条坊ちゃん。


「……この人、彼氏がいるとかなんとかで、僕にはさぁぁぁぁぁっぱり興味ないんだって?」


 あいつ……!

 乱暴した自分のことは棚に上げて……!


 柊木ちゃんの顔が強張って、テーブルの全員が柊木ちゃんに目をやった。


 彼氏は嘘ってことでいい。

 乱暴をされかけて、それでやめてもらうためについた嘘なんだって。


 乱暴したことをバラされて困るのは、あいつのほうなんだから。


「春香? 本当なの?」


 隣に座っている柊木ちゃんママが尋ねた。

 柊木ちゃんママは、黒縁眼鏡をかけていて少し神経質そうな人だった。

 ただ、顔立ちはどことなく柊木ちゃんに似ている。


 俺は首を振った。

 嘘でいい。


 余計なことをしてきたのは、あいつなんだから。


 同僚からの質問をかわすための嘘と同じでいい――。


 俺の意図がわかったのか、柊木ちゃんは笑って、首を振った。


「ごめんね? 嘘はつきたくないの……。いないなんて、言いたくない……!」


 たぶん、柊木ちゃんは、普段見せないだけで、俺以上の覚悟で俺と付き合っていたんだ。


 同僚から、話題のひとつとしてなんとなく訊かれる彼氏の有無と、お見合い会場で両親から訊かれるそれじゃあ、まったく重みが違う。


 俺も腹をくくった。

 結婚を夢見るんなら、どの道通らなくてはいけない関門でもあるんだ。


 テーブルがまたざわつく。


「だって、そんな話、ひと言も……」

「お母さんたちが聞かなかっただけでしょ……!? いつも勝手に何でも決めて! それでも今日は我慢しようと思った!」


 ――春ちゃん、実家が嫌だから出てるって話、知ってる?


 昨日、夏海ちゃんが電話で言っていたことが思い出された。


「付き合う友達も高校も大学も! 全部! 今回の話だってそう! あたしは道具じゃない!」


 涙をこぼしながら、柊木ちゃんが席を立った。


 柊木ちゃんと両親の間にある溝は、思ったより深いらしい。


 この前タイムリープが解除されて現代に戻ったとき、結婚までは許してもらえなかった。


 あれは、柊木ちゃんがこの関係のまま俺を実家に連れていったからじゃないのか?


 親が決めた相手、認めた相手じゃないから、結婚までは認められない――。


 年収一千万の条件を出されたときもそうだ。あながち吹っかけた額でもなかったんだろう。

 柊木ちゃんは、お父さんが驚いただけだから、とフォローしてくれたけど。


 柊木ちゃんが心配で俺も席を立った。その途中で、椅子の足を浮かせてブラブラしていた三条坊ちゃんの背もたれに手をかけた。


 簡単に背中からひっくりかえって、物音を立てた。


「痛……っ、ぐふう……」

「さーせん」


 すたすた、と俺は歩き去る。


 柊木ちゃんは、近くの化粧室の出入口の脇でうずくまっていた。


「春香さん」

「誠治君……ごめんね……嘘つけば、納得させられると思ったけど……」


 訊かれたことに対して、誤魔化したり隠したりすることはしていた。

 けど、柊木ちゃんは、自分から俺たちの関係を曲げるようなことを言ったことはなかった。


 柊木ちゃんは、そういう人だった。

 一〇〇%感情先行の女の人だ。

 後先をきちんと考えられるんなら、俺の告白を簡単にOKしたりしなかっただろう。


 手を引いて、人目につかない階段のほうへ歩いた。


「二人で、どこか遠くに行っちゃいたい……」


 俺の胸で柊木ちゃんはまた泣いた。


 逃げたところでいいことなんて何もないだろう。

 友達も家族もいない、そんな俺たちならそれでもよかった。


 けど、現実には柊木ちゃんには両親がいて妹もいるし、俺にだって帰る家と家族がいる。

 仕事があって、学校がある。

 リアルなんてそんなもんで、しがらみばっかりだ。


 俺が本当の青臭い高校生なら、駆け落ちをよしとしたかもしれない。


 それくらい好きだから。


 でも俺は、この(ひと)を幸せにしたい。


 俺たちの未来は明るくて、俺たちに関わってきた人たちも幸せで、バカみたいに甘々のハッピーエンドじゃないと俺は嫌だ。


「……逃げずに、もうちょっと頑張ろう?」


 こく、と何も言わずに柊木ちゃんはうなずいた。


「あ、こいつですよ」


 三条坊ちゃんと柊木ちゃんパパが追いかけてきた。


「庭園で僕を殴ったやつです!」

「……君は?」


 柊木ちゃんパパは、縁のない眼鏡をかけていて、高そうなスーツが決まっているやり手のビジネスマンっぽかった。

 うちの父親とは大違いだ。


「俺……ぼくは、真田と言います……先ほど庭園でそこの方が、この彼女に乱暴をしようとしていたので、止めに入ったんです」


 じろり、と柊木ちゃんパパの目線が三条坊ちゃんへむく。


「い、いや、それは……ハハハ……」

「お父さん、嘘じゃないよ? 本当のことだから。部屋に無理やり連れ込もうとしたり、太もも触ってきたり……」


 じりじり、と三条坊ちゃんがあとずさり、逃げ出した。

 それを見届けて、柊木ちゃんパパが頭を小さく下げた。


「娘を助けてくれてありがとう」

「いえ……」

「それでまた君は……真田君は、泣いている娘のところに現れて、慰めている。ヒーローか何かじゃあるまい」


 おまえは誰だ、と柊木ちゃんパパが言外に話しかけている。


「ずいぶん若いようだけど、高校生かな」

「はい」


 たまたま居合わせた通りすがりで――。


 そう口にしようとして、やめた。


 柊木ちゃんは、俺とのことを曲げなかった。

 今まで隠しはしたけど、関係に嘘はつかなかった。


 ひと言嘘をつけばかわせた場面でも、柊木ちゃんは逃げなかった。

 それは、芯の強さで、誠意で、俺と付き合っていく上での覚悟だ。


 俺にだって、同じ覚悟はある。


 隠しもするし、かわしもする。けど、曲げることはしたくない。


 俺たちは、恥じることは何もしてない――。


 柊木ちゃんパパの真摯な眼差しが訊いている。おまえは誰なのか、と。


 その目をまっすぐに見つめ返す。胸を張る。

 励ますように柊木ちゃんが俺の手を握った。


「ぼくは――俺は、真田誠治と申します。春香さんと、真剣に交際させていただいています」

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